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直前にメンバーチェンジ、だと?

全国中学生剣道大会の試合形式はトーナメント制だ。その対戦表は準備等の関係から事前に決められているけど、それが公表されるのは大会当日の朝となる。なので、当日の朝に運営側のホームページに掲載されるトーナメント表を見るまで、自分たちがどこの代表と対戦するのか全くわからなかったりする。


ちなみに現在の中学生剣道大会のトーナメント表はAIによってランダムに組まれている。なので、以前のように代表校のキャプテンが抽選会でくじを引くと言うような事はなくなっているらしい。


そして、俺たちの初戦の対戦相手は、東北の日本海側にある県の代表校となった。


日本国には北は北海道から南は沖縄に至るまで遍く剣道団体が存在している。それは個人経営の道場だったり、地域の公共施設を借りた剣友会や剣道教室であったり、中高大の剣道部から官公庁や職場における剣道部会等である。まぁ、我国の剣道人口は多く、選手層も厚いって訳だね。


そこに人口密度や地域性と言うものが加わるとやはり剣道が強かったり盛んだったりする地域が出て来るのだ。前述の条件で言えば、やはり人口が多い東京や埼玉が挙げられ、後者の条件では九州地方の県が挙げられる。人口が多ければそれだけ強い剣士が出るし、剣道が盛んならやはり強い剣士が出るんだよ、という事かな。


残念ながら我々神奈川県は人口は多いものの剣道が盛んな地域ではなく、剣道が強い県でもない。


要するに何が言いたいかというと、初戦で東京や九州勢とは当たりたくないなぁと言うことだ。


それは東京だろうが愛媛だろうが福岡だろうが俺達は負けるとは思っていないよ?だけどなるべく負担なく勝ち進みたいと思うのが人情というものだ。自分一人なら強敵と戦って切磋琢磨するのも悪くは無いけど、剣道と雖も団体戦だからね。チーム全体のことで物事を考えなければならない。


全国大会初戦、俺達神奈川県代表の五浦中男子剣道部は、Aブロックの第二試合で対戦する事となった。


この全国大会、それまでの県大会とは著しく違った点が俺達にはある。それはメンバーのポジションチェンジだ。それまでの五浦中男子剣道部は、先鋒はミキで次鋒がタイチかショウ、中堅が俺で副将貴文、そして大将が友之という布陣が多かった。


この布陣で二年生の一人が補欠となり、二年生ポジションを三人で入れ替わる事はあるものの基本は変わらなかった。しかし今回の全国大会出場に際しては顧問の高遠先生がポジションチェンジの判断を下している。それは先鋒が俺で次鋒が貴文、中堅がタイチに副将がミキ、そして大将がこれまで通り友之と言うもの。


これを高遠先生が俺達に告げたのが全国大会の会場入りをしてからで、皆少なからず驚き動揺した。そんな俺たちの様子を見て取った高遠先生は、当然ながらその真意を説明し始めた。


「これは言ってみれば、そう、奇襲だ」


「「「奇襲?」」」


皆の疑問を一身に受け、高遠先生は腕を組んだまま「うむ」と頷いた。


「全国大会は毎年私立の強豪校が常連で出場している。連中はお互いに今まで何度も対戦しているから、毎年毎年選手は変わってもある意味良く知った間柄だ。その点お前達は初出場の公立中学。よくも悪くも全国レベルではルーキーで、おそらくどこもお前たちを侮ってノーマークだろう。そこで、まずは先鋒を勇樹、次鋒に貴文を当て圧倒的な勝利を見せつけて出鼻を挫くのだ!」


俺と貴文三年生の二人がまずは力を見せつける。中堅と副将を担う二年生のタイチとミキは実力的に十分全国レベルにあると高遠先生は判断したのだろう。友之について言及が無いのは、まぁわざわざ言わなくてもいいと言うことか。


奇襲と言えば聞こえはいいけど、多分にハッタリ的要素もある。ただ、初戦の対戦相手の出鼻を挫くというのは味方の士気を上げ、相手には心理的負担をかけ、無意識のうちに選択の幅を狭めるから俺たちに有利に働くことなのは間違いない。


高遠先生の説明が終わったので俺は挙手して賛意を伝える。


「俺は先生の作戦、いいと思います」


友之と貴文もうんうんと頷き。しかしタイチとミキは、特にミキがこの作戦に不安を訴えた。


「俺が副将なんて大丈夫なんでしょうか?」


ここはこの作戦の一の太刀となる俺が二人の不安を払うところだ。


「先鋒だろうが大将だろうが試合は試合で違うところはない。お前達なら出来るよ。それに俺から見ても二年生三人ともどこに出しても遜色のない実力者だ。頑張って来た自分を信じて、そして積み重ねてきた自分達の時間と努力を信じろ」


俺がそう言い終える「うぅっ」と泣き出す二年生の三人。


「ユウ兄、俺、やります!」


「ユウキ先輩、俺、もう迷いません!」


「ユウキ先輩、先輩にそう言って貰えて、俺、自分が誇らしい…」


後輩の不安を覗くことには成功したようだったけど、当の二年生三人はそのままおいおいと泣き出し、なんとそれを見ていた一年生達までぐずぐずと鼻をすすって涙ぐんでしまっている。思っていることを言っただけだけど、この悲愴感。俺、やっちまったか?


「みんなやる気になったようだぞ、友之?」


と、不意に貴文が友之にアレをやれと促す声が聞こえた。


「よし、景気付けに一丁北海道でもアレをぶちかますか!」


友之と貴文の言う「アレ」がわからない奴はこの剣道部にはいない。


「みんな、竹刀を持て」


部長である友之の命令で試合に出る三年生と二年生は竹刀を手に取ると頭上高く掲げて切先を交わす。一年生は一瞬迷いを見せたものの、次の瞬間には竹刀を持つ先輩達の右手に自らの右手を重ねた。


道着に学生服の十人で高く掲げられてクロスする六本の竹刀。


「いいか、事ここに至っては後はもうやるしかない。みんな自信を持て。俺たちはそれだけの事をやってここまで来たんだ、そうだろうみんな?」


おう!と答える俺達。


「行くぞ!俺達は最強だ!五浦中男子剣道部、最強!!」


「「「最強!最強!最強!!」」」


五浦中男子剣道部名物、最強三唱が北海きたえーるのロビーに響く。


〜・〜・〜


何はともあれ、高遠先生が発表した大会当日での突然なメンバーチェンジは僅かに俺達に不安を与えたものの、雨降って地固まるの言葉があるように俺達の士気を高める結果となった。


元よりどこにも負ける気は無かったものの、何だか前よりも上手く行ける気がするよ。まぁ、会場のロビーであんな事したものだから、多分かなり目立ってしまっただろうけど。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつの間にか剣道小説になってる……
[一言] スポーツパート長すぎ 剣道とか誰も興味ないと思う
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