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三浦義政、半生を振り返る③でラスト

それから有坂さんと俺に何があった訳じゃない。ただ部活の友達が合同稽古の際に有坂さんに俺が話しかけれるよう気を回してくれ、会えば挨拶して二言三言「寒いね」とか「暑いね」なんて話が出来るようにはなってた。


この頃の俺は合同稽古で有坂さんと会える事、休日に横浜の街に遊びに行くことが楽しみで仕方なかった。毎日が充実して日々の稽古にも身が入り、そうした心が反映したのか二年生になると俺は初めて公式戦のメンバーに次鋒として選抜されたのだ。


(これで有坂さんにいいところを見せられるな!)


俺の心は踊った。


初めての公式戦は最初こそ多少は緊張したものの、俺は次鋒として地区大会を、そして次大会でも勝ち進み、ついに市大会決勝戦へと駒を進めた。


聖ルチア学園は中学高校共に強豪校と呼ばれて毎年県大会に出場し、全国大会にも何度もの出場経験がある。なので、地区大会や市大会などは制して当たり前の通常運転。だが、この大会には我が校の剣道部からも数名の部員が係員として動員されている。その中には有坂さんもいたため、俺は俄然やる気になっていた。


(市大会に優勝したら有坂さんも俺を見てくれるようになるだろうか)


なんて事も考えていた。


〜・〜・〜


市大会の決勝戦、その対戦校は今まで聞いた事の無い公立中学だ。第1剣道部の部員達は俺を含めてその中学を完全に見くびって馬鹿にしていた。たまたま強いメンバーが集まり、まぐれで運良く勝ち残ったに過ぎないと。だが決勝戦の先鋒戦が始まるとそうした認識はすっ飛んでしまった。


対戦校の先鋒はこちらの先鋒の打突を頭上竹刀で弾くと空いた胴を瞬時に打ち払った。


あの技には見覚えがあった。どころか4年前の全国道場少年剣道大会で俺自身が食らった技だ。ならば対戦校の先鋒、まさかあの時のあいつか?


その後、対戦校の先鋒は鍔迫り合いでこちらの先鋒を翻弄し、焦って仕掛けたこちらの先鋒の小手を打って勝利した。


「へぇ、無名校の割にはやるじゃねぇか」


中堅の先輩が俺の横でそんな感想を漏らすのが聞こえる。何をそんな呑気な事を言っているのかと俺は内心憤りを感じた。確かに4年も前の事だが、俺はあいつに手も足も出ないまま秒で敗れているんだ。あいつの試合をみてへぇだと?そんな感想しか出ないからあんたは俺に勝てないんじゃないのか?先輩。


先鋒戦が終わるその頃になると、俺は対戦校の先鋒が4年前の全国道場少年剣道大会で俺を負かしたあいつだと確信していた。あの技、あの動き、そしてあいつは神奈川県の代表だったから。


その事実に俺は4年前の恐怖心を思い出し内心動揺していた。だが、と思い返す。俺は4年前の俺じゃない。次の年はあいつから受けた敗北の屈辱感から大会に出られなかったが、俺は稽古に稽古を重ねて更に翌年の大会には出場して全国大会で優勝までしたのだ。


俺は激しく刻む鼓動を治めるように大きく深呼吸する。負けられない、直接対戦していなくともあいつにこの4年の成果を見せつけてやる。そんな思いに駆られて次鋒戦に臨む。


そう意気込む俺とは対照的に対戦校の次鋒は落ち着きはらい、先鋒が挙げた白星を守るように負けない戦いに徹した。その結果、俺は対戦相手を攻めきれず次鋒戦は引き分けに終わった。


〜・〜・〜


無名校と侮った相手が実は実力者揃いだった。そんな馬鹿な?そんな事ってあるのか?事実を事実と受け止められないまま試合は続き、俺達聖ルチア学園附属男子中学校第1剣道部は決勝戦に敗れてしまった。


強豪校として有り得ない事態に呆然となる中、対戦校の先鋒が試合会場のコートを突っ切ってこちら側へ歩いて来る。何だ、無様に負けた俺達を笑いに来たのか?


騒然となる俺達を無視するように進むそいつは俺達の奥で応援していた有坂さんの元へ向かい、有坂さんに手に持つ何かを手渡した。有坂さんの手を握って。


その時の有坂さんの表情は、いつもの凛として気の強そうなそれでは無く、頬を染めてちょっと呆けたような。認めたくないがまるで恋するような表情をしていた。


去って行くあいつをボーッと見送る有坂さん。


(クソッ、あいつは俺達に勝ったばかりか、有坂さんまで俺から奪おうというのか!)


