怪しい子
家の裏手にある風呂窯にマキをくべていると、聖史が裏口から顔を覗かせた。
「おじいちゃん、今日の晩ご飯なぁにぃ?」
聖史はそのまま老人の傍まで行くと、老人の右手を掴み、自分の頬へとあてがった。
突然の質問に、老人はどう答えたものかと迷ったが、
「ん? ……そうじゃなぁ、聖史は、何が食べたい?」
聖史の頭にポンと手を乗せ、逆に聞き返した。
「えっとね、おじいちゃん」
「えっ……。何だって?」
屈託のない笑顔で答える聖史の言葉を聞いて、何かの聞き間違いかと思い、老人は聞き直した。
「だからね。おじい……ひゃむ」
「何してるの聖史! おじいちゃん困ってるでしょ!」
突然飛び出してきた手に口を塞がれ、びっくりしたような顔をした聖史だったが、伴子の顔を見て逃げるように去って行った。
「ごめんね。お父さん。また、訳の分からない事言ったでしょ」
「いや。大丈夫だよ。聖史が、晩御飯を楽しみにしていたぞ。孫に期待されると頑張らないといけないな」
「もう! お父さんたら。……ふふっ。……でも、ごめんね。こんな事になって……」
「ん? 何じゃ?」
明るく振る舞っているが、どこか悲しそうに俯き加減で話す伴子を見て、老人は少々不思議に思えた。
「ううん。何でもない。何か手伝う事があったら言ってね」
伴子は、申し訳なさそうに言い残して、聖史の後を追って行った。
『あやつ、何か隠しておるな。聖史も、おかしい。いや、伴子もおかしいのかもしれん。これは、わし一人では危ないかもしれんな。……大阪で、……確かアレの感染者が出たと、ニュースでやっておったな。一応、何かあった時の対策をしておくか』
老人は、マキをくべる手を止め、一人でぶつぶつと言いながら、電話の方へ歩いて行った。




