ふたりで、灯す言葉
土曜日の午後。
春川陽真は、自室の机に向かっていた。
窓の外では風が枝を揺らし、時おりカーテンがゆっくりとふくらむ。
机の上には、数冊の小説と、ペン先の乾きかけた万年筆。
そして、その脇に置かれたスマホの画面には、メッセージの通知が浮かんでいた。
『新しい台本、お願いしてもいい?
テーマは“灯り”。……陽真の言葉で、私、もう一度読んでみたい』
みつばからのその言葉は短く、けれど陽真の中で確かな灯をともしていた。
“言葉を渡せる相手がいる”
――それだけのことで、書く理由が生まれていく。
深呼吸をしてから、陽真はノートを開いた。
万年筆の先を紙に乗せる。
『夜の終わりに、火をつける。
寒さを照らすように。孤独を溶かすように。
ひとつの言葉が、誰かの灯りになれば――』
書き出した瞬間、不思議と迷いが消えていく。
彼女の声で読まれると想像するだけで、言葉が形になって流れ始めた。
数時間後。
陽真は書き上げた台本のデータをスマホに転送し、メッセージに添えて送信する。
【遅くなってごめん。書けた。……読んでくれたら、うれしい】
その数分後、既読の表示。
そしてすぐに、返信が届いた。
【ありがとう。……読んで、ちょっと泣いた】
【今日、配信してもいい?】
陽真はスマホを見つめたまま、小さく笑みをこぼした。
【もちろん。声にしてくれるの、うれしい】
同じ日の夜。
みつばは自室の配信スペースに座り、ヘッドセットを装着する。
部屋には柔らかなライト。アバターのミスティが、画面越しに淡く微笑んでいた。
「こんばんは、ミスティです。」
「今日は、静かな言葉を読ませてください。……自分の気持ちを灯すためにも」
コメント欄には、いつものようにリスナーたちの声が次々に流れる。
《最近のミスティ、また言葉が綺麗になった気がする》
《朗読の回、すごく好きです》
《“灯り”ってどんな話なんだろう、楽しみ!》
みつばは一度息を整え、目を閉じてから再び口を開いた。
「“灯り”って、目に見えるものだけじゃなくて。
心の中に灯るものもあると思うんです。
今日は、そんな“灯り”についての、物語を読ませてください」
彼女の声が、静かに、そしてまっすぐに始まる。
『夜の終わりに、火をつける。
寒さを照らすように。孤独を溶かすように。
ひとつの言葉が、誰かの灯りになれば――』
その声を、陽真は自室の暗がりで、ヘッドホン越しに聴いていた。
彼の書いた言葉が、彼女の声にのって、誰かに届いていく。
それはもう、“自分だけの言葉”じゃなかった。
ふたりで、灯す言葉になっていた。
(あの声がある限り、俺の言葉は、ひとりきりのものじゃない)
配信が終わった直後、スマホにみつばからの一言だけのメッセージ。
【これからも、読んでいきたい。君の言葉】
陽真は何度もその文面を見つめ、そして静かに返信を打った。
【書くよ。君の声に、ふさわしいものを】




