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番外編 山田友之、その恋の行方①

俺、山田友之は今、15年の人生で最大の難事に挑もうとしていた。去年の夏には全国中学生剣道大会で優勝した俺だが、その時の決勝ですらこのたびのミッションに比べれば、色霞もうと言うものだ。


季節は春、3月15日。俺は3年間、友達と全力を尽くして過ごした市立五浦中の卒業式を終え、レインのメッセージで呼び出した同級生の女子、吉澤明美さんを中学校近くの公園で待っているのだ。


左手首の腕時計(雪村高校合格の祝いに親が買ってくれたちょっと高めのG-SHOCK)を見れば、待ち合わせ時間の13時、といってもこちらが一方的に指定した時間と場所な訳だが、を既に5分も過ぎようとしている。


(はぁ、これは振られたか…)


いやいや、まだたったの5分だ。まだ振られた訳じゃない。諦めたらだめだ。どんな強敵との試合でも俺達は諦めなかったじゃないか。


そう思うと、ふと脳裏に中学3年間で竹刀を振った数々の試合が思い出され、と同時に俺の2人の親友の顔が思い浮かんで来た。


俺の親友、勇樹と貴文。中学を卒業しても俺たちはまた3年間雪村高校で一緒だ。部活はそれぞれのやりたいことをやろうと話し合っている。だから中学の頃のように同じ部活で3年間を過ごす事は無い。


そういえば、吉澤さん、勇樹の事が好きだったんだよな。まぁ、あいつは五浦中どころか、近隣の中学の女子達が独占禁止の協定を結ぶほどの美少年だからな。それは勇樹と女子剣道部員として毎日身近に接していたら吉澤さんが勇樹の奴を好きになってしまうのも仕方がない事だ。


仕方がないと思うが、勿論俺は面白くない。それはそうだろう、自分の好きな女が俺じゃなく俺の友達を好いているのだから。


とりとめもなく、そんなことを考えていると時刻は13時30分となっていた。


(俺が言い出した事だ。1時間、1時間は待たないと)


とその時、公園の入り口に1人の女子が姿を現した。その女子は走ってきたのか、両手を膝に置いて前かがみとなり、ハァハァと荒く息をしている。


俺は逸る心を抑え、なおも息を切らせている女子に歩み寄った。


「吉澤、来てくれたのか。ありがとう。」


そして俺がそう声をかけると、吉澤は顔を上げるや恨みがましい表情を俺に向けた。


「山田、あんたねぇ、いきなりレイルのメッセージで来てくれとか、何なの?卒業式で携帯電話の電源を切っていたんだから、全然気がつかなかったじゃない!」


卒業式だから電源オフ、そうか、それは盲点だった。俺のミスだな。


「いや、それは申し訳無かった。済まない、この通りだ」


そう言って俺が頭を下げると、少し慌てた様子で吉澤が同時に声をあげた。


「そんな、私、怒っている訳じゃないんだから、顔上げてよ」


そうか、そんなに怒ってはいないのか、なら良かった。そう思って顔を上げると、呼吸は整ったものの上気して赤くなった頬の吉澤がそこにいた。


髪型は栗毛色で艶のあるショートヘア。ちょっと太めの眉に二重まぶたの大きな瞳、形良く通った鼻梁と小さな小鼻、ほんの少しぽってりとした唇、それらが色白で小さな輪郭にバランス良く配置されてボーイッシュな魅力を醸し出している。


服装は五浦中の制服で白いタイのセーラー服。胸には「卒業おめでとう」とプリントされたサクラのバッヂまで付いたまま。メッセージに気付き、そのまま着替えたりする事も無くここまで駆けて来たのが窺えた。


〜・〜・〜


俺と吉澤とは小学校から同じで、何度か同じクラスになった事があり、中三も同じクラス。小学生の頃から活発な男勝りで、喧嘩となれば男子相手でも一切引かず。小学生女子としては大柄だった体格と体力で男子も平気で泣かす吉澤を俺は「おっかねえ女」とだけ思っていた。


それが中学に入学すると俺も吉澤も剣道部に入部。五浦中の剣道部は男女で別々だったが、それでも合同稽古など交流は多い。その中で俺は中学生になってすっかり可愛くなった吉澤をちょっと意識するようになっていた。


そうなると吉澤が実は気さくで気が利き、親切で優しい性格である事がわかり、より気になるようになった。更に剣道部の部長同士で会話する事が多くなると吉澤を女子として意識するように。


そうなると吉澤が何かと勇樹を見ている事に気付いた。吉澤は勇樹が好きなのか?そう思うと嫉妬心が湧き、自分が吉澤の事が好きなのだと気付いた。


俺は貴文にその事を相談。すると貴文からその件は自分に任せておけと言われた。小六の女子同級生で私立中学に進学した田村さんと貴文が勇樹と有坂を仲直りさせる作戦を立案中であると。


「勇樹の奴、気にしてない風でいて、実は有坂が気になってるんだ。田村さんによれば有坂は勇樹と仲直りしたいようだし、なんか見ていて歯痒いんだよなアイツらはさぁ」


同感だ。勇樹と有坂、とっととくっ付いてしまえ。


田村さんが小六の同級生達に呼びかけてクリスマスイブにプチ同窓会を催し、その後色々ありつつもどうにか勇樹と有坂の仲直り作戦は成功した。仲直りなった二人はすっかり元通りの、いや、それまで以上の仲になった。


勇樹と有坂が仲直りすると、それまでの反動か二人は学校と部活と道場以外の時間はほぼ一緒にいるという事だった(勇樹談)。この時点で仲が良くなった幼馴染同士が近い将来に恋人同士になるのは確実だった(実際にそうなったしな)。


俺は勇樹と有坂の仲直りが親友として嬉しく、二人が仲違いして苦しんだ分だけ幸せになって欲しいと願った。そして同時に自分の恋の最大の障害が除かれた事に心の底から安堵もした。


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