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三浦義政、半生を振り返る②

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全国道場少年剣道大会の個人戦優勝。この結果に不満を抱いたらバチが当たってしまいそうだ。だが俺は俺を秒で負かしたあいつが大会に出場しなかったため、最大の敵を打ち負かす事無く掴んだ優勝杯に正直あまり価値を見出せないでいた。


とはいえ、それはその年に世界広しと雖も一人しか手にする事が出来ないトロフィーだ。俺はこの成果から大会に来ていた幾つかの私立中学校のスカウトマンからスポーツ特待生としての入学を打診された。


このため俺は両親と道場の師範と相談し、打診のあった私立中学校の中から最も条件の良かった神奈川県は横浜市にある聖ルチア学園附属男子中学校へスポーツ特待生として入学する事に決めた。


聖ルチア学園は中高一貫制で運動部の部活動はスポーツ特待生が入部するスポーツ科の第1部と普通科学生からなる第2部がある。スポーツ特待生は例外なく第1部に所属して学生寮に入居しなければならない。


もし、何らかの理由からスポーツ特待生が部活動継続困難となった場合、その特待生は特待生の資格を失いスポーツ科から普通科に転科、更に学生寮から退去しなければならない。それはほぼ退学を意味するため、他のスカウトのあった私立中学校よりも過酷だ。


だがその分学費や寮費は全額免除となり、その他の学用品や部活動で使用する備品等も学園から支給される。要は無料(ただ)で勉強と剣道が出来て高校まで進学出来る訳で、リスクはあるものの俺にとっては正に剣道に専念出来る環境と思えたのだ。


そして地元の小学校を卒業すると、俺は入学式前に学生寮に入居するため4月になって早々に故郷を離れる事に。


今更ながら、俺には歳の離れた双子の弟と妹がいる。この4月から小学二年生となり、剣道剣道であまり構ってあげられなかったが兄ちゃん兄ちゃんと俺を慕ってくれているのだ。


中学進学と共に故郷を離れる事となると、祖父と父は頑張れ!と激励、祖母と母は頑張ってね休みには帰るのよ?とちょっと寂しそう。そして弟と妹は泣いて抱きつき、皆それぞれで俺を西武秩父駅から見送ってくれた。


駅のホームで竹刀ケースを肩に担ぎ、バッグを背負ってキャスター付き防具袋を引く俺の気分はさながら師範の家で見た古いアニメ『赤胴鈴之助』。これから花のお江戸ならぬ港横浜で稽古に励み、剣を取っては日本一に、いや世界一に!と意気軒昂。故郷を離れ家族と離れる寂しさや不安な気分もいつしか消えていた。


俺の胴は今も昔も普通に黒いが。


〜・〜・〜


聖ルチア学園は横浜市でもやや内陸の港南区にある。丘陵地にある敷地には校舎や学生寮の他に幾つかの体育館に屋内プール、ナイター設備の整った陸上競技場、野球場、サッカーコート、更にはテニスコートやラグビー場、更には屋内練習場が揃っている。勿論、剣道部、柔道部、空手部が稽古に使う格技棟もある。


ここでのスポーツ特待生としての学生生活は快適だ。よく聞く部活や学生寮での先輩達からのいじめなんて殆ど無い。先輩達言うにはいじめがあるとしてもたちどころに生活指導員が介入し、場合によってはいじめを行った生徒が退学となる事もあるそうだ。そうした生活指導員という存在と重い処分がいじめに対する抑止力になるようだった。


スポーツ科の平日は中学生として(やや体育に偏った)授業を受け、放課後は19時頃までばっちり部活動がある。因みに聖ルチア学園では朝練が無く、その替わりに第1部には土曜日の午前中に練習がある。


土曜日の午後から日曜日の夜までは自由時間となる。事前に生活指導部に申請しておけば土日の外泊も出来る。だから土曜日の午前練が終わると実家に帰る寮生も多い。


俺は毎週土日で実家に帰っていたが、いつしか帰省は隔週に落ち着いた。何故かと言えば俺はすっかり横浜の街に夢中になってしまっていたからだ。


入学して一ヶ月も経つと日々の生活も落ち着いた。5月に入ってゴールデンウィークになると聖ルチア学園は中間試験前という事もあって、この間は学校が休みとなる。俺は実家が埼玉県という事もあって横浜から比較的近いためゴールデンウィーク初日は家に帰らず、剣道部の先輩に誘われて横浜の街に繰り出した。


初めて目にする港横浜は海も街もキラキラしていて、何処もかしこも、人も街も洒落ていた。ベイブリッジにみなとみらい、赤レンガ倉庫に山下公園。俺はこの丸ごとアトラクションとテーマパークのような横浜という街にすっかり魅了されてしまった。


魅力と言えば、俺は一人の女子にもすっかり魅了されてしまっている。その女子の名は美織さん。有坂美織さんという。


有坂さんは聖ルチア学園附属女子中学校の生徒で、俺と同じく中学一年生だ。彼女はセイルチ女子中の第2剣道部の部員でもある。


聖ルチア学園は普通科も部活動が必修。といって普通科とスポーツ科が一緒の運動部で活動すれば能力差から差別や軋轢が生じかねないし、スポーツ科生徒の足を引っ張ってしまい効率が悪い。そのため運動部は普通科学生のためにもう一つ、第2部が存在している。


剣道部にも当然第2剣道部があり、剣道部の場合は以前から一月に一度、第1と第2の壁を取っ払った合同稽古がある。俺が有坂さんを見かけたのはそんな合同稽古の時だった。


有坂さんは聞けば普通科でも成績上位者からなる特進クラスなのだそうで、特進クラスの生徒が運動部に入るのは珍しいのだとか。


彼女は色白で、長く艶のある黒髪をポニーテールに束ね、ちょっとつり目気味な両眼は涼やかでいて気が強そうに見える。スッと伸びた鼻梁にきゅっと結んだ形の良い唇は意思の強さが感じられた。姿勢が良く、白い道着と黒い袴を纏って竹刀を構えるその姿はまるで俺が師範の家で見た古いアニメ『お〜い!竜馬』に登場した千葉道場の娘、千葉佐那子さん(CV:島本須美)そのものだった。


実は俺の初恋はこのアニメ『お〜い!竜馬』の千葉佐那子さんだったりする。乙女姉さんも嫌いではなかったが。


この時に俺が有坂さんに目を奪われて視線で追ってしまっていたのが男子中学第1剣道部の友達にばっちり見られていたらしい。


その後、男子中学第1剣道部で俺が有坂さんが好きだと噂が出回った。それが全くのデマではなかったため怒るに怒れず、かといってこれ以上揶揄われたくなかった俺は内心閉口しながらも気にしてない体を装った。




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― 新着の感想 ―
[一言] まだコイツの話続くの? もうちょい短くて良かったかと
[一言] ただでさえテンポ悪いのに、どうでもいいモブキャラにあと何話割くんですかね? 魅力の無いヒロインをモブとくっつけるフラグにしたいのかな?
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