大明連大覚
AIに書いてもらいました。意味の分からない箇所もあると思います
配信スタジオの照明が、灰色のセットに白々しく反射していた。壁には手描き風のロゴ――『アメリカンブーツチャンネル』。二台のカメラが、対面に座る二人の男を挟んで据えられている。
一人は高梨彰人。四十二歳。累計一千二百万部を売り上げた大ヒットファンタジー作家。
もう一人は、芸人アメリカンブーツの淳。ピン芸人として鳴かず飛ばずだった時期を経て、いまや登録者百八十万を誇る対談チャンネルの主。今日のゲストブッキングは、テレビ局のワイドショーが束になっても取れなかった大物だった。
「まさか本当に来てくれるとは思ってなかったです」
淳が苦笑いを交えて切り出すと、高梨は薄く笑みを返しただけだった。
「逃げても仕方ないので」
「ですよね。……じゃあ、単刀直入に聞きます。高梨彰人と、大明連大覚。同一人物で間違いないですか」
「間違いないです」
カメラの向こうで、スタッフの誰かが小さく息を呑む気配がした。すでに週刊誌が書き立て、本人の事務所も認めざるを得なくなっていたことではあったが、本人の口から直接聞くのでは重みが違う。
大明連大覚――成人向けのWEB小説投稿サイトに、高梨がある時期からひっそりと投稿を始めた別名義だった。
当初は誰も気に留めなかった。だが、ファンタジー作家としての高梨の文章の癖、比喩の選び方、登場人物の名付けのパターン――熱狂的なファンがその痕跡に気づき、ネット上で「これ、高梨彰人じゃないか?」と騒がれ始めた。
その噂がきっかけとなり、中高生のファンまでがこぞってその成人向けサイトへ流れ込んだ。
そこで書かれていたのは、王道ファンタジーとは正反対の、あまりにも凄惨な世界だった。施設育ちの少女たちが過酷な工場労働に従事させられ、絶対的な支配者である工場長に踏みにじられていく――逃げ場のない暴力と人間の尊厳の欠如を描いた、あまりに過激で倫理観を揺さぶるダークファンタジー。
やがてそれは書籍化され、三百万部というライトノベル業界では異例の数字を叩き出すと同時に、「憧れの作家の作品だと思って読んだ十代のファンが深いトラウマを抱えた」として大炎上する事態となったのだった。
「僕、実はずっと高梨さんのファンなんですよ。台本用の建前じゃなくて、マジで」
「知ってます。前にラジオで言ってるのを聞きました」
「じゃあ話が早い。移動中とか、ずっと高梨さんの本読んでました。『月影の継承者』とか、何回読み直したか分からない。……で、正直に言うと、大明連大覚のあの問題作も、読んだんです」
高梨は初めて、わずかに眉を上げた。
「感想は」
「過激でした。率直に言って、テーマも内容もかなりキツかった。でも――」淳は言葉を選ぶように間を置いた。「面白くなかった、とは言えなかったんですよ。文章の力とか、絶望を描き切る技術とか、そこは高梨さんのままだった。だからこそ、余計に始末が悪いというか」
「それは褒め言葉として受け取っていいんですか」
「半分は。半分は、僕自身も混乱してるから出てくる質問として聞いてください」
スタジオの空気が、どこか緊張感を孕んだものに変わっていく。淳は台本の紙を一度めくり、それを脇に置いた。ここからは台本なしで行くという合図だった。
「高梨さんの王道ファンタジーを読んで育った子供たち――正確には中高生の読者ですね。彼らが名義の噂を聞いて大明連大覚の作品に手を出して、精神的にきつい状態になったり、学校に行けなくなったりしたケースが報道されてます。これについて、どう思ってますか」
「胸は痛みます」
即答だった。淳はその速さに、少し面食らったようだった。
「……思った以上にはっきり言うんですね」
「痛まないわけがない。僕の名前を追いかけて、僕の作品を好きだと言ってくれていた子が傷ついた。それは事実として重いです」
「じゃあ――」
「でも」高梨は淳の言葉を遮った。「大明連大覚としてあの作品を書いたことを、後悔しているかと聞かれたら、してません」
淳は椅子の背もたれから少し身を起こした。
「それは、どうしてですか」
「僕は高梨彰人として、光のある物語を書くのが好きでした。でも、人間や世界には容赦のない影の部分もある。大明連大覚として書いたあの凄惨なドロドロしたものも、同じくらい本気で、自分の中から絞り出したものです。表現者として、あれを書かずにはいられなかった」
「でも実際には、別名義にしたところで噂が広まり、境界線なんてなくなってしまった。結果として、施設で虐げられる少女たちを描いたような劇薬が、心の準備ができていない子供たちの手に渡ったわけです」
