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始まる県大会

⭐︎ 田村恵美視点


ふふっ、美織ったら胸の前で手を組んじゃって。一体誰に何を願っているのかしらね。って、まぁ青木君絡みなのだろうけど。美織のこういうところが可愛いのよね。


私、田村恵美と有坂美織は小学五・六年のクラスメイト。地元の公立中学校に進学する生徒が多い中で、私と美織、それともう一人長束美穂の三人は私立中学を受験するためクラスの中で自然と仲良くなった。更には三人とも名前に「美」が入る事もあって次第に親友と呼び合う仲になり、私立中学校に進学を目指す同士として受験勉強を頑張った。


あっ、同じクラスに私立中学校受験する男子が二人いたけど、アイツらの事はここでは省略。


美織はポニーテールに束ねているけど綺麗な黒髪の色白な美少女。ちょっと釣り目で眼差しが鋭く、且つ理知的な雰囲気が彼女に冷たい印象を与えるけど、中身は優しくて臆病な空回り気味なポンコツ女子だったりする。


美織のそうした性格は私とは正反対だ。私はよく日本人形みたいと言われる外見をしていて、そのせいか性格も嫋やかと思われている。だけど実際は気が強いし、言うべき事は遠慮なくずけずけ言い放つ結構キツい性格だ。


そんな正反対な性格の私と美織、時々私の遠慮無い物言い美織がムッとする事が有りつつも案外と私達は相性が良い。


だからか、そうした美織の外見の冷たさと時折覗かせるポンコツな内面とのギャップがどうにも危なっかしくて可愛らしくて、私はどうにか彼女を守ってあげたくなってしまうのだ。


これはどうも私だけじゃないらしく、クラスの影の支配者、学級委員の洞樹さんも私と同じみたいだった。その洞樹さんによれば、美織の幼馴染の男子が今まで陰に陽に美織を守ってきたという。


その美織を守ってきた幼馴染が青木勇樹君だ。美織は自分の中学受験を彼に頼らずに挑もうとして盛大に空回りした挙句、彼に八つ当たりして疎遠になったらしい。


そして美織が冷静になった頃には彼女一人では取り返しがつかない程に青木君の美織に対する感情は悪化。そのため美織に岡田のような最低な奴がちょっかいを出す隙が出来てしまった。


美織は青木君と元の仲の良かった幼馴染に戻りたいと思っていたけど、青木君は美織に怒っていたのか、それを通り越してもう美織に関心が無いのか、その気は無いようだった。なので、そのままだと美織に悪い虫着いてしまうのは必定。


そうした現実に、共に美織を愛でる仲間の私と洞樹さんは手を組み、なんとか岡田を排除して美織の安全のため美織が青木君を仲直り出来るよう手を尽くす事となったの。


結果的にはまさかの美穂の裏切りが有りつつも岡田排除は出来た。だけど小学校卒業までに二人が幼馴染に戻る事はなかった。


だけど、その過程で洞樹さんが青木君に他の女子が近付かないようにした仕掛けが広まって変質して淑女協定なんてのになったり、青木君の友達である中村貴文君が私達の計画に加わったりと想定外の出来事がありつつ、中二のクリスマスイブに美織と青木君が和解して幼馴染に戻る事が出来たのは上々だったかしら。


まぁ、今はそれまでの反動なのか美織と青木君は仲良くなり過ぎて、というか美織が青木君を好き過ぎて、私に来るレイルでの報告がちょっと煩いのだけど。


思えば、幼馴染であるというのは厄介な事よね。今の二人がお互いを好き合っているのは一目瞭然。これが中学で出会った男子と女子だったらどうだろう?きっとどちらかが告白して、とっくに彼氏彼女になっているはず。だけど幼馴染だと幼馴染からなかなか先に踏み出せない。それはきっと二人が幼い頃から積み重ね来た時間と思い出、築いてきた絆なんかが足枷になるんじゃないかな。どちらかが告白して二人の時間や思い出、絆が壊れる事を恐れるからかもしれないわね。


美織と青木君の間に立ち憚る幼馴染の壁。両思いなのに幼馴染の壁があって両片思い。今の二人に必要なのは、この壁を乗り越える、或いはぶっ壊せる去年のクリスマスイブでのようなイベントね。この県大会がそうなれば良いのだけど。


熱心に祈るような美織を見ていて、ふとそんな事を思った。その間にも試合会場の設営が出来たようで、いよいよ試合が開始される。第一試合には青木君や中村君のいる市立五浦中学も含まれている。


幾つかある試合会場では既に対戦校同士が相互に礼をして双方の先鋒が竹刀の切先を合わせている。


会場内のあちこちからそれまでの私語によるざわつきとは違う、試合に臨む母校を応援する声が上がって会場内に響く。


「恵美、なんか緊張するね」


「落ち着きなさい美織。あなたが緊張してどうするのよ」


全く、この子は。本当、見た目と違うんだから。


「だって、県大会だよ?昨年、五浦中は2回戦で敗退してるからさ」


「美織、逆に考えて。昨年ですら2回戦まで進んでいるんだから。青木君達を信じなきゃ」


「そうだよね。あの勇樹が負ける訳無いし」


まぁ好きな男子が県大会という大舞台で試合に臨もうとしているのだから、心配とか、不安とかそんな気持ちを抱いてしまうのはわかる。わ、私だって中村君が心配だしね。彼が勝つって信じたいけど、世の中には絶対は無いから。


「あっ、見て。五浦中の試合が始まるよ」


美織はいつの間に出したのか、ゴツい軍隊で使うような双眼鏡で五浦中のメンバー(多分青木君)を見ていた。


その点は私も抜かりは無い。私もバッグから父に借りた小型双眼鏡を取り出して五浦中男子剣道部に向ける。更に副将にピントを合わせると、レンズの中に少し緊張したような面持ちの中村君が映った。


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