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余は如何にして恋人を守りしか③

そんな事が高校二年の秋にあった。センルチ男子高ボクシング部と空手部の連中は俺が言った条件を律儀に守っているのか、あれ以降は美織を狙う馬鹿どもに煩わされる事無く俺と美織は過ごせている。


しかし、美織がああまで妙に自信過剰なナルシスト男を惹きつけてしまう理由とは何なのであろうか。俺が思うに、それは美織の外見や雰囲気と内面とのギャップによるものではないだろうかと。


美織は美人だ。勿論、可愛くもあるのだけど、第三者が美織を見て抱く印象は「美人」だろう。それも「気の強そうな」「性格キツそうな」だ。


更に最近では学業も奮っているので「知的な」という形容詞も付くだろうか。


そんな見た目「知的で気の強そうな美人」の美織はその実内面は気が強いどころか、どちらかといえば内気でちょっと臆病。そして小学五年生の頃に幼馴染の俺に頼らないようにし、結果的に俺と美織の関係が拗れたように結構ポンコツなのだ。


とはいえ、それは飽くまで周りの者がそう見ている、思っているという事である。美織が自分で自分を「知的で気の強そうな美人」と思っている訳じゃないし、美織がそんな姿に自分を取り繕っている訳でもないんだ。


だからふとした瞬間に内面が表に現れてしまうと、その外見と内面のギャップに見た者が惹きつけられてしまう。「あれ?この子案外可愛いところもあるじゃないか」「見ていられない」「守ってあげなくちゃ」と思わせるようなのだ。


それが女性には、例えば委員長こと洞樹真実さんや美織の中学受験仲間だった田村さんのように保護欲が良い方向に作用するみたいだ。だけどそれが男の場合、特に自分に何等かの自信がある奴(岡田や三浦や伊吹等)は保護欲「守ってあげたい」が独占欲「俺が守らなければ」に変換され、更に「俺の彼女(妄想)は俺が守る!」にバージョンアップしてしまうようなのだ。


しかし、既に美織の側にはかつては幼馴染として、そして今は恋人として「俺」という(彼等にとっての)お邪魔虫が付き纏っている(彼等目線)。だから「俺が守る俺の美織」からお邪魔虫を排除しよう!という流れになんじゃないかな、と。


小学校、中学校とそんな危ない連中から美織を守ってきた。高校生になって今回の件でセンルチ男子高の連中を黙らせる事が出来たから高校卒業までは大丈夫だろう。


では、その先は?


勿論俺は美織を守るし、この先の人生もずっと共にしたいと思っている。だけどそうは言っても俺一人では限界があるのも事実だ。ましてこの先は大学生となり、やがて社会人になれば子供の頃と違って酒を飲む機会もある。酒を飲ませたり、薬を盛るなど美織に迫る手口は更に悪質になるだろう。中には強引にハイエースなんて暴挙に出る輩もいないとも限らない。


そうした魔の手を絶つには美織の近くに"俺"という抑止力が必要だ。腕に覚えがあるだけじゃなく、手酷く報復される恐れのある俺という存在。その存在を知る事で美織に手を出す事を躊躇させる"力"、が。


ならばそうした力が発揮出来る職業に就かなくてはならない。それは何か?


政治家?それはかなり迂遠な道のりだ。それに政治家は余程大物にならなければ権力など無いに等しい。


では暴力団とか?確かにある程度の暴力も経済力も権力もあるかもしれないけど、そもそも反社は却下だ。


医師?弁護士?ちょっと違うかな。一つの候補ではあるかもしれないけど。


そこで思い浮かんだのが二人、父さんと是親伯父さんだ。


父さんは警察官、それも機動隊員だった。父さん曰く「今はちょっと偉くなってしまった」そうで、デスクワークが多くなったとぼやいている。だけど常に警備の第一線に立ち、結婚前から母さんを守り続けている男の中の男だと俺は思っている。面と向かっては言わないけどね。


是親伯父さんもかつては警察官で、若くしてSPにまでなった最強の男だ。現在は警察官の職を辞して警備会社を経営をしている。この警備会社っていうのがなかなか特殊で、国内外のその道の猛者を集めた要人警護や重要施設の警備を専門とする、ってそれはここではいいだろう。


俺はこの伯父さんの警備会社でインストラクターから格闘技術を習っているし、情報収集や敵対勢力の潰し方なんかを教えて貰ったりしたものだった。


だから俺は自分の進路について考えるに、父さんや伯父さんの影響もあって警察官になるのが良いようだと思うに至った。それも国家公務員の警察官僚に。


何故かと問われれば、美織を守るためにはそれが一番だと思うから。その肩書は美織を狙う不逞の輩に対する抑止力となるだろうし、その権能は法的に物理的に美織を守るのに利する。俺個人の力だけではカバーしきれない部分をこの国の力をも利用して美織を守る。うん、悪くない考えだ。


そうして俺は自身の将来目標を国家公務員Ⅰ種に合格しての警察庁入庁に定めたのだった。


さて、ではそのために俺は何をすべきか?


