テスト明けの、少しだけ特別な帰り道
終わった。
テスト最終日、最後のチャイムが鳴った瞬間――教室は、一気に解放感に包まれた。
「はあああああああ!! 生き延びた!!」
真っ先に机に突っ伏したのは、もちろん東雲拓海だった。
「ほんと、無事に終わってよかったね~」
桃井千花がふわりと笑いながら、机に腕を乗せる。
そこに、白井瑠奈が椅子ごと寄ってきて、にやにやと顔を寄せた。
「拓海くん、あのへん怪しかったよね? ほら、昨日みんなでやった関数のとこ!」
「うう……見るな、俺の答案……」
拓海は顔を隠して呻く。
そんな様子を見て、クスクスと笑い声が広がった。
陽真も、机の上に手を置き、ふうっと小さく息を吐く。
隣では、みつばが顔を上げ、ぱっと陽真に笑いかけた。
「陽真、お疲れさま!」
「……うん。みつばも、お疲れ」
自然に交わすそのやりとりが、なんだか嬉しくて、陽真も少しだけ頬を緩めた。
ふと、前の席に視線を移す。
一条陽菜は、ノートをまとめながら、そっとこちらを見て、すぐに視線を戻した。
けれど、その耳はほんのり赤い。
(……頑張ってたもんな、一条さんも)
心の中で、そっとそんなことを思った。
一方その頃、別のグループでは。
「クロエ、どうだった?」
南條美佳が、少し緊張した面持ちでクロエに声をかける。
「……まあ、普通ね」
クロエはそっけなく答えたが、ペンをクルクル回す指先は、ほんの少しだけリズムを刻んでいた。
「でも、英語はやっぱり強いよね~。クロエと海翔くんだけ、なんか別次元だったもん」
瑠奈が感心したように言うと、西園寺海翔が肩をすくめる。
「英語は……まあ、環境がね」
「すごいなあ……」
美佳が目を輝かせる。
そんな中、拓海はというと――
「クロエさん、今日……帰り道、何食べます?」
などと、テストとは全く関係ない話題を振っていた。
「……食べるって、何?」
「いや、何でもないです!!」
クロエの冷たい視線に、拓海は即座に縮こまった。
周囲から笑いが起こる。
(……けど、わかりやすいな、拓海)
陽真は内心で苦笑した。
そんな和やかな空気の中。
ふと、みつばが陽真の袖を引いた。
「……ね、陽真。今日、少しだけ寄り道しない?」
「寄り道?」
陽真が首を傾げると、みつばは小さな声で続ける。
「……ほら、図書室とか。テストも終わったし、ちょっとだけ、……話したいこともあって」
その顔は、どこか緊張しているようにも、期待しているようにも見えた。
陽真は、鞄の紐をぎゅっと握る。
(……断る理由なんて、ない)
「うん、いいよ」
短く答えると、みつばはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。
「じゃ、放課後、図書室の前で!」
そう言って、教室を飛び出していくみつばを見送る。
胸の奥が、少しだけ高鳴っていた。
(みつばと……二人きり、か)
そんなことを考えながら、陽真はゆっくりと立ち上がった。
クラスメイトたちは、テスト明けの開放感に包まれながら、それぞれ賑やかに談笑している。
でも。
今、陽真の世界には、たった一人の名前だけが、静かに、鮮明に響いていた。
(――みつば)
ほんの少しだけ、今日という日が特別に思えた。
いつも応援ありがとうございます。皆様のおかげで100話まで辞めずに書くことができました。
これからもよろしくお願いします。




