花畑で食べたお弁当が寝言の原因
ある国で魔王復活を阻止するために異世界から聖女が召喚された。
だがそこに召喚に反対した王太子の姿はなかった。魔王対策は各国で進んでいたから、聖女など必要ないという考えだった。
それに聖女が召喚されれば王太子の妻となる。彼にはすでに婚約者がいて二人はとても仲が良かった。
誰が告げたのか、王太子が自分との婚約に反対していると聞いて聖女はとても機嫌が悪くなっていた。
周りのものは聖女の機嫌を取ろうと言いなりだった。
「彼が私の手料理を食べてくれたら、みんなの希望通りにするわ」
本音『胃袋をつかめば私のものよ』
王太子と聖女を守るために少し離れた場所にいる護衛や召喚関係者たち。
二人が今いるのは花畑。王太子も「料理を二人で食べるくらいなら」と了承した。
聖女は自分が作ったお弁当を取り出し彼に勧めた。
それを見た一部の人たちは顔色がとても悪くなった。なぜならそれは王太子が口にしていい食べ物とは言えなかったからだ。
☆ ☆ ☆
調理場で料理する聖女。
「やっぱりおばあちゃんに教わった肉じゃがよね」
聖女は料理人の知らないものを作り始めた。
「肉は豚肉。豚肉はないの? ここで使っているお肉でいいわ。玉ねぎはこれよね。よく炒めれば甘くなるのよ」
ここは異世界。彼女の知っている玉ねぎとは形は似ているが別物である。これは辛味が強く、煮ても炒めても甘くはならない。
じゃがいもと言って手にしたものは、食べられるが王太子が口にするものではない。どこから持っていたのか。あれは使用人たちの食事に使う材料だ。
「人参は栄養もあるし彩りに必要よね」
手にした野菜は確かに綺麗な色をしているが、甘いのでほんのわずかだけ使うものだ。あんなに大きく切って。甘すぎて食べられたものじゃない。
見ていた人たちがドン引きしたのは彼女が味見をしなかったこと。
「いつも作ってるから大丈夫!」
全然大丈夫じゃないが聖女に物申せる人はなかった。
唯一の救いは味はともかく毒ではないということだけだった。
☆ ☆ ☆
しかし周りの人たちにとって救いでも王太子にとっては救いでも何でもなかった。
食べ始めた彼の顔色が周りの人たちにもわかるほど悪くなっている。
「ねえ、おいしい?」
「これがおいしいだ? 寝言は寝て言え」
初めて聞く王太子の暴言。
彼は気を失ってしまった。
その夜の王太子の寝言は聖女に対する罵詈雑言だった。
付き添っていた医師は怯えた。
魔王の復活が早まってしまいそうなほど恨みがこもっていた。