まずは進学先とする大学を何処にして何を学ぶか。県下一高い偏差値と進学率を誇る県立雪村高校に通う身として、狙うのは当然難関大学となる。そうした難関大学も数ある中で国家公務員Ⅰ種の合格までを見据えるならば、それは我が国の最高学府たる帝都大学、その法学部となろうか。


折しも美織が進学先として目指しているのも帝都大学の医学部だったりする。


俺は高校二年の現在も好成績を維持しているけど、帝都大学法学部を目指すならば更なる努力が必要だ。まぁ俺は努力を惜しまない男だし器用で要領も良い。第一に幸運な俺でもある。


え?一体何処が幸運なのかって?う〜ん、苦労体質ではあるだろうけど、自分は運が良いと思う事が大切らしいよ。憑いて無いと思えばとことん運が悪くなるって言うしね。


そうした事で志望校は最難関大学ではあるけれど、まぁなんとかなるだろうと俺は思っているんだ。


〜・〜・〜


高校三年になると受験勉強は大事であるも、俺は空手部の組手部長(同じ空手部でも型と組手にわかれて部長が二人いる)であり、部活でも手は抜く事はない。去年に続いて三年でもインターハイに出場し、空手部門組手個人の部で優勝した。


インターハイ二連覇は我ながら良くやったと思う。これによって色々な私立大学からスカウトが来たし、オリンピックの強化選手にも選抜されるなんて話も来たけど全て断った。有難い話ではあったけれど、俺が空手を始めたのは美織を守るため「空手やってて強い奴」という印象を周囲に与えるためだからな。


高校三年の二学期に部活を引退してから受験勉強に集中する日々が始まった。といってそればかりな訳ではなく、高校での学業が当然あり、更には我が雪村高の一大行事である文化祭(雪高祭)がある。


因みに雪高祭で俺は空手部の演舞やクラスでの出物であるバンカラ執事喫茶などで忙しいものだった。バンカラ執事喫茶とは何かというと、荒々しい明治時代風な学生服で執事風ウェイターをする喫茶店である。


これはクラスの応援部部長である富樫君の提案だった。学生服に黒マントを羽織り、鍔が割れた学生帽を被った高下駄という衣装で、人によってはマント無しでシャツは着ず腹にサラシを巻いて学生服上衣というバージョンもあり。


来店したお客様には


「押忍!お嬢、お帰りなさいませ」


「押忍!先輩、お帰りなさいませ」


と丁寧でありつつ男らしい荒々しさも忘れない接客をするのだ。


お客さんとの写真撮影にも応じ、特に元美少年剣士団の俺がバンカラ執事姿で一緒に写真も撮れるとの情報が初日の午前中に拡散したようで、なかなかの人気になって大変だった。どうにか美織と雪高祭を回れたから良かったけど。


まぁ、この雪高祭については別の機会で詳しく語りたいと思う。


〜・〜・〜


帝都大学法学部を目指すとなれば、今までのように独学では心許ない。これは必ず成し遂げなければならないミッションだからだ。なので俺は今まで通り土日は美織と会って一緒に勉強(たまには出かけたり)しながらも、平日の放課後は予備校に通い始めた。


その事をレイルで友之と貴文に伝えると、この二人も一緒に予備校通いを始めたのだ。


俺達三人は高校受験を一緒に頑張って共に雪村高校に進学したけど、前に述べたように高校ではそれぞれの道に進んでいる。クラスも部活も違うから中学の頃のように一緒にいる事が少なくなっていた。


三人ともそれぞれクラスや部活で新しい友達が出来ているけど、俺達三人は小五から一緒だった。互いに連絡は取り合って時々会って遊びに行ったりしてはいたものの、心の何処では寂しさも感じていた。


だから受験勉強の一環とはいえ、再び友之と貴文と三人での予備校通いは帰りにちょっと買食いなんかもして楽しくもあった。因みに友之は防衛大学校、貴之は東京工業大を志望校としていた。俺はこの二人を良く知っている。きっと大丈夫だ。


予備校通いが功を奏し、二学期後半での模試でA判定となり、年明けの入試本番で遂に帝都大学法学部に合格を果たす事が出来た。


小五から医師になる事を決意し、そのため(色々有りながらも)頑張って来た美織も努力と頑張りが実を結び無事に帝都大学医学部に合格。俺と美織は学部こそ異なるものの、二人して四月から同じ大学に進学する事となったのだ。









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― 新着の感想 ―
[一言] 警察官と医者とか結婚しても上手くいかなそうやな。
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