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余は如何にして恋人を守りしか②

俺に煽られた伊吹が激昂して殴りかかってきた。大ぶりなそのストーレートパンチはまともに顔面に喰らえばかなりダメージを負うほどのものだけど、それは当たればの話。


仮にもボクシング部の部長であるのに予備動作ありありな脇の締めも甘い伊吹のパンチ、それを俺は右に半身を切って避け左手で捌き、そのまま大外刈りでリング上に倒す。そして仰向けに倒れたガラ空きの腹にワンパンを入れた。勿論手加減して。


「グエッ」


蛙が潰されたような声を上げて悶える伊吹。


「おい、卑怯だぞ青木!」


リング外から岡田が喚く。


「何がだ?」


「ここはボクシング部なんだぞ。ボクシングで勝負しろよ!」


…何言っんだ、こいつ。


「俺はこいつから挑まれた決闘を受けた。だけどボクシングでなんて一言も言っていないし、こいつもボクシングでなんて言っていない。それに俺を騙して誘き出して集団で暴力を加えているお前やお前達に俺を卑怯者呼ばわりする資格はあるのか?」


俺の反論に黙り込む岡田と周囲の連中。多少なりとも卑怯な事をしている自覚はあるようだ。


岡田が卑怯者の人間のクズなのは言うまでも無いし、リングを囲んでいるボクシング部や空手部の連中はさっきまでノリノリで俺に罵声を浴びせていた。集団で安全な場所から好き勝手に罵声を浴びせる卑怯者の集まり。全く反吐が出るな。


そうしている内に伊吹が立ち上がった。俺に対して怒っているようで睨みつけている。


「どうしたよ、睨むだけか?」


「キサマァ、ぶっ殺してやる!」


ぶっ殺すとか物騒な事言ってるね。先程受けたダメージが残っているのだろう、伊吹は激しい言葉とは裏腹に緩慢な動きでファイティングポーズをとった。やっぱり脇が甘いな。


構えた伊吹の腹に俺はすかさず中段前蹴りをお見舞いしてやった。え?どうして腹ばっかり狙うのかって?腹を打たれたら痛みと呼吸苦でダメージが大きいし、打撲痕が目立たないからな。


予備動作無しの中段前蹴りだから伊吹は避ける事も身構える事も出来ず、再び腹部に蹴りを喰らって後ろに吹っ飛ぶ。そして背中からロープにぶつかり、その反動で前のめりに倒れた。


「ぐあぁ、おえぇっ」


伊吹は腹を押さえて呻き、リングに嘔吐した。うわ、汚ねえし臭え。


一頻り吐き切り、四つん這いになって荒く息をする伊吹を俺は更に煽る。


「なんだよゲロ吐き野郎、もうお終いか?」


伊吹は赦さねえとかぶつぶつ呟きながらヨロヨロと立ち上がる。俺は伊吹に肩車を仕掛けてリング上に倒すと、すかさず右腕に腕挫十字固を決めた。勿論、ゲロが吐かれた場所は避けた。


「ぐあぁぁ!」


右腕に加えられた激痛に伊吹は悲鳴を上げた。そして俺が掛けた技から逃れようと踠く。踠くから更に技に力を込める。悲鳴を上げる。だけど逃れられない。


と、技を掛けている俺に上空から蹴りが襲った。咄嗟に技を解除してそれを避けると、蹴りを入れて来たのは岡田だった。こいつはとんでも無い卑怯者だな。一体こいつの親はどんな奴なんだろうな。


俺は後ろ回し蹴りを岡田の腹に入れた。そして腹を押さえて前屈みになった岡田の後ろに回ってチョークスリーパーをかまし、耳元で囁いてやった。


「お前は生まれながらの卑怯者だな、岡田」


「くっ、は、離せ」


俺の腕から逃れようするも岡田は逃れられない。チョークスリーパーは対応の仕方を知っていれは逃れようもあるけど、こいつは知らないだろうな。


「お前の親はお前がこんな卑怯者だと知ったらどう思うんだろうな?」


頸静脈が締められ脳に巡る血流が少なくなったのか岡田は答えず。俺は更に頚部を絞める腕に力を込めると岡田は意識を失い、ぐったりと身体から力が抜けた。


岡田をリング上に放り出して視線を伊吹に向けると、奴は何とリング上から逃げようとしていた。


「逃がすか!」


俺は伊吹を逃さんと奴のトランクスに手を掛けて後ろに引っ張っる。伊吹は更にじたばたと逃げようと踠き、その拍子に俺が掴んだ奴のトランクスがズルッと膝辺りまで脱げてしまった。伊吹は生尻を出したまま突っ伏す。


結構痛めつけたはずだけど、伊吹はフルチンのまま立ち上がり両手で股間を隠して凄い勢いでジムから逃げ出して行った。いや、そのパワーを決闘で出せよって話だ。


ジム内は今の珍事で何とも言えない空気となり、これをどう決着付けていいのか俺もわからないところ。すると空手部の部長とボクシング部の副部長から謝罪申し入れられる。


「自分達はこんな企みは知らなかった。しかし結果的に自分達も一枚噛んだ形になってしまった。申し訳ない」


空手部の部長はこんな事を言ったけど、下っ端はノリノリで俺を罵っていたぜ?穿って考えると、雪村高空手部に練習試合を申し込んだのもボクシング部とグルだったからじゃないのか?


ボクシング部の副部長はただただ平謝りだ。


「こんな事が良くないのはわかっていた。だけど岡田が有坂さんに惚れた部長を唆して焚き付け、誰にも止められなかった。部長の伊吹の父親はウチのOBで、会社経営者だからボクシング部に大口の寄付金を出すんだ」


そんな父親の虎の威を借りて伊吹は部長としてやりたい放題だったようだな。


俺は彼等の謝罪と言い訳を受け入れた。条件を付けて。


「空手部とボクシング部であの馬鹿二人を見張って美織と俺におかしなマネをしないようにしろ。それから美織には俺という最強な彼氏がいるって事をセンルチ男子校内で広めておけ。それがお前達の謝罪を受け入れる条件だ」


「「わかった」」


俺の着ているワイシャツの胸ポケットに掛けてあるボールペン。これは是親伯父さんの警備会社で使っている録画録音機能がある情報収集アイテムだ。岡田が俺の前に現れてから機能をONにしてある。あいつは反省するようなタマじゃないからね。もしも再び伊吹や岡田が美織と俺に何か仕掛けてきたら、この録画が威力を発揮する事となる。


ボクシング部も空手部も俺に従わざるを得ないだろう。何故なら今日の事が公になればこれ等二つの部は活動停止などの処分を受けるだろうし、当事者達も停学など経歴に傷が付くのだから。


とはいえ、俺は大事にする気は無い。部長の伊吹にしろ岡田にしろ、あまり追い詰めると却って何をしでかすかわからないからな。この辺りが落とし所だろう。

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