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ステージに、私だけの意味を

放課後、陽真が装飾班の作業机でメニューカードの微調整をしていると、隣の席からそっと声がかけられた。


「春川くん、ちょっと……時間、ある?」


 顔を上げると、そこに立っていたのは一ノ瀬みつばだった。


 教室の斜めから差し込む西日の中、彼女の柔らかな表情がいつもより少しだけ真剣に見えた。


「うん、今ちょうど区切りついたし」


 陽真が椅子を引くと、みつばは軽く頷き、廊下へと歩き出す。行き先は決めているようで、ふたりは言葉少なに屋上へと向かった。


 


 夕暮れに染まる屋上の風が、ふわりと制服の裾を揺らす。


 みつばは、金属の手すりに指をかけたまま、視線を前に向けて言った。


「……ねえ、ミスコンの演出って、誰が考えることになってたっけ?」


「基本は出場者が考えて、希望があれば演出補佐とか、俺が手伝うこともあるって佐伯が言ってた」


「そっか……じゃあ、お願いしてもいい?」


「うん、いいけど。どんなの考えてるの?」


 みつばは、少しだけ唇を噛んでから、口を開いた。


「ただ歩いて、ただ名前呼ばれて、ただ笑うだけの“可愛い”だけじゃなくて……」


「……うん」


「ちょっとだけ、“物語”があるような演出にしたいの。自己紹介のときとか、照明とかナレーションとか、そういうので少し雰囲気を出せたらなって」


「演出っていうより……世界観の演技、みたいな?」


「うん、そんな感じ。上手く言えないけど……ただの“出場者”としてじゃなくて、“私”をちゃんと見てもらえるような演出」


「……飾ってない私。強がってないときの、素のままの自分……かな」


 陽真はしばらく黙って、みつばの横顔を見つめた。


 文化祭の動画撮影で見せた彼女の集中力や表情を思い出す。


「……それ、きっとできると思う」


 みつばがこちらを振り返った。


「……ほんと?」


「うん。舞台の上で言葉じゃなくて伝わるものってある。ミスコンでも、それは演出次第でつくれるはず」


 その言葉に、みつばの肩が少しだけ緩んだ。


「じゃあ、今度、台本みたいなの一緒に考えてみようか」


「……うん」


 夕日が沈みかけた空の色に、彼女の瞳がわずかに揺れた。


 陽真は、ふたりの間に流れる静かな時間を、まるで小説の一節のように感じていた。


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