「あ〜、寝言の人」とよく言われるVRゲーム配信者のスカーレットと申します。以後お見知り置きを。
VR-MMORPG「迷宮」シリーズ。
剣と魔法に、精霊を題材にした世界観が人気を呼び、ゲーム人口は勿論。ゲーム実況配信者も多く活躍するサーバーである。
楽曲関係には詳しいが、最近のVRゲームはあまりと言う社長に、私は簡潔に説明した。
リアル配信者や、固定アバターを駆使するバーチャル配信者にまじり、ゲーム内アバターのみで生動画配信するスタイルが確立しつつある近年。
我々VR配信者は共通の悩みを抱えていた。
「寝言……か。あ〜、寝言の人か君は! トレンド1位おめでとう」
「ぅぐっアリガトウゴザイマス」
「社長。彼女にこれ以上のダメージを与えないで下さい。代わって僕が説明に入りますので、お手元の資料48ページ目をご覧下さい」
「す、すまん。それにしても凄い数の資料だな」
「それだけゲーム部門の方では深刻な問題なんです」
「うむ……」
社長の顔つきが変わった。
私も先輩の用意してくれた資料を確認する。
そこには、ある有名配信者の「迷宮」シリーズ内で起きた事例が載っていた。
VRゲーム中に寝落ちし、「苺タルトが食べたいにゃー」と配信用マイクに寝言が乗ってしまったと書かれていた。
「これはまずいな。彼、普段から勇者設定の硬派なイメージで歌も売りにしてるだろう?」
「ファンから解釈不一致で草がボーボー生えています」
他にも、人外設定の小魚配信者が体重を暴露して、問題になったり。
リスナーやお母さんに日頃の感謝を述べる、クソガキムーブをしている配信者の心が折られたり。
VR配信者は固定アバターがないかわりに、ゲームキャラになりきり、リアルタイムでのロールプレイを大事にする人が多い。
むしろ、そこで他の配信者やゲームプレイヤーと差別化をはかり、動画視聴者数を伸ばしてると言っても過言ではない。
そのため、無意識に曝け出される寝言問題が深刻な影響を与えていた。
「あー……なるほど、なぁ」
「くっ!」
社長から生温かい目を向けられ、先輩にポンポンと肩を叩かれ、慰められる私。
ちなみに、私がやらかした事例は内容自体は大した事ない。
VR-MMORPG「迷宮」シリーズの最新作。
ボンキュッボンのナイスバディ。普段は高圧的なSっ気強い敬語キャラの魔王様が、寝言だとネイティブでこってこての関西弁を喋ったとして、現在、動画視聴者を爆笑と混乱の渦に叩き落としている。
VR配信者プロとして、── 魔王スカーレット・キャンベルとしても、一生の不覚でしてよ。