年貢の納め時(メイ視線)
私はいつものようにフェリシア様の部屋へと向かう。
(まぁ、部屋というより、物置だけど。)
私、メイ・ラクターはラクター子爵家の一人娘だ。
侯爵家で働くことが出来ると決まった時、自分の能力が認められた、と喜んだ。
なのに…
フェリシア様の専属侍女になったせいで、小汚い別館で働くことになり、「母親殺し」の侍女と蔑まれる日々…
「あぁ!なにもかも、アイツのせいだ!!」
その鬱憤を晴らすため、いつものように勢いよくドアを開ける。
どうせ起きてないだろうし、水をかけてやろう、と思ったのだが、
「あら?今日は早起きなんですね、フェリシア様。」
「…」
黙ってはいるが、なんとなく反抗的な目でこちらをみてくる。
それが気に入らなくて、
「あー、そうそう、水持ってきてあげましたよ!」
と水を頭からかける。
心底おどろいたようで固まる姿に満足した。
(そうよ。そうやっていつものように泣けばいいのよ)
たが、いくら待っても一向に泣く気配のないフェリシアに違和感を覚え、少し気味が悪くなった。
(何かがおかしいわ。)
彼女に雑巾を投げつけ
「後片付けは自分でやっとくんですよ!」
そう言って部屋を出ていこうとした時、ゾッとした。
フェリシアがこちらを睨んでいたのだ。
いままで何をされたとしても、謝ることはあっても睨むことはなかったというのに。
フェリシアは黙りこくったままで、何かに驚いているようだった。
自分のことなど眼中に無いかのような態度に、かっと頭に血が上る。
「返事しなさいよ!」
何かを決心したかのような顔持ちで、動き始める彼女を訝しげに思いながら見ていると、
バシャ
はじめは何が起こったのかわからなかった。
頭から滴る水滴がフェリシアに水をかけられたことを証明している。
だが、何をされても謝ることしかしなかったフェリシアがそんなことをするなんて信じられる方がおかしかった。
(私に水をかけた…?この小娘ごときが?)
「ざまあみろ」
彼女の冷えきった声が聞こえてくる。
(ふざけるな!)
「私にこんなことしていいと思ってるの!」
ここまで怒鳴ればフェリシアも、泣きながら謝るに違いないそう思っていた。
だが、彼女の反応は私の想像していたものの正反対だった。
「私の名前は?」
は?こんな時に何を言い出しているんだ?
「フェリシア・アトランティス様ですが…」
「そうね。私はフェリシア・アトランティスよ。子爵令嬢如きにやってはいけないことがあると思って?」
ここまで言われてやっと気づいた。
今日の彼女は何かが違う、そう思ったのは勘違いではなかったと。
「そうね、したことがしたことだもの。あなたの家明日には潰れてるかもしれないわね?」
ありえない話ではない。
それだけ子爵令嬢と侯爵令嬢では格が違うのだ。
許してもらわなければ、私の家族は路頭に迷うことになる。
「申し訳ございませんでした。どうかそれだけは…」
本能が告げている。
今、この場で反抗するのは自分の首を絞めるだけだと。
「あなたに一度だけチャンスをあげる。私の言うことに全て従いなさい。私があなたに何を聞いたとしても質問することを許さないわ。」
どんなことをさせられるのだろうか…?
今まで自分のやってきたことを考えればろくなことではないというのは想像できる。
だけど…
「っ!分かりました」
家族は人質に取られてしまえば肯定する以外なかった。
「ふふっ」
「あなたが言うことを聞いているうちは、あなたの心配するようなことを起きないわ」
つまり、裏切ったら私の想像するすべてが、それ以上のことが起きるということ。
「はい…」
私にも年貢の納め時が来たということだ。