LHRと、光の当たる場所
午後のチャイムが鳴り、LHRの時間が始まった。
月見ヶ丘学園では、春の文化祭が五月に開催される予定だ。
今年は新たな企画として、各クラスで動画作品を制作し、当日上映会を行うらしい。
教壇の前では、佐伯夏目がタブレットを手に、進行役を務めていた。
「それじゃ、動画のアイデアがある人、挙手してくれる?」
「はーい!」
一番に手を挙げたのは、やっぱり東雲拓海だった。メガネの奥の目がやたらと輝いている。
「ゾンビパニックどう? 廊下で逃げて、裏切って、友情復活! 俺、これ一択!」
「それ去年も言ってたな」
村上真哉が笑いながら肩を叩く。その隣では、南條美佳が小さく吹き出していた。
「……でも、ちょっと観てみたいかも。クラスでやるなら面白そうだし」
教室の窓際、陽真は静かにその様子を見つめていた。
すぐ前の席で振り返った美佳が、陽真に微笑む。
「春川くんって、そういうの得意そう。ストーリー考えるのとか、台本とかさ」
「え、あ……うん。まあ、少しだけ」
「小説書いてるって言ってたし。絶対、向いてると思うよ」
陽真は小さく頷いた。
隣の席では、みつばが笑っていた。けれど、どこか視線の置き方が曖昧で、ノートの端を指先でなぞっていた。
「……本当に、小説書いてるんだ」
「うん、たしか前にちょっとだけ話した気がする」
「そっか。なんか……クラスでそういう話してるの、ちょっと意外で」
目をそらしながら、みつばはそう呟いた。
やがて、佐伯がまとめに入る。
「じゃあ方向としては、ドラマ仕立てのショート動画で進める感じでいい?」
全体がざわざわと肯定の雰囲気に包まれた。
「台本、やりたい人いる?」
「俺、やってみたいかも!」
拓海がすかさず手を挙げた。
「構成とか、考えるのちょっと得意でさ」
「俺もセリフとかなら手伝えるぞ」
真哉も続いた。
そして、ふと真哉が口を開いた。
「でもさ、メインは春川がやるのが一番じゃね?」
「へ?」
「なんか……言葉の選び方がうまいし。向いてると思う、マジで」
「確かに。拓海がサポートでいいんじゃ?」
「サポート!? ……まあ、春川なら仕方ないか」
笑い声が教室に弾ける。
陽真は、一瞬戸惑いながらも、視線を伏せた。
注目されるのは得意じゃない。けれど、頼られることは……少し、嬉しかった。
「……じゃあ。やってみるよ。台本、まとめてみる」
一拍置いて――
「「おお〜!」」
教室中から、拍手と歓声が沸いた。
陽真は少し照れたように目を伏せながら、ノートを開いた。
(“任されて書く”って、こういう気持ちなのか)
言葉を誰かに向けることが、少しだけ怖くなくなった。
そのとき、隣から小さな声が届く。
「……春川くんが書くなら、きっと、ちゃんと届くと思う」
みつばが、まっすぐこちらを見ていた。
その眼差しは、誰よりも近くて、優しかった。
第一章終了です。章分けが難しいんですが、一応この話までが一章です。
ここまで読んでくれている方、本当にありがとうございます。




