夢
最近、眠りが浅い。
仕事は忙しく、慣れない家事にも苦戦しているからだろうか。
覚醒する度に強めの酒をストレートで流し込み、
眠ったのかどうかもわからない時間が続いた。
——夢を見た。
最初は家の中だった。
台所の蛍光灯が点滅していて、空気が少し焦げくさい。
母が封筒を開けようとしていた。
妹がその横で無言で立っている。
向き合っているみたいだが、顔がよく見えなかった。
「何してるの?」と声をかけると、
母がゆっくり振り向いた。
「妹が持ってきたのよ。手紙」
妹は何も言わない。
ただ、薄く笑っている。
頬がこけて、目の焦点が合っていない。
料理に使っていたであろう包丁で開封しようとする母に「包丁で開けてたら危ないよ」と言いかけたとき、
母は包丁を封筒から逸らし、妹の手首を切った。
——スッ。
切り口からは血が出なかった。
代わりに、薄灰色の煙のようなものが流れ出て、
天井に溶けて消えた。
「母さん、なにを——」
言いかけた瞬間、二人はもういなかった。
テーブルの上に封筒だけが残っている。
15-6...
なにか見覚えのある数字だが煙と共に封筒も消えていった。
怖くなってリビングに逃げると、
テレビがついていた。
映っているのは見覚えのない道路。
アスファルトの真ん中に、先程見たような封筒が落ちている。
風に煽られて、ゆっくりと手前に滑る封筒——
突如、画面の中から音がした。
——キイイイ……ドンッ。
車のブレーキ音と、鈍い衝突音。
それがやけに生々しく響いて、思わず耳を塞ぐ。
——車の運転席。
テレビを見ていたはずの目に映るのは見慣れた道。
夢の中だと、すぐにわかった。
けれど、ハンドルの冷たさや、
ミラーに映る自分の顔は妙に現実的だった。
エンジンをかけて、見慣れた道を曲がると、
そこには見慣れない風景が広がっていた。
どこかで見た気もするが、思い出せない。
道路脇には、母と妹が立っていた。
遠くて顔は見えないが、二人とも手を振っている。
伸びた影の手だけがこちらに伸びてきていて、逃げるようにアクセルを踏む。
そのまま車を走らせると、道の両側に沢山の人が並んでいた。
どこかでイベントでもやっているのだろうか?
年寄り、子ども、学生、誰もが無表情で、
ただこちらを見ていた。
通り過ぎるたびに、
窓の外で「帰れ」と小さく口が動く。
——誰の声も出ていない。
それでも耳の中でははっきりと聞こえる。
「帰るって……どこに?」
そう言った自分の声が、車内で反響する。
ブレーキを踏んでも、車は止まらない。
むしろ、勝手に速度を上げていく。
ライトが照らす先に、
杖を振り上げた老婆が立っていた。
避けようとハンドルを切ると、
助手席の窓に同じ顔の老婆が張りついて笑った。
その笑顔の口元から、噛み潰された封筒が転がり、
窓を越えて席の上に——
——ドンッ。
衝突音。
全身が揺れて、暗闇が落ちた。
目を開けると、布団の中。
息が荒く、喉が焼けるほど乾いている。
枕元のコップを手に取り、一口飲む。
「……うえっ」
昨日の酒だった。
まだ体が冷たい。夢の感触が抜けない。
テレビをつける。
キャスターの声が耳に刺さる。
「今朝七時半ごろ、○○区でひき逃げ事件が発生しました。
近隣住民によると、車は蛇行を繰り返していたとのことです——」
その声が、どことなく母の声に似ていた。
映像の後ろ、画面の端に封筒が落ちていた気がして、
目を凝らすが、もう消えている。
部屋は静かだった。
家中どこからも音がしない。
「……そういえば、まだ誰も起きてきていないな。」
振り返ったテーブルの上に、
濡れた封筒が一枚、置かれていた。
初めての投稿でこんな駄文を載せるのもどうかと思いましたが、
最近車が言うことを効かない夢を見る事が多く、「何かを意味してるのかなぁ」などと考えながらも特に調べることなく創作物にしてみました。




