付き合うって好き同士でする事
「え?俺と美織が付き合う?」
「はい」
ショウは滔々と俺に美織と交際する利を説明する。
「先輩、前に言ってましたよね?小六の時に幼馴染さんに変な同級生男子が言い寄って絡んだって」
確かに何かの折にその話をしたな。
「それで今度も幼馴染さんはセンルチの三浦にロックオンされました。先輩が幼馴染さんの彼氏になれば彼氏持ちの持ちの女子に、しかもそれが噂の美少年剣士団の彼氏となれば、言い寄る輩はかなり減ると思うんです」
うんうんとショウの説に頷く一同。それはとても説得力があるように思えた、けど、
「いや待て。付き合うってのは好き同士でする事だろう?俺と美織は幼馴染だぞ?」
すると今度ははぁ〜と一同から溜息が漏れる。
「勇樹、お前は、」と何か言いかける貴文を友之が制する。
「勇樹は、ほら、天然だから」
「あっ、そうか」
って何納得してるんだ?
友之は妙に慈愛の込められた眼差しで俺を見ると、子供に言って聞かすように俺に語りかける。むぅ、何か腹立たしい。
「勇樹は有坂の事が好きか?嫌いか?」
「そりゃあ、幼馴染だからな。好きか嫌いかで言えば好きだよ」
「好きなんだよな?で、お前は有坂と一緒に勉強したり、出かけたりしてるんだろ?」
「まあな」
「そういうのって普通は好き女子とだからするんじゃないのか?しかもお前が有坂を守るのだってこれが初めてって訳じゃないだろ?」
うん、まぁ、そうっちゃそうだけど。
「だからお前は有坂への"好き"を幼馴染としての"好き"だと思っているのかもしれないが、それはもうその域を脱して有坂を一人の女として"好き"なんじゃないのか?自分が気が付いてないだけで」
そう、なのか?俺は美織を幼馴染としてじゃなくて女の子として好き、なのか?
「俺もそう思うな。勇樹は有坂と仲直りしてまだそう時間が経ってない。だからまだ自分の気持ちに気付いてないのだと思う」
俺の悩む様を見て貴文も友之に同調。
「それに今回上手く三浦を退けたとしても、幼馴染さんがフリーでいれば今後第二第三の三浦が現れるんじゃないでしょうか?このままだとその度毎にそいつ等を一々排除しなくてはなりません」
「ユウキ先輩、その度にそいつ等は先輩が幼馴染と知ったら言いますよ「ただの幼馴染が邪魔するな」って。だから「幼馴染だから」は説得力無いと思います」
ショウと、そしてタイキも畳み込むように美織フリー危険説を俺に説いた。
小五までの俺は常に美織と一緒だった。ある意味、俺の世界の多くが美織だったと言っても過言ではなかった。だから実は小五よりも更に幼い頃に、もしかしたら自分は将来美織と結婚するのではないかと考えた時もあったりした。そして美織とだったらそうなってもいいなと思っていた。
その後で俺は美織から距離を取られてしまった。だからそうした事も忘れてしまっていたけれど、みんなから"勇樹は美織好き説"を力説されて俄かに思い出した。
そうだよな、美織が好きなんだよな。だから一緒にいたんだし、未来も一緒なんだと思ったし。
平静を装ったけど美織から距離を取られてショックだった。その仕返しみたいに俺もずっと美織を無視して距離を取った。それだってきっと美織が好きだったからなんだよな。
美織を守ってきたし、これからも守ろうと思っていた。それも当たり前のように思っていたけど、美織が好きだからこそなんだよな。
俺は美織が好きなんだ。誰にも渡したくないくらい。
そう思い至ると目から鱗というか、ばぁっと目の前が明るく開けた。
よし、そうとなれば!
いや、待て。ちょっと冷静になろう。俺は美織を異性として好きだ。それはわかったし、それは良い。良いとしても、
「俺は自分が美織を好きだという事、それは自覚した。だけどそれは自分がそうだというのであって、付き合うって自分が相手を好きなだけじゃ駄目なんじゃないか?相手の、その、美織の気持ちも考えずにそんな事は出来ないだろ」
「あのな勇樹、有坂ならずっと前からお前をす「待て待て!」」
さっきと同じく、何か貴文が言い出そうとした事を友之が遮る。
「それは周りが言う事じゃない。当人同士が気持ちを伝え合う事だ」
「そうだな、俺とした事が。しかし友之って見かけの割にロマンチストな奴だな?」
見かけの割にとは何だ!と友之が貴文に食ってかかったけど、確かに友之にはそうした面があって見た目や言動とはギャップがあるのだ。それは俺と友之しか知らないけど。兎に角、
「わかった。それは俺のこれからの宿題だ。兎に角、今日の俺は美織を守るため全力で聖ルチア学園附属男子中学第1剣道部を叩く!みんな、俺に力を貸してくれないか?」
「おお、任せとけ!」
「友として当然だ!」
「ユウ兄、俺の波動エンジンは出力上昇っス!」
「エネルギー充填120%です!」
「先輩、最大出力でぶっ叩きます!」
友之からタイキまで、皆が俺に力を貸してくれると言う。仲間って有難いなとつくづく思った。一年生部員達もこの流れに興奮気味だ。
「一年も近くに来い。いいか、俺達五浦中男子剣道部は今日、ここで正義のために戦う。一人の女子を心無い男の魔手から守るのだ。そのため俺達は全力で聖ルチア学園附属男子中学第1剣道部を叩き、奴等に正義の鉄鎚を下す。いいな?」
おお!と友之の言葉に一斉に応じる五浦中男子剣道部一同。この流れはあれをやるつもりだ。
「それじゃあ行くぞ!五浦中男子剣道部、最強!」
最強!最強!最強!!
最強三唱。図らずもここに俺達の気持ちは一つとなり、そして必勝の決意で第一試合に臨んだ。