「はい。そこは僕の想定が甘かった。別名義にすれば棲み分けができると思っていた。無防備な子供たちに届いてしまうリスクを甘く見ていたのは、僕の明確な落ち度です」
「落ち度は認める。でも、作品を生み出したこと自体は撤回しない、と」
「そうです」
淳は少し黙った。カンペを出すスタッフの手が止まっている。誰も次の展開を読めていない。
「じゃあ聞き方を変えます。もし今、目の前に『高梨さんの作品だと思って読んだらトラウマになって、学校に行けなくなった』という子がいたとしたら、高梨さんは何て声をかけますか」
高梨は初めて、視線を少し下に落とした。答えを探しているというより、自分の覚悟を確かめるような短い間まだった。
「――僕は変わったんだ、と言います」
「変わった?」
「作品も、作家も、同じ場所に留まり続けることはできない。光を書く僕もいれば、容赦ない影を書く僕もいる。ファンタジーを書いていた頃の僕を好きでいてくれた人が、今の僕の表現を受け入れられないのは当然です。読者は、作家の変化に付き合う義務なんてない」
「でも、その変化を知らずにショックを受けた子は、現に今も苦しんでいるわけですよね」
「だからこそ言います」高梨は淳の目をまっすぐ見据えた。「つらいなら、無理して読まなくていい。僕の過去作だけを好きでいてくれていいし、嫌いになったなら僕の本を全て捨ててくれて構わない。自分を守るために、僕から離れてほしい。……気に入らないなら、読まなくていいんです」
言い切った瞬間、スタジオの空気が一段と冷たくなった気がした。言葉の表面だけをとれば、突き放した冷酷な発言にも聞こえる。淳は片手で顎を触りながら、しばらく高梨を見つめていた。
「それ、そのまま放送したら相当叩かれますよ。『被害者への居直りだ』って」
「叩かれる覚悟でここに来ています。綺麗事の謝罪を口にして、自分の作品を否定するような嘘をつく方が、僕を信じてくれた読者に対しても、作品に対しても不誠実だと思うので」
「……」
淳は小さく息を吐いて、それから初めてくしゃっと笑った。
「正直、その答えを待ってました。取り繕った謝罪会見みたいなやつだったら、この対談、僕の方からカットしてましたよ」
「淳さんも大明連大覚、読んでよかったと思ってる口ですか」
「よかったとまでは言わないですけどね」淳は肩をすくめた。「でも、どれだけ過激な毒だと分かっていても、圧倒されて惹きつけられてしまうものを、面白いと認めることに僕はあんまり躊躇いたくないんですよ。芸人として」
カメラは回り続けていた。編集で切られることのない、二人の男の間の、深い沈黙も含めて。
対談動画が公開されたのは、その三日後だった。
案の定、タイトルと切り抜きだけを見た層からの反発は激しかった。「開き直りだ」「無責任」「子供を傷つけておいてその言い草か」――コメント欄の上位には、激しい批判の言葉が並んだ。SNSでは「#気に入らないなら読むな」というハッシュタグがトレンド入りし、炎上は最高潮に達した。
だが数日が経つ頃、コメント欄の様相が少しずつ変わり始めていた。
目立つようになったのは、明らかに十代ではない、落ち着いた長文のコメントだった。
『大明連大覚の作品、読みました。不当に虐げられる少女たちの絶望を描く、あの容赦のなさは凄まじい。人間性の醜悪さをここまで描き切れる作家だとは思っていなかった。過激だけど、あれは絶対に逃げてない小説だった』
『四十を過ぎてから読む小説にあんな衝撃を受けるとは思わなかった。高梨さんには、これからも書き続けてほしい。ファンタジーとは別の名前でもいいから』
『子供が読んで傷ついたのは事実として痛ましい事故だと思う。でもそれと、あの作品自体の価値は別の話のはず。大人向けの文学として、素晴らしい作品だったと言わせてほしい』
『『月影の継承者』を子供の頃に読んで、大人になって大明連大覚を読んだ。同じ人間の中に、あの眩しい光とこの深い闇の両方があったんだと分かって、むしろ鳥肌が立った』
そうしたコメントは、決して全体から見れば多数派ではなかった。だが着実に数を増やし、やがて「高評価」の数と共にコメント欄の一角に、静かで確固たる塊を作っていった。
淳はある夜、配信の合間にそのコメント欄をスクロールしながら、一人で小さく笑った。
誰も彼もが同じ声で語っているわけではない。傷ついた子供たちの悲鳴も、怒る大人たちの声も消えたわけではない。ただ、そのすべてが同じ画面の中に、消されることなくただ並んでいた。
それだけで、対談をやった価値は十分にあった。




