祭りのあと、静けさのなかで
校内放送の最後のチャイムが鳴ったとき、空はすっかり茜色に染まっていた。
文化祭のすべての出し物が終了し、客足も途絶え、会場だった教室や体育館も静けさを取り戻していく。さっきまで人混みでにぎわっていた廊下には、後片付けをする生徒の姿がまばらに残るだけだった。
陽真は、2年C組の教室に戻り、誰もいなくなった机の間を歩いていた。
「やっぱり、教室戻ってきてた」
振り返ると、そこには制服姿のみつばが立っていた。
「みんな、体育館で打ち上げの準備、してるっぽいよ」
「……うん。なんか、まだ行く気になれなくて」
みつばは近くの机に腰をかけ、軽く息を吐く。
「動画発表、すごかったね。全学年でのランキング……うちのクラス、一位って」
「うん。『顔の見えない教室』、評価されてたな。先生たちの投票、想像以上に票割れしてたみたいだけど」
「うん。でも、クロエも真哉くんも、すごい演技してたもんね。あの静かな演出、陽真のアイデアなんでしょ?」
「まあ、アイデアは出したけど……結局、みんながちゃんと“役”を生きてくれたからだよ」
みつばは、ふっと目を細めた。
「……今日の文化祭、全部が“見られるため”だけの演技じゃなかった気がする」
「ん?」
「なんていうか、誰かのための顔じゃなくて……本当の自分を、少しずつちゃんと見せられたっていうか。クロエもそうだったし、私も」
そう言って、みつばは膝に置いた手をぎゅっと握る。
「ねえ、陽真。……ありがとう」
「え?」
「私、ミスティの活動も、クラスのことも、どっちも中途半端な気がしてた。けど、陽真がいたから、ちゃんとステージに立てたし……今日みたいな日を、逃げないで過ごせた」
陽真は机の端に腰を下ろし、少しだけ天井を見上げる。
どう返せばいいかわからなかった。でも、言葉じゃなくても、きっと伝わるものがあると信じた。
「……変じゃないよ。むしろ、今がいちばん落ち着いてるかも」
「うん、私も」
窓の外では、最後の夕日が西の空に沈もうとしていた。
静かな教室。人の気配が少しずつ消えていくなか、ふたりはしばらく言葉を交わさずに、ただその時間を共有していた。
やがて、みつばがポケットから小さな飴玉を取り出した。
「これ、控室でもらったやつ。いる?」
「……もらう」
陽真が手を伸ばすと、みつばはその指先にちょんと飴を乗せる。
指先がわずかに触れ合った。
その瞬間、何かがふわりと通じ合ったような気がした。
「なんか、ごほうびみたいでしょ?」
「どっちが?」
「どっちも」
静かに笑い合ったその瞬間、陽真の胸の奥にあたたかいものが広がっていった。
まるで、ほんの少し先の未来まで、こうして並んで歩いていけるような気がして――
「……行こっか。みんなのとこ」
「うん」
ふたりは立ち上がり、扉のほうへ歩き出す。
夕焼け色の教室を背に、祭りの終わりが、静かに次のページをめくっていく。




