ただの冗談じゃ、ないから
――春川くんって、面白い。
それが、南條美佳の第一印象だった。
無口で、あまり目立たなくて。
話しかけても、リアクションが薄くて、たまに目も合わせてくれない。
だけど、たった一言だけ。
何気なく返された言葉が、妙に胸に残ることがある。
文化祭のとき、クラスでばたばたしていた教室で。
美佳は陽真に、ちょっとした冗談を投げた。
「ねぇ春川くん、あたしのこと演出に入れてくれてもいいんだよ? “謎の美女”とかさ?」
みつばが近くにいたから、ちょっとした場を盛り上げるつもりだった。
でも陽真は、軽く笑ってから、こう言った。
「……そういうの、似合いそうだね。何気ないところで、印象残す役」
それが、なんだか。
本当に、ちゃんと見てくれてたみたいで。
からかうつもりだった自分が、逆にドキッとさせられてしまった。
それ以来、美佳はときどき、陽真を目で追うようになっていた。
別に、好きとかじゃない。
ただ、ちょっとだけ気になる。そういうやつ。
今日も、いつも通りに教室で昼休みを過ごしていたとき――
ふと、席の隣の子が口にした。
「春川くん、またいない。どこ行ったのかな」
その言葉に、耳がピクリと動いた。
何気ないそぶりで教室の窓際に寄って、外の中庭を見下ろす。
いた。
ベンチに座って、パンをかじってる。
その隣には……藤井さん。
「……へぇ」
声に出たのは、自分でも気づかないくらいの小さな声だった。
藤井さんは、明るくて話しやすい子。
最近よく陽真と話してるのは知っていた。
でも、今のその距離感は――ただの友達、ではなさそうだった。
ふたりとも、何かを共有しているみたいな、そんな空気。
じわ、と胸の奥に違和感が広がった。
「……なにそれ。ちょっとずるくない?」
口にした言葉は、誰にも聞こえていない。
けど、自分で言って、自分で驚く。
そんな感情、自分には縁がないと思ってた。
たぶん――
ただの冗談じゃ、なかったのかもしれない。
そのとき、ふと視線を感じて教室の入口の方を見る。
みつばが戻ってきていた。
彼女も、きっとわかってる。
気づいたときにはもう、陽真を巡る“輪”の中に、いくつもの気持ちが重なっていた。
これって、恋とかじゃなくても――
ちゃんと、戦いたくなるものなんだね。




