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番外編 もう一つの幼馴染達の物語③

兄は高校二年と三年とでインターハイに出場して空手道個人組手で二連覇し、大学は帝都大法学部に進学した。


そうなるとミキも帝都大法学部へ進学、とはならず。残念ながら学業も優秀なミキもあのレベルには僅かに及ばず、同じ帝都大でも文学部英文学科へ進学した。それはそれで凄い事だと思うけど。


私は思うところがあってそのままエスカレーター式に系列の女子大には進学せず、横浜にある国立大学の地球環境学部に進学した。


大学ではアナウンス研究会に入ってモデル業も続けていた。ミキと私の人生が再び交わるようになったのは、このモデル業でのとあるイベントでの事だった。


ミキは小学三年以来、兄には及ばないものの兄に準じる経歴を有している。という事は、ミキは兄程じゃないけれど結構な格闘能力を有しているという事。なのでミキは大学生活でのアルバイトに兄と同様、是親伯父さんが経営する警備会社で要人警護の警備員をやっていたのだ。


そんな折、私が参加したとあるファッションショー的なイベントに、モデルやタレントの警護のため伯父の警備会社から数人のSPが派遣されていた。なんとその中の一人がミキだったのだ。


数年ぶりで会ったミキはすっかり大人っぽくなって、はいなくて。くりくりしたお目々の可愛らしい顔は以前の面影のまま。身長は高くなったかな。


黒いスーツを着たその姿はSPというよりも、ジャ◯ーズ事務所の男性アイドルのようだ。それはまぁ、以前は美少年剣士団の柴わんこポジだったしね。実際、イベントの現場でスタッフにゲストタレントの一人だと思われていたらしいし。


因みに動物に例えたら兄は狼、ミキは柴犬。それも黒柴というのは万人が頷く彼等の印象だ。


私とミキはその予期せぬ再会にびっくり。ミキ、流石に身長伸びてちょっとは大人っぽくなったかなと思いつつも、内心では「伯父さんの会社のアルバイトSPなら何でお兄ちゃんが来ないの!」と思ったりもして。


でもイベント中に私のファンだという男が刃物を振り翳して襲い掛かって来た際に、直近にいたミキが一撃でそいつを無力化させて取り押さえたのだ。その姿はまぁまぁカッコ良かったかな。


その男は外部スタッフを買収して会場に紛れ込んでいたそう。それで私を間近に見て(盗撮もして)満足だったのだそうだけど、私がタレントの男(に勘違いされたミキ)と仲良さげに話す姿を見て嫉妬からカッとなって思わず!


って、そいつしっかり刃物持参してたじゃん!しかもスタッフ買収してとか計画性もあるって事じゃんね?そいつはその後、ミキ達警備員から警察に引き渡されて逮捕されてた。


「うむ、褒めてつかわすぞよ」


「有難き幸せ」


騒動が収まった舞台裏、私達はそんな遣り取りをして笑い合った。命を狙われて怖かった。だけどミキが近くにいたし、私が身の危険を感じる前に瞬く間にその男を制圧してくれたのでそんな遣り取りを交わして笑い合える余裕が心にあった。


そんな出来事があっての再会だったけど、それが切っ掛けで私とミキは再び連絡を取り交わすようになった。それが時々会ってランチするようになり、遊びに行くようになり、夕食も共にするようになり、ミキから告白されて私達付き合うようになった。


ミキの事は勿論嫌いじゃないし、助けてくれたからか、ミキと一緒にいると兄から与えられるのと同じような安心感を感じるんだよね。


〜・〜・〜


兄は計画通り帝都大法学部から国家公務員Ⅰ種に合格して警察庁に入庁した。


するとミキも一年後、兄を追いかけるように警察庁に入庁。兄は最早それについては何も言わず、諦めたように「好きにすればいい。あいつなら大丈夫だろ」と言ったものだった。


私は大学卒業後、大手の気象情報会社に入社した。私の仕事は気象予報や情報、気象に関する動画配信番組などで解説やリポートなどをする所謂お天気お姉さん。この仕事がしたくて進学先を変えたんだよね。


私とミキの交際は順調に続いて結婚も視野に入れていて。私達の前に兄と美織ちゃんが結婚する、そのタイミングで世界情勢が極端に悪化した。


それによって兄達の結婚は一時延期となり、兄は戦時下となった国内で敵国である大陸某国の工作機関や反日組織を潰す作戦に警察特殊部隊の現場指揮官となって作戦に従事。


兄は是親伯父さんの警備会社から元よりそういった情報の提供を受けていたから、把握していた敵の拠点を急襲して随分と戦果を上げたようだった。勿論、妹とはいえ一般人の私が詳しい内容を知る事はない。


因みにその頃のミキは都内の警察署で刑事課に勤務していて、直接戦時下の国内作戦には関係していなかったよ。


東シナ海での大陸某国海軍艦隊との海戦が我が国の勝利で終わると、大陸某国は亜大陸某国の参戦で戦術核の奇襲攻撃を受けて瓦解した。大陸某国は幾つかの小国に分裂し、東ヨーロッパでの戦争から始まり大陸某国の消滅で終わった一連の世界情勢は後に第三次世界大戦と呼ばれるようになる。


