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三年生になる前の過去編③

全力全開。その対象は教室での授業、体育、教室の掃除、学校行事など何にでも及んだ。放課後も図書館でしたり、体育で習った技の更に難易度の高い技に挑んだり。だけどその分、3人で一緒にゲームする機会は減ってしまっていた。


そんなある日、例の公園で友之と二人でゲームをしていると、ゲーム機を操作する手を止めた友之が俺に話しかけてきた。


「なぁ貴文、勇樹の奴が何やってるか知らないけど、ここはゲームより奴に付き合った方が面白くなりそうだって俺の野生の勘が告げてるんだが、お前はどうする?」


何を言い出すのかと思えば、野生の勘だって?しかし、うん、まぁ、二人ゲームも三人に慣れたら味気ないというか、寂しいというか。


「どうするも何も、野生の勘が告げてんだろ?じゃあ勘のままにした方がいいんじゃねぇの?」


顔を背けてそう言ってみた。チラッと見た友之と目が合うとニヤリと笑われた。ちっ、ムカつくな。


「じゃあ、これから勇樹のところに行こうぜ?何やってるか知らんけど」


今日は十中八九校庭でバスケの練習してるんじゃないかな。今日の体育はバスケだったからな。


こうして勇樹がそれまでと変わると、俺と友之の日常も徐々に勇樹が起こした風に巻き込まれて変わっていった。勿論それは面白い方へと。


〜・〜・〜


それにしても気になるのは勇樹と有坂さんの関係だ。勇樹が言うには保育園からの幼馴染で、ずっと仲が良く一緒だったそうだ。


ところが小五になって早々と避けられるようになり、今じゃすっかり無視までされている。


(そういえば、公園でゲームしていたら凄い目付きで勇樹を睨んでいたな)


「何で、理由が気にならねぇのかよ?」


友之がそう尋ねるコーラをグビリと一口啜った。


ここは修学旅行先、京都の観光ホテル最上階にあるホワイエ。俺達3人は入浴後、人気の無いこの場所を見つけ、自販機で買ったジュースを持ち込んで歓談中だ。


話し込んでいるうちに話題は勇樹の幼馴染についてになった。


「まぁ、気になると言えばなるけど、今更どうでもいいよ。美織と一緒にいるよりお前らといる方が面白いしな」


勇樹は澄ましてそんな事を言うけど、教室で時々有坂さんに目を向けている事を俺は知っている。ついでに有坂さんも勇樹をチラチラ見ている。


(素直じゃない二人だな)


とはいえ、長年仲の良かった幼馴染から理由も告げられず急に距離を取られたら腹も立つし、意地にもなるよな。まぁ、俺にはどうする事も出来ないけど。


「貴文、有坂から何でか理由聞いてこいよ」


「無茶言いやがって。自分で聞け」


「俺はそういうのは苦手なんだよ」


きっと友之の奴は勇樹から話を聞いてどうにかしてやりたくなったんだろう。結構情に厚い奴だからな。でも思ったんなら自分でやれって話だよ。


まさか、この2年後に俺が勇樹と有坂さんの仲直りに手を貸す事になるとは、この時は夢にも思っていなかった。


〜・〜・〜


ゲームより勇樹を選んだ友之の野生の勘。その信憑性はその後の日々の中で確かな物である事が証明されてゆく。


小学六年での最大の出来事は何と言っても運動会のクラス対抗リレーだった。俺は前走者が転んで最下位からのスタートとなったアンカーの勇樹が三人を抜き去って1位でゴールした姿を今でも鮮明に憶えている。その時感じた胸を打つような感動も。


その時、俺は思った。勇樹(こいつ)といればきっと面白く退屈しない人生が送れそうだと。本当、野生の勘とは恐ろしいものだ。


だから俺も友之も中学に進学すると躊躇する事無く勇樹と共に剣道部に入部した。勿論、俺も友之も剣道なんてやった事は無い。


そして、一年のゴールデンウィーク。部活が終わった俺達3人はみつば屋で全国大会優勝と県立雪村高校進学を「クロスチェリオ!」で誓ったのだ。


あの時はいきなり勇樹がチェリオの空き瓶を掲げたから何だと思ったけど。あれは以前に勇樹と友之が俺の家に泊まりで遊びに来た時、俺の兄ちゃん(ロボットアニメオタ)が俺達に見せた古いロボットアニメの決め台詞と決めポーズだと後になって気付いた。


あの時の誓いを果たす事が出来るかどうか。特に全国大会優勝というのは中々厄介だ。まだ剣道を始めて2年ほどである俺と友之には少々荷が重くはある。


だけど、俺と友之と勇樹、それに一年生の後輩3人。メンバーとしては少数精鋭で悪くない。まぁ、行ける所まで行けるだろう。


勇樹と友之と知り合い、ゲームで連み、友達になって、今は親友にして同士だ。つまらなさを感じていた毎日が、今じゃ忙しくて暇無しだけど面白くて充実した毎日に変わった。勉強に部活に大変ではあるけれど、友達とならどんな困難でも乗り越えられる、そんな気にさせてくれる。


さて、中学最後のこの一年、精々暴れて足掻いて見せようか。そして最後にはみんなで笑って見せよう。


と、柄にもなくワクワクしながらそう思っている俺だった。

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