交わる視線、交差する想い
クロエ邸の広いリビングに、みんなが自然と集まっていた。
「じゃあ、まずは苦手科目を申告しよっか!」
拓海がペットボトルを手にしながら、わざと明るい声を張り上げる。
でも、その顔にはすでに危機感が滲んでいた。
「俺、英語と数学がマジで終わってる……」
「……だろうな」
真哉がすかさず突っ込む。
「文化祭の準備で浮かれてたもんな。勉強?なにそれ?って顔してたし」
悠斗も苦笑してプリントを机に並べながら言った。
「まあ俺も英語苦手だけど、まだ理系はなんとかなるかも」
「私も英語ダメ~」
瑠奈が両手を挙げて笑う。
「もう、アルファベットからやり直したい」
その明るさに、千花もふわっと微笑んで頷いた。
「うん、私も英語ちょっと苦手……」
一方で、クロエは教科書を広げながら、さらりと言った。
「私は国語が少しだけ苦手。でも、理系科目は大丈夫」
そんなクロエを、拓海はこっそりと横目で見ていた。
(やっぱりクロエ、完璧だな……)
文化祭のミスコンで見たあのドレス姿から、ずっと意識してしまっている自分に気づきつつ、拓海は無理やり目をそらした。
「英語、そんなにみんな苦手なんだな」
そこで、静かに西園寺海翔が口を開いた。
「……帰国子女組、出番だな」
海翔はクロエに視線を送る。
「クロエ、どうする? 英語担当、やる?」
「ええ、もちろん」
クロエは軽く頷き、教科書を手に取った。
「じゃあ、海翔と私が英語を教えるから、分からないところあったらどんどん質問して」
「うおっ、マジ!? 神か!」
拓海が感動したように叫ぶ。
「クロエ先生に海翔先生……これはもう頼るしかねぇ!!」
クラスの空気が一気に明るくなった。
「陽真も、頑張ろうね」
隣に座ったみつばが、にっこりと微笑む。
陽真は少し戸惑いながらも、頷いた。
その視線を、そっと一条陽菜が見つめていた。
(やっぱり……春川くん、優しいから)
陽菜は小さな胸の奥に、またひとつ小さな感情を抱え込んだ。
そして、ほんの少し離れたところでは南條美佳も。
「春川くん、あとで数学一緒にやろうね……!」
おずおずと言いながら、期待に満ちた目を向ける。
陽真はそのまなざしを受け止めながら、小さく笑った。
「うん。一緒にやろう」
そんな陽真の様子を、真哉と悠斗がこっそり観察していた。
「……春川、リア充だな」
「だな。気づいてないけど、完全に」
二人は顔を見合わせ、ひそひそと笑い合った。
「ほらほら~、勉強始めるよ~!」
瑠奈が元気よく場を仕切り、ようやく本格的な勉強モードへと突入した。
テーブルの上にはノートや参考書。
けれど、それ以上に――
交錯する視線、すれ違う想いが、目には見えない熱を灯していた。




