決戦、クラス出し物会議
翌日のロングホームルーム。
担任の荒木理子が教壇に立ち、黒板に迷いのない手つきで文字を書き始めた。
「さて、文化祭のクラス出し物について決めます。動画とミスコンはすでに動いていますので、今回は“もう一枠”です」
教室に微かなざわめきが広がる。
空調の静かな風音の中、いよいよ始まるかという空気が全体に波及していった。
荒木先生は一歩下がり、腕を組む。
「まず、案のある人は挙手。出し物の種類は自由。ただし、実現可能性を踏まえて意見を出してください」
言い終えるか終えないかのうちに、前方の男子数人が勢いよく手を挙げた。
「先生! メイドカフェやりたいっす!」
「またそれかよ!」
「いやいや、絶対盛り上がるって!」
「他のクラスもやるって! これはもう、乗るしかない、このビッグウェーブに!」
勢いに乗って声を張っているのは、真鍋怜央と大谷樹。
ノリとテンションで押し切ろうとしているその様子に、クラスの半分が苦笑する中、なぜか男子の一部からは真剣なうなずきまで返ってくる。
「他には?」
荒木が視線を滑らせると、今度は女子数人が静かに手を挙げた。
「縁日風の模擬店、どうでしょう。浴衣で統一したら雰囲気も出ますし」
「お化け屋敷も定番だけど、演出を工夫すれば見せ場になると思います」
黒板には順に案が書き出されていく。
メイドカフェ/縁日風模擬店/お化け屋敷/演劇/カフェ&展示
だが、明らかに「メイドカフェ」の一文がクラス全体の注目を集めていた。
「……でも、メイド服って、着るのは女子なんだよ?」
低く漏れたその声に、数人の視線が向く。
発言したのは、内海紗月。腰まで伸びる黒髪をきっちり結び上げ、制服を丁寧に着こなしたシャープな雰囲気の女子。
普段は無駄口を叩かない“しっかり者”のその言葉に、クラスの空気が一瞬だけ固まる。
隣の席の南條美佳が、やや肩をすくめるようにして返した。
「まあまあ。文化祭だし、ちょっとくらいハメ外してもいいんじゃない?」
「え、美佳、それ許容派?」
「うん、見てる分には楽しいし?」
やや巻いた髪を揺らして笑う美佳に、どこか釣られるように空気が緩む。
そのやり取りに、一ノ瀬みつばが笑いながら乗った。
「いいじゃん、メイドカフェ。やるなら本気でやって、うちが一番かわいくしてあげるよ?」
その一言に、周囲の女子たちが「……まぁみつばが言うなら」と苦笑を漏らす。
すると紗月が、再び静かに口を開いた。
「……どうせやるなら、衣装の監修はやらせて。チープなのとか、露出多めなのとか、絶対いやだから」
「わ、それなら安心かも!」
「紗月に任せたら、“ちゃんとしてる”やつになりそう!」
空気が変わったのは、確かだった。
陽真はその様子を、少し離れた席から見つめていた。
(男子の勢いもだけど……女子のバランス感覚、すごいな)
「じゃあ、多数決にします」
荒木の一声で、投票用紙が配られる。
各自が案を記入し、教室の前で佐伯夏目が票を集めていった。
高身長で動きに無駄のない彼女は、手際よく集計を終えると黒板の前に立った。
「集計完了。――文化祭のクラス出し物、メイドカフェに決定です!」
「「「うおおおおお!!」」」
男子たちが一斉に歓声を上げ、ガッツポーズを交わす。
女子の中には渋い表情も見えたが、どこか“やるならやるか”という雰囲気に収束しつつあった。
そのとき、みつばがぱんっと手を叩いて場を仕切る。
「どうせやるなら、最高のメイドカフェにしよう!」
「メイド服のデザイン、私考えてもいい?」
「じゃあ、店内装飾は任せて!」
「メニュー考えたい!」
自然と役割分担が立ち上がり、クラス全体が一つの目標に向かって回り始める。
陽真はその流れを、少し離れた位置から静かに見守っていた。
(文化祭の準備――始まったばかり、だけど)
教室の空気は、確かに動き出していた。




