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番外編 もう一つの幼馴染達の物語①

「溜息を吐くと幸せが一つ逃げて行く」


かつてオープニングがこのナレーションで始まるラジオの人生相談コーナーがあったそうだ。私は実際にそれを聞いた事が無いし、その後に続く言葉も知らないから、どの様な真意が含まれているのかはわからない。


ただ、それをまだ幼かった私に教えた母方の祖母は続けてこう言った。


「でも私はそうは思わないかな」


「え〜、何で?」


「だって、溜息くらい吐いちゃうわよ、人間だもの。それに溜息を吐いた後って心も身体も少し楽になるのよ」


祖母に真樹ちゃんも試しに溜息吐いてみなさいと促されて「はぁ〜」とそれっぽく吐いてみるも、多少長く吐いた呼気という印象。


「ふふ、まだちっちゃい真樹ちゃんには溜息吐く程の悩みなんて無いかしらね」


祖母は笑ってそう言うと、私の頭をよしよしと撫でて更に言葉を続けた。


「いい?真樹ちゃん。世の中、貯めていいのはお金とコレクションくらいなの。その他はどんどん吐き出さないと病気になっちゃうから気を付けなさいね」


お金とコレクション。また随分と片寄った意見だと幼心に思ったけど、私よりもずっと長く生きている祖母がそう言うからにはきっとそうなのだろう。実際、祖母はお金持ちだし、趣味で所蔵している少女漫画コレクションは日本国内でも有数なものだと後で知った。


その後、私も成長するに従って溜息を吐く事を憶えた。そうして溜息を吐く原因となったのは私、青木真樹の一つ歳上の兄、青木勇樹についてだ。


私の兄は美形だ。ちょっと厳つめな父と嫋やかな美人の母のいいとこ取りの容貌。子供の頃はクールな美少年、長じてからはクール系イケメンと呼ばれて近隣女子中高生達によって独占禁止の淑女協定が結ばれたくらい。しかも背も高くてスタイル抜群。


スポーツ万能。これは文字通りどんなスポーツ、いやスポーツに限らず兄は一度見てちょっと練習したら出来てしまうのだ。


頭も良くて、塾なんか通わなくても予習復習と参考書だけで好成績を取れてずっと維持出来ちゃう。ついでに教え方も上手くて、私も幼馴染の美織ちゃんも随分とその恩恵に与っていたりする。


めちゃくちゃ強い。近くの道場で剣術を習っていて、全国道場少年剣道大会でいきなり三位入賞するし、中学では剣道の全国大会で優勝しちゃった。しかもその剣術は何でも戦国時代から続く武術で剣だけじゃない総合格闘技。小学三年生の頃に海水浴場で私と美織ちゃんが地元男子三人に絡まれた時にも全員やっつけて助けてくれた。


そして、とても優しい。まぁ、才能のある人に有りがちな出来ない人の気持ちがわからないってところもあるのだけど、私と美織ちゃんにはそんな事は無くて限り無く優しいの。私にはそれで十分、他人の事なんかはどうでもいいしね。


こんな兄と文字通り生まれてからずっと一緒に育って生きてきた私。当然の事、私の男性観に兄の存在が強烈な影響を与えているのは言うまでも無いだろう。


自分で言うのも憚りがあるけど、兄が美少年なら私も当然美少女。兄と同様に私もクールな美人系の美少女と言われる。以前は親戚の雑誌編集者に頼まれてティーン向けファッション雑誌のモデルを兄妹でやっていたくらいだ。


その後、兄はモデルを辞めてしまったけど、私はそれが切っ掛けで小学生の頃から大学生となった今もモデルをやっている。


そんな私に好きになっただの一目惚れだのと言って告白する男子は多い。でもその度に溜息と共に思ってしまうのだ。"どいつもこいつもお兄ちゃんの足元にも及ばないな"と。


勿論今まで全員お断りしている。


友達にその事を相談すると言われ事は以下の二つ。


「あのお兄さんを見て育ったのなら仕方ないね」

「あのお兄さんと比べたら他の男子達がかわいそうだよ」


幸い?友達や学校の女子達の間で私がそれで嫌われたり、距離を置かれるような事は無い。だけど、男子の告白を断り続ける私は兄好き超ブラコン妹という認識になっているようだった。


だから私が溜息を吐くようになったのは明らかに兄のせいだと言えるのだ。


そんな兄が幼馴染の美織ちゃんと高校進学を機に付き合う事となった。この二人は物心着く頃から仲が良く、兄が美織ちゃんを守り、美織ちゃんが時に兄を注意したりとお互いを補うような関係だった。


と言うのも、兄は何でも出来ちゃう天才型だから時に出来ない人の気持ちが理解出来ない事があり、それでクラスメイトと揉める事が多々あった。喧嘩にならなかったのは、そうはなってもめちゃくちゃ強い兄に誰もが恐れをなしていた事と、その都度美織ちゃんが兄に注意して謝らせていたから。


そんな兄と美織ちゃんは小五の頃から疎遠になった。美織ちゃんが兄に頼らないよう意地を張って壮大に空回りした結果で、二人の仲は拗れに拗れ、中二のクリスマスイブに同級生達の骨折りで仲直りするまでそれは続いた。


そうして仲直りした兄と美織ちゃんは失った三年間を取り戻すかのようにベッタベタの仲良しになり、きっと周りの人達は「もう付き合っちゃえよ!」と心の中で叫んでいた事だろう。


