表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨男

作者: 戯言士

 団塊ジュニア世代ってのは結構ヤバい世代らしい……。

 2025年6月13日 金曜日 深夜、某県某市の公園にて男性の死体が発見された。

 雨水(うすい)幸助 53歳。住所不定 無職。いわゆるホームレスというやつだ。


 ホームレス状態が長期にわたり、役所が住民票上の住所に住んでいないと判断した場合、住民票が職権で削除される。印鑑登録証やマイナンバーカードも自動的に失効となる。

 これは『住民票の職権消除』と呼ばれ、こうなると様々な行政サービスが受けられなくなる。

 まあ、自治体の住民としては扱われなくなるため、住民税や健康保険料の支払いは不要になるのだが……。


 住所不定となると住民票が取得できなくなるため、選挙権の行使、印鑑証明の取得、各種手続きなどができなくなる。

 運転免許証の更新や、借入時の審査など、住所を提示する必要がある手続きに影響が出る。

 給付金や年金などの受給手続きに影響が出る。

 生活保護は住所がなくても申請できるが、受給開始には住所を確定する必要がある。


 一応住所なしでも仕事はできる。 しかし、身分証明書や携帯を持っている場合とそうでない場合では、応募できる企業に差が出てくるし、就職しても住所がないと企業に怪しまれ信用されない。結局は就職は無理なのだ。


 そんな彼らに対し世間は冷たい。

『浮浪の罪』というものが軽犯罪法で定められていることをご存じだろうか。 「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」(同法1条4号)に対し、拘留刑(1日以上30日未満の身柄拘束)や科料刑(1万円未満の強制徴収)を科すというやつだ。

 全くナンセンスな法だ。()()()()()()()者からいかにして科料を徴収するというのか。故に拘留刑が前提なのだろう。


 雨水(うすい)幸助の最終学歴は普通科高校卒業で、その後は地元の大学を三浪。

 当時は大学志願者のほぼ半数が不合格。彼もその例に漏れなかったわけだ。


 結局は諦めて就職を目指すが、時はバブル崩壊後の就職氷河期。団塊ジュニア世代には辛い時代。時期の新卒就職率は80%から60%まで低下しており、新卒生の20~40%が就職難民になったという。非常に厳しい就職活動の結果、ニートや引きこもりを大量発生させ、現在にも尾を引く社会問題となっている。


 辛うじて零細企業に就職。

 だが給与は殆ど上がらない。

『厚生労働省「厚生労働白書」令和時代の社会保障と働き方を考える』によると、平均給与は1992年をピークに下がり続けているという。

 結婚すれば子どもも生まれ、お金もかかるだろう。だのに年収が上がらないとあれば老後の蓄えも貯まることはない。こんな未来ではとても結婚なんて考えられない。

 そんな中バブルの恩恵を受けた先輩たちの武勇伝を飲み屋で聞かされる。これが団塊ジュニア世代の日常であった。


 そして迎える50歳前。昇進できても大した昇給はない。ただ責任だけが重くなる。

 それでもと会社に留まるも、年々と退職金は減少していく。

 尽くせども報いられることはなく、都合によって泥を被ることもある。

 まるで便所で使われる塵紙のように他人の尻を拭い忌み嫌われるようにに棄てられ、全てが水に流すように忘れ去られる。


 そして待ち受ける2040年問題。

 団塊ジュニア世代が65歳になる2040年以降、高齢者人口がピークとなり労働人口が激減して労働力不足が深刻になるという。年金や医療費などの社会保障費が増大することが予想される政府の財政。これに対応するべく年金の支給開始年齢が引き上げられていく。

 退職後再就職できなかった者たちは退職金を取り崩して生活することとなる。薄く期待できない社会保障の中で。


 老いた親の介護を終えた頃、自身の衰えを自覚するようになってくる。僅かな貯蓄の尽き果てた頃に。


 金が無ければ住む場も追われる。

 老いては仕事もままならない。

 頼るべき身寄りは誰もいない。


 流れる時の中、彼は人の世の無情を悟る。

 降り頻る雨に打たれながら。

 50代で老いっていうのはちょっと早過ぎだったかも……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
働けど、働けど、我が暮らし楽にならざり…… ぢっと、給料明細を見る
リアルですね…… ついつい目を逸らしがちですが、明日は我が身だと改めて思いました。 読ませていただきありがとうございました。
うわ、ヒドい! ってこれ、名前以外は普通にリアルガチな話だ…………! 夢も希望もあったもんじゃないなあ…………。 まあ、そんなリアルをすでにある程度の体験はしている訳だけど。…………はあ………。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