兄と美織ちゃんは戦後無事に結婚し、山下公園の氷川丸を貸切にして式を挙げた。その翌年、私とミキも港区のホテルで式を挙げて結婚。


式場で私がミキに「これで本当にお兄ちゃんの弟だね」と揶揄うと、「そうだね」とミキは嬉しそう。


私はそんなミキにちょっとカチンと来て、

「もしかして、それ目当てで私と結婚したの?」と尋ねると、


「そんな事ある訳無いから」


とちょっと怒ったように答えた。


ミキは嘘というか、本当ではない事を口にする時は僅かに視線を逸らす癖がある。この時のミキは私をしっかり見据えてそう言ったので彼の言葉に嘘は無い、と思う。まぁ真実は本人と神のみぞ知る、だからね。


「ごめんね?」


「うん。そんな事、言わないでよ」


私が悪いのに何故かしゅんとなるミキ。私の旦那さん、なんて可愛いのかしら。この黒柴わんこ君め!


〜・〜・〜


それから4年。私とミキは30歳になっている。私は同じ会社で気象関係の仕事を続け、今や役職も付いている。私とミキの間には女の子の二卵性双子が生まれていて、長女は私に、次女はミキに似てそれぞれタイプの違う美幼女。


ミキはというと、警察庁を辞めてしまっている。


戦後、兄は国内作戦の成果によって若くして警視正から警視長に昇進した。それから間も無く兄は外部省庁への出向を打診されたのだ。出向先は外務省で、ドイツ大使館の在外公館警備対策官。


要するに兄は警察庁内部の一部から危険視されるようになったのだ。それは国内作戦で警察特殊部隊指揮官として戦果を挙げて昇進したため。そして兄の実力から兄に心酔するに至った特殊部隊員や機動隊員等の支持が恐くなったから。


だからと言って直接兄に辞めろとは誰も言えない。なので兄に外部出向を打診して辞めるよう仕向けたのだ。打診を断るようならきっと閉職に回して辞めるように仕向けた事だろう。


それに対して兄は警察庁の職に固執せず、じゃあ辞めますとさっさと辞職してしまった。引き留める人も多かったそうだけど。


そして現在は是親伯父さんの警備会社に幹部社員として迎えられ、事実上の次期社長として働いている。


折しも父親の研究を継いだ美織ちゃんの研究も成果を挙げて癌の予防ワクチンが完成しつつあった。美織ちゃんの身柄を狙う国内外の機関や企業が国内での活動を顕在化させつつあったから、兄にとっては外部出向打診は美織ちゃんを守るために渡りに船だったのかもしれない。


兄が警察庁を辞めると、ミキが私に話があると言って来た。私はミキの幼馴染で今は彼の妻だもの、ミキの話が何であるのかはわかる。


「僕、警察庁を辞めようと思う」


ほら、やっぱり。兄が警察庁を辞めた頃からそうなると思っていたんだ。ミキが警察庁を辞めるって言いだすって。


「いいよ。私だって仕事してるし、それなりの額貰ってるしね」


「有難う、真樹ちゃん」


全く、いい笑顔しちゃって。


私としては夫として、娘達の父親として今まで百点満点のミキに愛情こそあれ不満なんか無い。私に十分な収入があるのだから好きにして欲しいと背中を押した。


それから更に4年が過ぎ、兄は今や是親伯父さんの警備会社を継いで社長。そして我が夫のミキはその右腕となって兄を支えている。


因みに是親伯父さんは警備会社の経営からは身を引いている。といっても大株主であるけど。今は恋人とハワイの別宅で甘い日々を送っている。いいご身分だよね。


社長の兄には今までの経歴から国の内外多方面にコネとツテがあり、元の職場には敵もいたけどお友達もいっぱい。会社の経営は順調だそう。


兄と美織ちゃんの間には私達の娘と同い年の長男と4歳下の次男がいる。兄一家と私達一家は定期的に横浜の実家に集まっていて、食事会をしたり、たまに三家族合同で旅行に行ったりしている。まだ見た目若々しい両親は4人の孫に囲まれてすっかり甘々なおじいちゃんにおばあちゃんだ。


今夜も実家に集まっての夕食会。私とミキもそうだけど、兄と美織ちゃんも夫婦仲良しで幸せそうだ。


母と私と美織ちゃんで料理を作り、男共3人は私達の指示でテーブルにお皿を並べ、出来た料理を運んでいる。


リビングを見ればいとこ同士となる子供達が何やら言い合いをしている。どうも私の双子娘達が兄の長男を取り合っているよう。甥っ子二人も兄と美織ちゃんに似て結構な美少年だからね。


その様子を見ていると自分達の幼い頃を思い出す。


(幼馴染じゃないけど、この子達はどんな感じになるのかしらね)


私は次の時代を担う子供達の未来に想いを馳せ、何があっても努力して困難を乗り越えてねと心の中でエールを送った。


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