恋人同士となった兄と美織ちゃん、大学も学部は違うけど同じ帝都大学に進学している。


私が思うに、幼馴染の美織ちゃんは世界一幸せな女の子だ。


幸せの定義や概念や基準は人それぞれだから、これは私の基準ではあるのだけど。何と言っても私のお兄ちゃんに愛されて守られているのだから。


そもそもお兄ちゃんが剣術を習い始めたのは美織ちゃんをいじめから守るためだし、ずっと美織を陰に陽に守ってきていた。高校で剣道を辞めて空手を始めたのだって空手部=喧嘩強い奴という評判を自分に付けて間接的に美織ちゃんを守るため。しかも進学先が帝都大学法学部っていうのも警察庁に入庁して美織ちゃんを守るため。


全く、何で私じゃないの?美織ちゃんばっかりずるいずるい!私が妹じゃなければなぁ。私の方が先にお兄ちゃんと結婚の約束したのにさ(三歳の頃)。


確かに美織ちゃんは気の強そうな見た目に反して臆病でポンコツだから変な男が寄って来るし、帝都大学医学部に現役合格出来るくらいの才媛を利用しようとする輩も近付いて来る。だから誰かが美織ちゃんを守らなければならないのはわかるし、私だって幼馴染が酷い目にあうのは嫌だ。でもお兄ちゃんに愛されて守られるとか羨まし過ぎるよ。


はぁ〜(遠い目)


はぁ、落ち着いた。本当、おばあちゃんの言った通りだ。溜息と共に心の中の澱も抜けていって心も身体も楽になった。


けど、まぁ、私は確かにブラコンではあるけれど、別に今更兄と結婚したい訳じゃないし、兄妹で禁断の関係になりたい訳じゃない。ただ飽くまで妹として兄が大好きなだけ。兄からは十分大切にして貰っているからね。


だから兄に彼女が出来るのは正直嫌だ。だけどそれが見ず知らずの女じゃなくて、幼馴染として良く知っている美織ちゃんなら、まぁ許せるかなというところ。


全く、世話が焼けるよ、美織ちゃんは。


〜・〜・〜


「ごめん、真樹ちゃん。待たせちゃって」


待ち合わせのカフェで先に着いた私がそんな事を考えていると、私の待ち人が少し焦ったように声を掛けて来た。


「私が早く着いただけだから、別に待ってないよ、ミキ」


振り向くと黒いスーツ姿の私の彼氏、戸田幹久が立っていた。


やや栗色の髪はほんの少し耳に掛かるくらいの長さで、くりくりとした二重瞼の両眼は可愛らしくてジャ○ーズのアイドルみたいだ。身長は本人が言うには173cm、剣術で鍛えた身体は筋肉で引き締り、余計は脂肪はない。


あ、身体云々は前にプールで見ただけだから。私達、付き合っているけと、まだそういう事はしてないんだからね!


兄と美織ちゃんが幼馴染なら、実は私とミキも幼馴染だったりする。私が小二になった四月にミキは転校して来た。その際に席が隣になったのが切っ掛けで私達は良く話すようになり、まぁまぁ仲良くなった。


この頃のミキは男子なのにとても可愛らしい面立ちで、勉強もスポーツも出来る方だったから自然と女子達に人気となった。そしてそれが気に入らないクラスの男子達から妬まれ始めてもいた。


陰で徐々にミキへのいじめが始まり、三年生になるとミキへのいじめは公然と休み時間や放課後に行われるようになってしまっていた。転校して来た時のミキは明るくてよく笑う子だったのに、この頃になるとクラス男子からのいじめによってすっかり暗くなり、常にオドオドするようになってしまった。


ミキを可愛い可愛いとチヤホヤしていた女子達はそうなったミキから距離を取って無視する始末。私は「あんた達がミキをやたらチヤホヤしたからいじめが始まったんじゃないの?」と女子達の無責任さと狡さを腹立たしく思ったものだった。


いじめはいじめる奴が最も悪い。いじめなんてお気楽な言葉で表現するけど、やっている事は全て犯罪だ。決して子供だからと赦されたり、罪が軽くなって良いものじゃない。とはいえ、ミキが何も反撃しないのも良くないと私は思った。結局自分の身は自分で守らなければならないのだから。


そんなある日、私は放課後帰宅途上の公園でベンチに座ってべそべそと泣いているミキを見つけた。そんなミキを見て私は猛烈に腹が立ち、思わず詰め寄ってしまった。


「ねぇ、何であいつ等にやり返さないの?ミキが何もやり返さないからあいつ等は調子に乗って余計にミキをいじめるんだよ?」


我ながら理不尽な言い様だとは思う。だけど私からしたら自分は何も悪くないのにあんな連中にいじめられ続けているなんて信じられない事だ。


私の言葉にミキは顔を上げてキッと私を睨む。


(へぇ、まだ睨むだけの反抗心はあるんだ)


「だって、あいつ等僕一人に何人もだよ?勝てっこないよ。ボコボコにされちゃうよ!」


ズコッ。何を言うのかと思えば泣き事か。ボコボコって、もう既に何度もボコボコにされてるじゃん。


全くミキにはイライラする。お兄ちゃんなら絶対にそんな事言わない。ってかお兄ちゃんならそんないじめ野郎どもなんか反対に一人でボコボコにして揃って不登校にさせちゃうよ。


っと、そこで思いついた。


(そうだ、ミキをお兄ちゃんに会わせてみよう!)


今日、この時間ならお兄ちゃんは道場で稽古しているはず。


「ミキ、今日、これから時間ある?暇でしょ?暇よね!」


「え?う、うん…」


私は戸惑うミキの手首を掴んで「行くよ!」と引っ張ると、兄が稽古している天元破砕流剣術の道場へと向かった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 美織は結局自分自身では何も解決出来ないヒロインだったな。 家も近所なら何故積極的に勇樹自分から謝りに行かなかったのか不明で全て友達だのみだったのは残念だった。 勇樹や他のメンバーは成長…
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