嫉妬に駆られた俺は思わず有坂さんに詰め寄ってしまう。


「おい、有坂。あいつはお前の何なんだよ?」


有坂さんはそんな俺を無視してあいつの背中を見続けていた。


〜・〜・〜


有坂さんに好きな男がいる、しかもそいつは剣道でただ一人俺を負かした奴だ。この事実に俺の心は掻き乱された。要するに嫉妬しているのだ、俺があいつに。


このままでは有坂さんをあいつに奪われてしまう。嫉妬心からそんな焦りに囚われ、その思いのまま俺へ有坂さんに自分の気持ちを告白した。


「有坂、君の事が好きだ。俺と付き合ってくれ!」


「ごめんなさい、私には恋愛とかしている余裕は無いんです」


即答だった。受け入れられるとは思っていなかったが。


「そうか、わかった。態々呼び出して済まない」


俺がそう言うと有坂さんはさっさとその場から去って行った。その後姿を見送っているとこの場を設けてくれた部活の友達がどこからか現れた。


「ドンマイ」


「うむ、お前は頑張った」


奴等は後ろから肩を組んで来て、口々に慰めの言葉を口にした。友達とは有難いものだとこの時ほど感じた事は無かったな。


〜・〜・〜


中学三年生に進級し、再び大会が始まる。


俺達聖ルチア学園附属男子中学第1剣道部は地区大会を勝ち抜き、市大会に出場。その会場となる横浜武道館であいつを見かけた。


先日、うちの部員が八景島のファミレスであいつと一緒にいる有坂さんを見たと言っていた。随分と親しげだったようで、俺が彼女に振られたと知っている彼等は有坂さんに詰め寄ってしまったらしい。その際にあいつは自分を有坂さんの幼馴染だと言ったそうだ。


(彼氏ではなかった、か)


あいつが有坂さんの彼氏ではないと、ただの幼馴染であるなら。あの告白では玉砕してしまったが、この市大会で俺があいつに勝ったならば有坂さんを振り向かせるにワンチャンあるのではないか?


そう思うと俺は仲間達から離れ、いつの間にか足はあいつのいる五浦中の待機場所に向いていた。そしてまじまじと見るあいつは悔しいかな、頭がキレそうで涼やかなイケメンだ。有坂さんと並べばお似合いだと思ってしまえるほどに。


「お前が有坂美織さんの幼馴染か?」


俺がそう尋ねると、そいつはどうも俺の相手をする気が無いらしく何だかんだと煙に巻こうとする。


「ってか誰だよお前?こっちはこれから試合があってその前に開会式だってあるんだ」


試合があって開会式かあるのは俺も同じだ。っと気が急って名乗りもしていなかったか。


「俺は聖ルチア学園附属男子中学校第1剣道部の三浦義政だ」


遅ればせながら俺が名乗るとあいつも名乗り、俺に用向きを尋ねる。なので、


「そうか。では率直に尋ねる。お前は有坂美織さんの何たのだ?」


その後、また青木が俺を適当にあしらってその場を後にしようとし、俺も青木のペースに巻き込まれないよう一気に用件を伝える。


「俺は先日、有坂さんに愛の告白をして断られてしまった。だがうちの部員がお前と有坂さんがファミレスで一緒にいるのを見たと言うじゃないか。お前は部員達に有坂さんの幼馴染だと言ったそうだが、そうは見えないとも言っていた。有坂さんは恋愛なんてしている暇は無いと言って俺の愛の告白を断ったが、それは嘘なのか?俺は彼女が嘘を吐いてまで俺を拒んだとは思いたくない。だから手っ取り早く有坂さんと一緒にいたというお前に有坂さんとの関係を尋ねようとこうして来た。お前に問う、お前は有坂さんの何なのだ?」


周囲で見ていた五浦中剣道部の連中が俺の言葉で笑い出す声が聞こえたが気にしない。


「うちの一年が済まなかったな。まぁ、俺はそっちの部員が言ったように有坂美織の幼馴染で間違い無い。そいつらが見たって言うのはファミレスでの勉強会での事だろう。それから彼女の名誉のために言うけど、あんたの告白を断った理由も本当だろう。美織は父親のような医師で研究者になりたくてセンルチに入学したんだ。女子中に入ったのも男子生徒に余計なちょっかいを出されたくなかったからじゃないかな(多分)。だから美織をそっとしておいて欲しい」


