勉強会、それぞれの理由
放課後、チャイムが鳴った教室に、いつものざわめきが戻り始めていた。
そんな中、教壇に立った荒木先生が、手に持った出席簿をぱたんと閉じる。
「お前たち、来週から中間テストだぞ。……わかってるな?」
一言、淡々とした口調。
教室中に小さなどよめきが広がる。
「え、もう中間!? 早くない!?」
最初に声を上げたのは、東雲拓海だった。
机に突っ伏して、「無理無理無理……」と呻いている。
「拓海、日頃からちゃんとやってないからだよ」
呆れたように高槻悠斗が言うと、拓海は泣きそうな顔で振り向いた。
「やばいって! マジでやばいって! ……なあ、誰か、勉強会とか、やんない?」
その提案に、何人かが顔を見合わせた。
すると、白井瑠奈が手を挙げる。
「いいねいいねー! みんなでやったら楽しいし、やる気出るかも!」
「私も、勉強苦手だし……やりたいな」
桃井千花も、ふわりと笑いながら賛同する。
「春川も、来いよな!」
村上真哉が陽真に親指を立てる。
「ああ……うん。俺も、そろそろ真面目にやらないと」
陽真は、苦笑いしながら頷いた。
その隣で、一ノ瀬みつばも小さく笑う。
「私も参加するー! 一人だとサボっちゃいそうだし」
いつもクールな黒崎クロエも、教科書を閉じながら顔を上げる。
「……どうせ一人でやるつもりだったし。問題ないわ」
クロエの意外な乗り気に、周囲が少し驚く。
「でもさ、どこでやるの?」
南條美佳が首をかしげた。
「学校は無理だよね? 放課後は施錠されちゃうし」
「誰かの家……?」
瑠奈が言うと、真哉が手を挙げる。
「うちは妹が騒がしいから無理だわ」
「私んちも、ちょっと狭いかも」
千花も困ったように笑う。
「……うちも無理だな」
みんなが口々に事情を語り、教室に少し困った空気が漂う。
そのとき。
「うちに来る?」
さらりと、クロエが言った。
全員の視線が、一斉にクロエに集まる。
クロエは、何でもないような顔をして教科書を鞄にしまっていた。
「え、クロエんちって……」
「もしかして……」
瑠奈と千花が顔を見合わせる。
「場所なら、十分あるから。気にしないで」
クロエはそう言って、鞄を肩にかけた。
「それに、せっかくみんなで勉強するなら、快適な方がいいでしょ?」
「ま、マジか……!」
拓海が感動したように拳を握りしめる。
「クロエ、女神かよ……!」
少し引きつった笑顔で、クロエはため息をついた。
「……そこまで感動すること?」
「するよ!!」
拓海が食い気味に返すと、教室に笑い声が広がった。
「じゃあ、クロエの家に決定だね!」
瑠奈が元気よくまとめると、美佳もにっこりと笑う。
「楽しみだなあ。みんなで勉強会なんて、なんだか青春って感じ!」
そのタイミングで、西園寺海翔が教科書を閉じながらぼそりと言う。
「……空気読むの苦手だけど。……まあ、一人で死ぬよりマシか」
海翔なりの素直な参加表明に、また笑いが起きた。
そして、静かに席でノートを閉じた一条陽菜が、そっと小さく頷く。
(春川くんと……少しでも話せるかもしれない)
陽真も、自然と笑みをこぼした。
この顔ぶれなら、きっと悪くない。
こうして、週末。
黒崎クロエ邸での、大規模な勉強会が開かれることになった。




