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第8話 誤算

 なんでだろうな。

 休日に屋敷のベッドに寝転がりながら、俺は頭を抱えていた。


 この世界で魔神を相手にするためには、主人公であるリアンの活躍が不可欠だ。

 そして、完全復活した魔神を倒すためにはリアンがハーレムルートに突入しなければならない。

 だからこそ、俺はリアンがハーレムルートに行けるように最初のヒロインであるファスタフとの仲人になるべく二人に本編であったように嫌味を言いまくっていたのだが、なぜか二人の仲は急接近どころかちょっと会話をするくらいの友人に収まっているのである。


 これはおかしい。

 何らかの陰謀に違いない。

 そんな距離感でいられると普通に世界が滅亡に向かってしまうので、俺はどうにかテコ入れをしないといけない。


 いけないのだが、どうやってテコ入れをすればいいのか、これがすっかりさっぱりまったく全然わからない。

 (オーレウス)は、最序盤チュートリアル兼序盤ボスの役目を担うが、平民上がりのリアンに嫌味を言ってくる以上の関わりはないのだ。リアンとファスタフは最初の邂逅を持ってその後のストーリーではずっと一緒だというのに、現在の二人を見ているととても本編のように仲良くしているとは言い難い。


 そういうわけで、俺はエリーに相談してみることにしたのだ。

 エリーは俺のメイドだし、学園に来ることもない。であればまあちょっとくらい変な相談をしても大丈夫だろうという判断からだ。


 アフタヌーンティーへと洒落込み、俺は彼女に淹れてもらった紅茶を片手にこう切り出した。


「うちの学園に、ちっこい平民と魔法の使えないエルフがいるんだが、この二人を仲の良い友人にするにはどうしたらいいと思う?」


「えぇ? 全然意味がわからないんですけど……」


 何言ってんだコイツ的な顔で俺を見てくるエリー。


「とりあえずもう少し詳しく説明してもらえませんか?」


「よしきた。どこから説明したものか……」


 ゲームがどうのこうの、魔神がどうのこうのと言っても、頭がおかしくなったと思われるのは間違いない。

 とりあえず俺が相談したいのは、リアンとファスタフの仲の深め方だ。とりあえず、本編のように(オーレウス)がやったことをなぞってみたものの、それが上手くいかなかったことを相談したい。


 二人にきつく当たったのは、ゲームの通りなんですと言っても、聞く側からすればそれもおかしな話だ。


「まあ、そうだな……俺には聞くに涙語るに涙ののっぴきならない事情があって、さっきの二人を友達以上恋人未満くらいの関係にしなければならないんだが……」


「一番聞きたいとこすっ飛ばしました?」


「どうもその二人が知り合い以上友達未満くらいの関係でしかないんだ」


「一番聞きたいとこすっ飛ばしましたよね」


「だから俺がそれとなくさりげなく二人の仲を進めたいんだが、ちょっとした問題にぶち当たってしまってだな。そこでエリーのお知恵をちょいと拝借したいというわけだ」


「一番聞きたいとこすっ飛ばしたのに、知恵だけ貸せっていうんですか?」


「そうだ」


 脛を蹴られた。

 痛い。


「はあ」


 物凄く長いため息をついた挙句、心底呆れた目を向けるエリー。


「まあ、聞いてあげますけど。で、ちょっとした問題ってなんですか?」


「俺がその二人に間違いなく嫌われているということだ」


「?」


 ぽかん、と不思議そうに首を傾げる。珍しい表情だ。悔しいが可愛いと言わざるを得ない。


「あの、えー、ちょっと整理させてほしいんですけど、そのお二方のどちらかとご友人、なんですよね? 喧嘩してしまったとかそういうことで仲が悪くなっただけで」


「いや、初対面のときから嫌われてるはずだ」


 バチコン!

 軽快な音ともに俺の頭がはたかれた。

 結構痛い。


「何をしたら初対面で嫌われるんですか二人にも!? で、そんな二人の間の仲を取り持つのも意味がわからないんですけど!?」


「何って、平民上がりと魔法の使えないエルフにその事実を言っただけだが……?」


 俺の頭から再び軽妙な音が響いた。

 しっかり痛い。


「バカチン! 嫌われた理由はどうでもいいんですけど!」


「か、仮にも主人に向かってお前……」


 頭をさする。たんこぶになってないかな。


「……オーレウス様がトチ狂ってるのは昔からですけど、そんなことをやってどうしようって言うんですか」


 ギロリとねめつけられた。

 少しくらい本当のことを言わないと彼女の協力を得られないかもしれない。エリーは知る由もないが、世界が滅ぶか滅ばないかの重要な岐路に立たされているのである。


「信じられないかもしれないが……二人の仲を取り持つことが、巡り巡って世のため人のためになるんだ」


「なるわけないでしょう」


「なるんだ」


 本当だもん。魔神を倒すためには二人の、というかハーレムを築いたリアンの力がいるんだもん。

 しかしながら、色々ぼやかしながらにしか口にできない俺の言葉には信用できる要素といものが一切合切ない。エリーの視線は絶対零度で、もしも視線に物理的な力があれば俺の体には大きな穴が空いていることだろう。


