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光と影、視覚と想いのすり合わせ

 放課後のチャイムが鳴り、陽真は教室の片づけを手早く終えると、脚本のファイルを手に視聴覚室へと向かった。


 廊下にはすでに帰路についた生徒たちの姿がちらほらとあり、空気には少しずつ夕暮れの匂いが混じりはじめていた。


 視聴覚室のドアを開けると、先に来ていた東雲拓海がプロジェクターの準備を終えたところだった。


「お、来たな。じゃ、始めようか」


 拓海はノートパソコンを操作し、クラスで撮り溜めた素材を映像として再生していく。

 陽真は席に座り、流れてくるシーンに目を凝らす。


 教室の中にセピアがかった映像が映し出され、モノクロームに近い画面が物語の静けさと重なっていた。


「……この、階段でのカット、光の入り方すごくいいな」


「だろ? 午後三時ちょうどに撮ったやつ。自然光でこれくらい差し込むと、キャラの影もドラマチックに映えるんだよね」


 拓海の目は真剣そのもので、スクリーンを見つめる姿は普段のふざけた調子からは想像もつかないほどだった。


「ここの編集、セリフを消して間だけ残すってのもありかなって思ってたけど、どう思う?」


「……あり。むしろ、言葉がないからこそ、相手の表情だけで関係性を語れる瞬間になると思う」


「だよな」


 二人の会話はテンポよく続き、シーンごとの見せ方について意見を交わす。


 そのとき、後方のドアが開いて、佐伯夏目がヘッドフォンを首にかけたまま入ってきた。


「ごめん、少し遅れた。今どこまで進んでる?」


「今、階段シーンのカット確認してた。音はまだ仮だけど、間を生かしたいって話してたとこ」


「そっか。セリフなしでいくなら、環境音のほう強調した方がいいかも。靴音とか、遠くの声とか。……静けさって、むしろ一番神経使うんだよね」


 夏目の言葉に、拓海が頷いた。


「さすが。じゃあ、BGMなしでワンカット試すか」


「うん。あとで二通り作っとくから、見比べよう」


 話しながら、みつばと真哉の仮撮り映像が流れ始めた。


 みつばはカメラの前でも自然体で、強さと柔らかさを併せ持つ演技を見せていた。一方の真哉はやや緊張した面持ちだったが、台詞の区切りや目線の運びに彼なりの丁寧さが見て取れた。


「真哉、思ったよりやれるな」


「そうだね。みつばとの掛け合いも悪くない。あともう少し、間の取り方を調整すればぐっと良くなる気がする」


 再生を止め、拓海が画面を閉じる。


「演出って、映像で見るとまた全然違うよな。お前の台本、静かなのに印象が残るの、不思議だよ」


「不思議、か。……でも、そう言ってもらえるのは嬉しい」


 陽真は少し笑った。

 自分の書いた言葉が誰かの手によって映像になり、光と影の中で“かたち”を持って動いていく。それは、文字だけでは決して味わえない感覚だった。


「あとさ……一個、個人的な提案」


 拓海が言った。


「ラストシーンで、演者が無言でカメラを見つめるだけって演出、ありかな? 誰とも話さず、でも確かに物語が終わるって感じで」


「……いいと思う。すごく」


 陽真は深く頷いた。


「そのカット、BGM消して環境音だけにするなら、足音と空調くらいかな。呼吸音は拾いすぎないように注意する」


 佐伯夏目がメモを取りながら言う。


「……任せたよ、夏目」


 静かな熱が、三人の間に満ちていく。


 文化祭に向けた映像制作は、まだ始まったばかり。

 だけど、確かに“伝えたい”という気持ちは、ひとつひとつ重なり始めていた。


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