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僧兵団との戦い①

市大会、五浦中男子剣道部はトーナメント戦を勝ち進む。鎧袖一触、先鋒から大将まで全勝だ!2回戦までは。


3回戦目で俺達は苦戦を強いられる事となった。対戦相手校は私立三菩提学園附属中学校。とある密教系宗派が経営母体の仏教系私立中学校で、東京は町田市に接する丘陵地にある。


この学園のモットーは文武両道、質実剛健。運動部の男子は例外無く頭髪はスポーツ刈りで、剣道部、柔道部、弓道部、空手部が特に強い事からこの四つの部は僧兵団と呼ばれ、部員達も僧兵とか山法師なんて呼ばれている。


それは半ば揶揄いの意味も含まれているのだろうけど、それでも彼等が"兵"や"兵団"に例えられるほどの実力がある事に変わりはない。


〜・〜・〜


その三菩提中との先鋒戦、五浦中の先鋒を担うのは二年生のミキだ。小柄ながら俊敏な動きと切れのある技に定評をあり、跳躍を生かした打突を得意とする。


対する三菩提中の先鋒も二年生なのかミキと似た体格だ。既に防具を付けて竹刀を持ち、アップのためかぴょんぴょん跳ねる様子を見るに、剣士としてもどうもミキと同じタイプらしい。


始まった先鋒戦は、やはり同じタイプ同士の戦いとなった。素早く切れのある打突戦は双方打ち合っては離れ、打ち合っては離れるの繰り返しで有効打が決まらない。ミキに一度副審の旗が一本上がったものの、結局先鋒戦は引分に終わった。


次いで次鋒戦、五浦中の次鋒は二年生部員のタイチ。サッカー少年だったタイチは中学一年で剣道部に入部して以来背丈も伸び、体格も逞しくなった。今ではサッカーで培った脚力と持久力に剣道部で身に付けたパワーを併せ持つ剣士となっている。


対する三菩提中の次鋒は、これまた防具越しにもわかるガッシリとした体格の選手。タイチと似たタイプだ。


「何だろうな。三菩提中学がウチと同じような選手を故意にぶつけてる気がするよ。偶然か?」


「な訳あるか。三菩提中が俺達をマークしているって事だ」


友之の呟きに貴文が答える。うん、俺も貴文の考えに同感だ。


「そりゃあ、俺達は昨年の優勝校だからな。他の公立中学ならともかく、三菩提中やセンルチ男子中なんかは私立強豪校だけに予算も人手も足りているから敵情偵察や情報収集くらいするだろう」


「そりゃそうか」


友之は納得したようにそう返すと、始まった次鋒戦に目を移した。


先攻はタイチ。鋭い気合と共に打ち込んだ面は相面となるも双方決まらず。激しい打ち合いから鍔迫り合いとなり、暫し膠着状態に陥って主審によって中断された。


試合再開。双方、今度は対峙したまま動かない。相手はタイチから打突を引き出すべく小技で挑発を繰り返す。タイチは挑発には乗らなかったけど、相手が挑発の小技を出し終えた瞬間を狙って仕掛け面を放った。


これは決まるか?という鋭い打突。しかし相手はそのタイミングを待っていたかのように振り上がったタイチの右手にビシッと鳴るような小手を放ったのだ。


「小手あり!」


三菩提中の襷の色である白の小旗が三本上がり、そして試合時間終了の笛が鳴った。


〜・〜・〜


次鋒戦は五浦中の負け。タイチと相手選手は似たタイプながらも、どうやら相手の方が試合巧者であったようだった。


続く中堅戦、俺の出番だ。


やや肩を落として戻って来るタイチ。


「すみませんでした」


「お疲れさん、敗北も貴重な経験だ。次に生かそうぜ」


「はい。ユウキ先輩、仇討ちをお願いします」


後は任せろとばかりに俺はタイチの肩をポンッと叩き、戦いの場に臨む。


対戦相手に一礼、互いに三歩進んで竹刀を構えると、蹲踞して立ち上がり対峙する。


「始め!」


主審の掛け声で中堅戦が始まった。


三菩提中学中堅、背丈はやはり俺と同じくらい。しかし体格では俺に勝り、どっしりとした安定感が窺える。


「だぁっ!」という独特な気合が相手から発せられる、と同時に素早い打突が繰り出される。俺の面を狙って振り下ろされる鋭い打突を俺は半身を切りつつ竹刀で凌ぎ、同時に下がり面を放った。


見かけによらず俊敏な動きをする相手選手。俺の打突を頚を傾げて避けると、追い討ちをかけるように距離を詰め、更に面を放った。


このチャンスを待っていた俺、右に上半身を傾げてこれを躱わすと、相手選手の胴を払った。


「胴あり!」


まずは一本先取だ。


試合が再開すると、相手選手からは一本先取された焦りは感じられず。どっしりとした落ち着いた佇まいからは逆に俺が重圧を感じたほどだ。


"動かざる事山の如し"。孫子の兵法にある通り、どっしり構えて動かない相手は攻め難いものだ。互いに中段に構えて気合の掛け合いの様相を呈すると、試合は主審によって中段させられた。


互いに元の位置に戻り、竹刀を構え直す。さて、相手選手は次にどんな動きを見せるのか。


再び山の如く動かないのなら一本先取した俺の勝ちだ。個人で出場する個人戦なら、それで本人が良ければいいのだろうけど、これは母校を背負った団体戦だ。出場選手は勝たねばならず、或いは勝つために最善を尽くさなければならない。となれば残り時間を山として浪費する事は出来ないだろう。


「始め!」


主審の掛け声で試合は再開。


どんな相手であれ、竹刀を中段にしっかりと構えられたら真っ正面からは攻められない。それは何故かと言えば簡単な理屈で、そんな事をしたら相手の竹刀の切先が自分に当たってしまうから。それが竹刀ではなく真剣ならば喉元に突き刺さり致命傷となろう。


だから剣道に限らず武道や格闘技はまず相手の構えを崩すところから始まると言っても過言ではない。


さて、この試合、残り時間は僅かだ。なんなら俺が今度はさっきとは逆に山となり、竹刀を中段に構えていればいい。中学生の剣道では突きが禁止されている以上、俺の構えを崩すのは容易じゃない。


「ぐあぁ!」


熊の咆哮の様な気合と共に相手選手が放つ攻撃。それは俺の面でも小手でもなく、狙いはどうやら俺の竹刀!


相手は一瞬で間合いを詰めると、俺の竹刀を自らの竹刀で力任せに押し伏せ、そのまま体当たりをかます。


俺は竹刀から手を離して相手選手からの体当たりを躱し、相手選手は俺に避けられて体当たりの勢いのまま場外に飛び出して行った。


と、ここで主審が両手に持った紅白の小旗を上げて試合は中断される。これは試合中に俺が竹刀を落とした反則と相手選手が場外に出た事によるものだ。これは二人の反則が重なったため協議となり、その結果がどうなるのかというと、


「協議の結果、赤の反則一回!」


まぁそうなるだろうな。俺の方が先に竹刀を手放しているから。


反則は二回で一本となるからもう一回、例えば場外に押し出されるなどされたら俺は一本取られる事となる。


だがしかし、試合再開すると次の瞬間、(相手選手にとって)無情にも試合終了の笛が鳴った。


これで中堅戦は五浦中が勝ち、スコアは一対一だ。勝負の行方は副将戦の貴文、大将戦の友之に委ねる事となった。



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