動き出す、それぞれの文化祭準備
放課後の教室。
黒板の左側に大きな紙が一枚、担任・荒木理子の手によって貼られていた。
【クラス出し物「メイドカフェ」班分け】
接客班、調理班、装飾班、会計・誘導班。
それぞれ5〜6人ずつの名前が並び、陽真の名は「装飾班」の欄にあった。
「ついに始まるか、文化祭準備……」
小さくつぶやいて紙に目をやっていた陽真に、隣から声がかかる。
「春川くんも装飾?」
振り返ると、そこにいたのは岩瀬亜子。
肩にかかるボブカットの黒髪を整えた、清楚な雰囲気の女子だ。
制服の襟元はぴしっと揃っていて、内面の真面目さが外見に滲んでいる。
「うん、得意ってほどじゃないけど……がんばるよ」
「ふふ、私も。でも、なんだか楽しみかもね」
控えめながらも、目元の奥には柔らかい光が宿っていた。
あちこちで班の打ち合わせが始まり、教室は一気に“準備モード”へと切り替わっていく。
「よっしゃー! 調理班、気合い入れていこうぜ!」
そう叫んだのは、真鍋怜央。自ら調理班のリーダーに名乗りを上げた、陽キャ代表格。
彼の周囲には、大谷樹や富樫隼といった男子たちが笑いながら集まり、あっという間ににぎやかな雰囲気ができあがっていた。
「みつば、接客班だって? まあ、当然か」
「うん。メイド服、結構似合うと思うんだよね?」
一ノ瀬みつばがくるっと回って、にこっと笑って見せる。
それを見た男子たちが無言で親指を立てると、本人はいたずらっぽく笑った。
陽真はその様子を遠くから眺めつつ、自分の手元に配られた装飾案用のメモに視線を落とす。
「なぁなぁ、テーブルクロスの柄、どんなのがいいと思う?」
声をかけてきたのは秋山涼子。
黒髪をゆるくまとめたふんわり系の女子で、くりっとした瞳が印象的だ。
「チェック柄とか……落ち着いた花模様もいいかもね」
「なるほど〜。それなら、秋っぽい雰囲気にできそう!」
嬉しそうに頷いた涼子は、スケッチ帳を開いてさらさらとデザイン案を描き始める。
一方、動画担当の東雲拓海は、ノートPCを前に眉間にしわを寄せていた。
「カフェ紹介の映像……オープニングが決まらなくてさ……」
「軽めのジャズ風のBGMとか、合いそうじゃない?」
横から助言したのは、音響担当の佐伯夏目。
耳にかけた短めの髪と、きりっとした横顔が印象的なクール系の女子だ。
「……たしかに。そういう雰囲気、悪くないかも」
アイデアが交錯し、少しずつ空気が熱を帯びていく。
陽真はその様子を見ながら、自然と微笑んでいた。
そのとき――
「春川くん。このテーブル配置、動線的にちょっと微妙じゃない?」
声をかけてきたのは、内海紗月。
腰まである黒髪をきちんと結い上げ、どこか“管理者”のような空気を纏った女子。
目線は鋭いが、それは思慮の深さの裏返しでもある。
「……たしかに。レジと客席が近すぎて、混雑しそうだね」
「でしょ。お客さんが滞留しそうだから、配置自体を少しズラした方がいい」
冷静で的確。彼女の指摘はまるでプロの監修のようで、陽真は自然とその意見をメモに書き足していた。
装飾案が徐々に整理されていく中――
ふと、視線を感じて顔を上げた。
教室の反対側。装飾資料を手にしていたみつばが、陽真と目を合わせる。
言葉は交わさず、ただ軽く微笑む。
それだけで、何かが伝わってくるような気がした。
陽真は小さく息を吐き、メモ帳を閉じた。
こうしてみんなで動くのは、悪くない――
自然と、そんな感情が心の中に広がっていた。




