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三年生になる前の過去編②

「あ〜、クッソつまんねぇ。戦争でも起きねぇかなぁ」


とんでもなく物騒な事をさも「面白い事無いかな?」みたいな感覚で言い放つのは山田友之。小五になって同じクラスになり、席が近かったため仲良くなった奴だ。


俺、中村貴文は放課後、一度帰宅してからゲーム機を持って友人と合流、何処か邪魔の入らないゲーム環境を求めて住宅街を散策中だ。


俺と友之が仲良くなったのは席が近かっただけじゃなく、このゲーム機の愛好者という事もあった。ところがどちらの母親も息子が宿題もやらずゲームに耽ける事に酷く嫌悪感を露わにする。そのためこうして理想のゲーム環境探しをしている訳だ。


「お、ここなんて良さげじゃね?」


友之が指差すのは広場の無い遊具があるだけの比較的小さな公園。広場があると老人がグランドゴルフなんかも始めるし、子連れの母親達も子供を遊ばせに集まりゲーム環境的には好ましくない。だからこうした広場の無い小ぢんまりとした公園はとても良い。


「じゃあここにしようかって、ん?」


公園内をよく見てみればタコ型滑り台にもたれかかって既に一人、ダルそうにゲームをしている男子がいた。誰かと目を凝らしていると何となく見憶えがある。


黒いカーゴパンツに白いTシャツ。色白でスラッとした体型に髪は短く刈り上げ、顔は目付きがキツいけど秀麗と言える程整っている。まぁ、言ってみれば生意気そうな美少年って感じか。確か名前は、


「あいつじゃねえか、えーと、同じクラスの青山?」


青木だ、バカ。


そう、同じクラスの青木勇樹。


こいつはうちの小学校では有名人。見た目が良くって、全国学力テストで高順位になるほど頭が良くて、剣道で全国3位になるほど運動神経が良いのだ。


前に青木の話を東京の祖父にしたら、


「その子はPSか?コーディネーター?それともニュータイプ?いや、バビルの後継者という線も…」


と謎用語を連発していた。意味はわからないけど、きっと凄いって事なんだと思う。


まだ小五の新学期は始まったばかりで、クラス内のグループは定まっていない。でも青木に誰かと親しくなろうという様子は見られない。それに青木と仲良くなろうとする奴もいなかった。


無理もないと思った。みんな青木といると自分が見劣りしてしまうと思ってしまうのだろう。


友達がいないとも聞いた事がある。奴と仲が良いのは幼馴染の女子だけとも。その幼馴染も同じクラスになっている。だけど始業式から何日か経つけど、その女子と仲良くしているようには見えなかった。


嫌な奴、には見えない。おっかない奴、というのは聞いた事がある。なんでも青木をやっかんでいじめを仕掛けた連中に反撃して登校拒否になる程追い込んだとか。飽くまで噂だけど。


ただ、今見る限りでは大して面白くもなさそうに滑り台に寄りかかってゲームをする見た目の良い同級生ってだけだ。


(実際どんな奴なんだろうな)


青木に興味を持った俺が声をかけようと


「おい、お前。同じクラスの青木だろ?お前もゲームやんの?俺らと一緒にやらねぇか?」


する前に山田が先に声をかけていた。全く、考え無しに動く奴だな。


青木が山田の声にゲーム画面から顔を上げてこちらに目を向ける。その目は俺に「俺の事か?」と尋ねているようであり、俺は「そうだ」と頷く。


これが俺と友之と勇樹の3人が初めて一堂に会した瞬間で、この日から夏休み中まで俺達はゲーム仲間として学校内外で連む事となる。そして夏休みが終わり2学期になるとこの関係性に変化が訪れた。


〜・〜・〜


2学期が始まる頃には、いや、夏休み前には苗字で呼びが名前呼びになり俺達の親しさは増していた。


出会った当初の勇樹はあまり喋らず、周囲の事にも関心が無いように見えた。しかし、付き合ってみると優しく親切だ。また噂通り頗る頭が良く、スポーツも何でも出来た。俺は成績も良く、自分では頭が良い方だと思っていただけに、勇樹にちょっと嫉妬した。


ただ、積極性が無いというか、その恵まれた容姿、知力、運動能力を使って何かやろうという姿勢が全く欠けていた。その事を家に遊びに来た東京の祖父に話すと、


「そりゃあ勿体無い。そのお友達、そのまま大人になったら器用貧乏になっちまうぞ」


器用貧乏という言葉をその時初めて聞いた。調べてみたら全く良い意味の言葉じゃない。


「天はその子に二物も三物も与えているようだ。だが与えられた以上それを使わなかったら返って罰が当たるってもんだ」


何だそれ、恐いな。


更に祖父が言うには多彩であっても天才じゃない。だから単なる器用から一歩抜きん出るには、そこは大変な努力と根性が必要らしい。


(確かにな。勇樹にゲームばっかりさせとくのは勿体無いな)


でも不思議ともう一緒に何ヶ月もゲームしてるけど、勇樹はゲームの腕前は一向に上達しないのはどうしてなんだろう?


そんな風に内心この新しい友人について心配しているのだけど、2学期になって再会した勇樹は驚くべき事に別人のように全力全開努力の人になっていたのだ。一体、夏休み何があったのだろう?

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