幼馴染が怒ったのって僕のせい?
「言っておくけどさぁ、僕は美織に何もしてないし、まして喧嘩なんかしてないからね!何でか一方的に僕が美織から避けられて無視されてるんだ。おまけに憎々しげに睨まれるし。伯父さんは誰からそれ聞いたの?」
「誰って、麻理からだ」
麻理っていうのは僕の母さんの事ね。伯父さんと母さんは兄妹仲が良くて、今も頻繁に連絡を取り合ってるくらいだ。だからきっと伯父さんは母さんに頼まれて美織の事で僕に何かを話そうとしているんだ。
「この旅行がいい機会だと思ってな」
やっぱりか。
「おい、そんな目で人を見るもんじゃない。確かに俺は麻理からお前に幼馴染の女の子との事で話をしてやってくれと頼まれた。だけどな、お前の幼馴染とはいっても俺にとっちゃ他人だからな。それはどうでもいい。俺はお前の将来に関わる話をしたくて青木家の家族旅行に合流したんだ」
「そのために、態々?」
「そのために態々だ。それだけ重要な話って事だ」
何だろう?どうも美織とは関係無さそうだけど、将来将来と強調されると恐いな。
「そう身構えなくてもいい。要は将来への心構えについてだ」
僕の不安が表情に出たのか、伯父さんは先程とは一転して僕を安心させるような口調となる。
〜・〜・〜
「お前と美織ちゃんは幼馴染で仲が良かったな?」
伯父さんはまずは黙って聞けと前置きすると僕と美織との仲について尋ねた。
「う、うん。まぁ」
「それがどうしてお前を避けるようになったか、何か思い当たる事は無いのか?お前が何かしたかじゃなくて、その美織ちゃんに何か変わった事があったかも含めて」
う〜んと僕は考えてしまう。思い出しても喧嘩なんかしてないし、無神経な事を言ったりもしていない。美織が僕を避けるようになった頃といえば、
「確か美織はその前から進学塾に入った、かな」
「そう、そこだ。それが重要だ!」
美織のお父さんは医者で、大学病院に研究者として勤務している。美織のお母さんはその病院の看護師だった人で、母さんも薬剤師として勤務していた。それで美織のお母さんと僕の母さんは友達となっていた。
「その美織ちゃんはな、父親の仕事を見て自分も医者になろうと決めたんだそうだ。それで進学塾に入って中学受験に備えて勉強に励んでいるんだと」
「そうなんだ」
それは知らなかった、美織が医者になろうと決めたなんて。以前に美織と将来の夢について話した時に医者になるのか尋ねたら「まだわからないかな」なんて言っていたけど。
「それに対して勇樹、お前はどうだ?」
「僕?」
急に僕へ話が振られる。僕は別に中学受験なんて考えていないし、将来何になりたいかとか具体的な夢もない。まぁ、小さい頃は変身ヒーローのマスクドファイターになりたいとは思ったけど。
「彼女が一生懸命将来のために勉強しているのに対して、お前はどうだ?」
「どうって、特には何もしてないかな」
まぁ、僕は小学校で授業を受け、放課後は友達と遊び、宿題と予習復習をして、土日は地元の剣術道場の稽古。それの繰返しかな。
「だがその割にお前は学校の成績は良いし、スポーツもちょっとやればすぐに出来るようになる。そうだな?」
「う〜ん、まぁ、そうかな」
伯父さんが言った通り、僕は塾なんて通ってないし、家庭教師が付いている訳でもないけど成績は良い。野球もサッカーも水泳も習っていないけど、体育で習えばすぐに出来る様になってスポーツも得意だ。だから今まで特に何かに夢中になったり、努力して打ち込んだりした事がなかった。だって、そこまでしなくても出来るようになるから。
「将来のため進学塾通いして一生懸命勉強してる美織ちゃんは、特に何もしてないし、遊んでばかりいるお前が自分より良い成績を取っている事についてどう思うか?」
「腹立つ、かな」
「だろ?つまりお前が避けられ、睨まれたのはそういう訳って事だ」
なるほど!と思ったけど。でもそれって、
「要は八つ当たりじゃん?やっぱり僕は何もしてないし、悪くない」
「まぁな」
伯父さんは可笑しそうに笑った。
「だがな、世の中ってのは理不尽なものだ。女の気持ちなんてものは特にな」
「女って、美織はまだ小六だよ?」
「小六だって女は女さ。そこに違いは無いのさ」
真樹がさっき、いきなり美織の事について僕に怒り出したのもそういう事なのだろうか?だとしたら、女子の相手をするって何てめんどく、いや大変なんだろうか。
「何か怖くなって来た。でもそう考えると父さんが母さんと知り合って結婚したのも、きっと大変だったのかな。だとしたら父さんを尊敬する」
「あぁ、虎太郎はなかなか大した奴だったぞ。あの麻理をちゃんと惚れさせて結婚して子供も出来て、こうして家庭を営んでるんだからな」
虎太郎って僕の父さんの名前だ。母さんはフルコンタクト空手の黒帯。日本代表にもなって空手雑誌の表紙も飾ったのだとか。見た事はないけど。
「伯父さんは?」
「伯父さんは、そうだなぁ…」
是親伯父さんは昔も今もイケメンで男らしく強くてもてもてだ、と父さん母さんが言っていた。でも、それだけに浮気とかしてしまうとか。僕は伯父さんに顔が似ているそうだから母さんに心配された事もあったっけ。
「俺の事はいいんだよ。問題はお前の事なんだから」
焦った伯父さん。だけど、どうやらここから本題に入るみたいだ。