 そんな彼女の目に気圧されて、きょろきょろと視線を彷徨わせる。なんだか悪いことを咎められているような気分だ。俺はまったく悪いことをしていないというのに。

 沈黙の後、長い長いため息をついて、エリーが言う。


「まあ、私はオーレウス様のメイドですから、オーレウス様がどうしてもというなら知恵を授けてあげるのもやぶさかではありませんよ」


「どうしても!」


「う~ん、ま、いいでしょう」


 相談相手、ゲットだぜ。

 とにもかくにもこれで、俺はリアンとファスタフの仲を進展させるための新しい風を取り込んだのである。


「で、嫌われ者のオーレウス様が、どうやってその二人の仲を取り持つか、ですよね」


 ぐさぐさぐさり。

 何も選んでいないエリーの言葉が俺にクリーンヒット。

 とはいえ俺に意地悪を言おうというわけではない。


「まずは、その二人と仲良くなるところからなんじゃないですか?」


「それはできない」


 (オーレウス)は序盤ボス。主人公に立ちふさがる壁にして、主人公とヒロインの仲を進めるための踏み台なのである。そんな俺が主人公とヒロインと仲良くなってどうするというのだろうか。

 というか、こんなに色々言ったのに、今更仲良くなんてどの面下げてという話である。


「でも、二人とオーレウス様が気安く話せる関係になれば、自然とその近くに集まって仲良くなれると思いますよ」


「一理ある」


「ほら!」


「だが、できない相談だ」


 せっかく相談に乗ってやったのになんなんだこいつは、とでも言いたげな顔をするエリー。


「せっかく相談に乗ってあげたのになんなんですかオーレウス様は」


 ドンピシャ!


 冗談はこのくらいにして、しかしここから入れる保険がないくらいには今から二人と仲良くするのは無理だろうと感じている。

 理由の一つはわが身が可愛いという点だ。あれだけ嫌味にあたって来たやつが、それから急に友人面してきたら鼻が陥没するくらい殴られても不思議ではない。ファスタフの膂力なら鼻とは言わずもっと陥没してもおかしくない。


 もう一つの理由として、今後、俺がボスとして立ちふさがるのにお互い嫌い合っているという状況が都合がいいのだ。俺が特訓を続けているのも、リアンたちに嫌われてしまいたいのも、すべては序盤ボスとしての面目を保つためだ。


「まあちょっと、諸事情あってだな……」


「ほらまた一番聞きたいところだけすっ飛ばす。まあいいですけど。じゃあ二人には共通の話題を提供する方向にしましょう」


「ほう?」


「幸い、二人に共通する話題が一つだけありそうですし」


 こ、これだけの話でそんなところまで辿り着くなんて名探偵か?

 俺は尊敬のまなざしでエリーを見つめた。


「いいですか、オーレウス様。魔法学園の一年生は、そろそろダンジョンで魔物を倒す実習があるはずです。そこで、例の二人と一緒にダンジョンに潜るんです」


「えっ、いや、しかしその二人には嫌われているから一緒に行ってくれるかというと」


「もー、そのくらいはなんとかしてください! それで、その実習でオーレウス様はふんぞり返ってすべてを二人に任せてください!」


 すべてを人任せに!?

 そんな無責任なことをしてどうなるというんだ。

 俺は疑惑のまなざしでエリーを見つめた。


「いいですか。そうすることによって、オーレウス様は二人からそれはもうひどい陰口を言われるでしょう」


「ま、まあそうだな」


「つまり!」


 エリーが俺に向けて人差し指を突き出す。


「人に指を向けるんじゃない」


「あ、ごめんなさい」


 咳払い一つ。


「つまりですね。貴方はクソだ、という共通の話題で二人に仲良くなってもらいましょうという話です」


「なるほど。完璧な作戦だ」


 俺の心が滅茶苦茶痛いという点に目をつむれば。まあ、二人には常々悪口を言っているので自業自得か。


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