「幼馴染か。彼氏ではないのだな?」


「彼氏ではないな」


彼氏ではない、青木の口からそう聞き、青木と有坂さんが付き合ってない事実を知った。ならばまだ望みはある、そう思い口元が弛む。


「そうか。なら俺にもまだチャンスはある訳か」


思わず心の声が出てしまったようで、青木は俺を呆れたように見る。と、そこで俺を探しに来た部の仲間達が集まって来た。


「なぁ、お前、俺の話聞いたろ?美織が好きなら美織の気持ちや立場を尊重しろよ。お前のそれは恋愛感情じゃなくて美織をモノにしようという欲望と執着と利己心だぞ?」


俺の有坂さんへの想いを欲望だと、執着だと、利己心だと言う青木。それは自分でも多少自覚がある事で、それだけにそれを青木に指摘されカッとなった。俺は逆ギレと知りつつも支離滅裂となりながら言い返す。


「何だと?お前に何がわかる!俺の美織さんへの想いはそんな物じゃない!お前こそ幼馴染とか言って美織に付き纏うストーカー野郎だ!」


すると双方の部位達が俺と青木、それぞれのバックに着いて互いに罵声を浴びせ掛け始めた。


「おいお前!ユーキ先輩を侮辱してんじゃねえ!」


「そいつが先に三浦先輩を侮辱したんだろうが!」


この事態に青木は俺を酷く冷ややかに見る。いや、俺もただ青木と有坂さんの関係を尋ねたかっただけでこんな事を起こすつもりはなかった。


だがここは部員達の手前もあり、引いて弱気な態度を見せる訳にはいかない。第1剣道部の部長や副部長ではないが、俺も今やセンルチ男子中学第1剣道部の看板を背負うレギュラーの中でもエースなのだ。試合に限らず強気で行かないと。


「俺は確かに有坂さんに告白してフラれた。だけど俺は有坂さんを諦めない。お前は有坂さんのただの幼馴染だろう。だったら俺のやる事に要らぬ口を出すな!」


「あのな、お前の事情なんてどうだっていいんだよ。美織にはしっかり勉強しなきゃならない事情があるって言ってるだろう。そっとしておいてくれって言ってるんだよ。俺をストーカー呼ばわりしやがったけど、お前こそ美織のストーカーだろ」


俺に聖ルチア学園附属男子中学校に入学した理由があったように、彼女にも聖ルチア学園に入学した事情があるのはわかる。いくら俺が有坂さんに好意を抱いているからといって俺がそれを妨げていいもんじやない。だが、こうなったら俺も後には引けないんだ。


「だったら、青木、有坂さんを賭けて俺と勝負しろ!」


「はぁ?」


思わず口を突いて出た言葉。それだけじゃ終わらなかった。


「いいか、俺達センルチ第1剣道部がお前達市立五浦中をこの大会で叩きのめしてやる。俺達が勝ったら青木、お前は俺のやる事に口を出すな。それからお前は有坂さんに今後一切近付くな!」


言っちまった。言っちまったものは仕方がない。


「俺達が勝ったらお前はどうするんだよ?」


「聖ルチアがお前達ごときに負けるはずがない」


「いや、去年負けたよな?」


ぐっ、確かに負けた。だがあれはこちらに油断があったからだ。


「仮に聖ルチアが負けたら、俺は有坂さんを諦めるし、今後彼女に近付かないと約束しよう」


「いいだろう。その勝負、受けて立つ。約束は守れよ?」


「当たり前だ。お前こそ守れ」


こうして図らずも俺と青木は有坂さんを賭けてこの横浜市大会で勝負する事となり、この後トーナメントを勝ち進んだ両校は決勝戦で対戦する。


負けられない。絶対に負けられない戦いを俺はこれから戦うのだ。













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― 新着の感想 ―
[一言] こんな自己中ストーカーモブ野郎のバックボーンに3話は長過ぎて読んでて普通にキツイし不愉快。 1話で良いと思うし、今後出て欲しくも無いです。 個人的には蛇足かなと思ってしまいました。
[一言] 今後こういうモブの不快な話は一話完結にして欲しい。ストーリーの展開が遅くなるだけ。
[一言] 普通にキモいな。
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