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熱が残る教室で

 「お疲れー! いやあ、緊張した!」


 撮影が終わった直後、村上真哉の明るい声が教室に響いた。

 額にはうっすらと汗がにじみ、演じきった高揚感がその表情に滲んでいる。


 「……でも、すごかったな、今の」


 陽真はモニター越しの映像を思い出しながら、脚本を胸元にそっと抱いた。

 自分が書いた物語が、“誰かの声”として教室に響いた。その瞬間に立ち会えたことが、胸の奥をじんわりと温めていた。


 「いいの撮れたと思うよ。編集、ちょっと楽しみだわ」


 東雲拓海がモニターを閉じながら、眼鏡をクイッと上げる。


 「SE(効果音)入れるときのタイミング、あとで相談するな」


 「うん、任せる」


 佐伯夏目が短く返しながら、テキパキと機材の片付けに取りかかった。

 その動きに迷いはなく、拓海との連携もすでに息が合ってきている。


 生徒たちは少しずつ自分の班に戻りはじめていた。

 陽真も手元の台本を整えながら、教室の後方――装飾班のエリアへと足を運ぶ。


 そこではすでに岩瀬亜子と秋山涼子が、テーブルの布の再配置について意見を交わしていた。


 「こっちの色のほうが、クロスの柄が引き立つ気がするんだけど……どう思う?」


 「うん、たしかに。明るめの方が、料理も映えるかも」


 そんな会話の合間を縫って、桃井千花が陽真のもとに声をかけてきた。


 「春川くん、お疲れー! ねえ、これ見て! みつばの衣装、ちょっとだけ装飾変えてみたの。レース足して、可愛さ増してみた!」


 肩までのオリーブブラウンのボブがふんわり揺れる。

 千花は手にしたレース布を嬉しそうに広げた。


 「おお、いいじゃん。雰囲気、すごく合ってる」


 「でしょでしょ? やっぱ文化祭ってさ、細かいとこ詰めてくと、実感わいてくるね!」


 陽真も思わず微笑みながら頷いた。


 「うん、やっと“本番”が見えてきた気がする」


 机に戻り、メニューカードの最終調整に集中する。

 フォントを整えたり、料理名の隣に小さなイラストを加えたり。

 そんな地味な作業の中にも、自分なりの“物語”を感じていた。


 そのとき、教室前方がざわつき始める。


 「試食準備できたよー! 接客班はメイド服とカチューシャ着けて!」


 大谷樹の声に反応するように、接客班のメンバーが一斉に立ち上がる。


 クロエは金髪を一つにまとめ、メイド服を身に纏っていた。

 カチューシャも丁寧に装着し、鏡も見ずに立ち上がるその姿には、どこかプロフェッショナルな気配すらある。


(……こういうところ、本当に目を引くんだよな)


 陽真はペンを置き、思わずその背中を目で追っていた。


 その隣では、南條美佳が控えめにカチューシャをつけ、髪をそっと整えていた。

 茶色のゆる巻きが制服の肩にかかり、いつもよりほんの少し華やかさが増して見える。


 「どうかな……似合ってる?」


 「……ああ、すごく似合ってると思う」


 陽真の言葉に、美佳は小さく瞬きをして、ほのかに頬を染めた。


 「そ、そう……? ありがとう。ちょっと、照れるけど……」


(やっぱり、美佳って、表に出るより誰かを支える方が自然なんだよな)


 そんなことを思いながら、陽真は再び視線を下に戻し、作業を再開した。


 文化祭の準備は、着実に進んでいる。


 そして――


 この教室には、誰もが“自分の役割”を少しずつ見つけ始めていた。


第二章終了です。いつも応援ありがとうございます。

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