妹から見たこの3年間②
美織ちゃんのいない生活。言っては悪いけどこれがかなり快適で。兄を私が独占出来るのが実に良い。
中学生になった兄は小五の頃からの友達と一緒に剣道部に入部した。って言うか、剣道部に入部した兄に友達二人が着い行ったって感じかな。
それで、どういう流れでそうなったのか知らないけど、入部した兄達は全国大会優勝と偏差値めっちゃ高の県立雪村高校入学を中学校裏門前にある駄菓子屋(みつば屋だっけ?)で誓い合ったとか。
なので、今や兄はすっかり剣道少年となり、家でも自主トレと勉強に明け暮れるようになった。
その分、私の兄と一緒にいられる時間が減ってしまうかと思いきや、時間というものは自分で作る物。私は朝のジョギングを兄と共に走り、夜は兄の部屋で一緒に勉強するようにした。結果、逆に以前よりも兄との時間が多くなったのだ。私の成績も上がるし、スタイルも更に良くなるしでいい事尽くめね。
兄の部屋での勉強は思わぬ副産物、というかご褒美?があって。以前、勉強中に私の眠気が強くなって「ちょっと休憩」と兄のベッドに寝転がったらそのまま眠ってしまった事があった。その翌朝はそのまま兄のベッドで迎え、兄の可愛い寝顔を見る事となったのだ。
疲れて眠くてそのまま寝ちゃうとか、小さい子みたいで恥ずかしかったけど、これは使える!それ以降、ちょくちょくこの手を使って兄と一緒に寝ているんだ。あまり頻繁だと態とやっているのがバレちゃうから、そこの線引きが難しいけどね。
〜・〜・〜
そんな私と兄だけの幸せな日々に再び美織ちゃんが関わる出来事がお正月にあった。
それは友達と着物初詣をしている時の事。お詣りに行った神社の境内でばったり美織ちゃんと出会したのだ。
私は咄嗟に友達を促してその場から離れようとしたのだけど、何しろこちらは着物に草履。あっという間に捕まっちゃった。
話を聞いてって懇願する美織ちゃんを無視していたら、彼女、信じられない事に私に抱きついたまま耳に息を吹きかけたのよ?もう信じらんない!私立の女子中ってあんな事するの?私は進学先にするのは絶対に止めておこうと思った。
結果として美織ちゃんの話を聞く羽目になったのだけど。彼女によれば卒業式の後、同級生達との写真だ連絡先の交換だアルバムに何か書いてだをクリアしてどうにか体育館裏に向かうも、途中で岡田という同じクラスの男子生徒が妨害したのだそう。
その岡田って奴は何をやっても兄に敵わなかったから兄を逆恨みしていて、最後の最後でそうした挙に出たらしい。
ふ〜ん、兄を逆恨みねぇ。美織ちゃん、実はそいつとお似合いなんじゃないの?とちょっと思ったのはここだけの話。私って結構腹黒いんだよね。
しかも、その岡田とやらは兄の事を好きな女の子をそそのかし、兄が体育館裏に行かないよう仕向けていたとも。まぁ、兄はそんな工作仕掛けられてもちゃんと待ち合わせの場所に行って待っていた訳ですけどね。
でも、美織ちゃんが体育館裏に行けないよう妨害されたのは事実。私は仕方無く美織ちゃんへのブロックを解除した。必ず兄に謝る事!と条件を付けて。
とはいえ、私の生活がそれで何か変わるという事は無い。美織ちゃんは私立中学に通っているのだから会う事も無いし。時々メッセージを交わすくらいかな。
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私も兄のいる市立五浦中学校に進学、晴れて中学生になった。
兄の中学での"隠れた"人気は結構なもので、ここでも淑女協定は継続?更新?されている模様。だからこの中学の女子達は遠くから兄達を見て「はぁ〜尊い」と愛でるのが主流だとか。
因みに兄に関する淑女協定には私の事も含まれているそうだ。だから兄の妹である私から兄の情報を入手しようとするのも厳禁なんだとか。まぁ、そこら辺は淑女協定には感謝かな。でもそのせいかちょっと先輩方からは腫物扱いされているっぽいのだけど、普通に友達いるから問題無し。
私が先程「兄達」と表現した事を憶えてますか?そう「兄達」なのです。
この中学の男子剣道部、兄は元より部員みんながイケメン揃いなのです。特に県大会後に3年の先輩方が引退した後の一年生と二年生部員は、この6人でアイドルユニットが組めるでしょ!というくらい。だから新人戦の後では他校の女子達にもこの奇跡の剣道部の事が知れ渡ってしまい、うちの男子剣道部を「美少年剣士団」なんて呼んでいるらしい。
確かに二年生はワイルド兄貴系の山田先輩、知的系の中村先輩、ちょっと天然入ったクールイケメンの兄。そして一年生は小動物系の戸田幹久、真面目糸目系の清水翔、強面ギャップ萌え系の三島太地。
私はモデルの仕事で男性モデルやアイドルとも現場で一緒になる事もあるけど、「美少年剣士団」は彼等とも引けを取らないくらいだ。
でも彼等は見た目だけじゃないからね。練習だって自主トレだって沢山してるし、兄と戸田君は日曜日の午前中は道場で稽古もしているんだから。きっと兄達は来年度にその努力に見合う結果を出す事だろうな。
そんな兄の妹である私、そうした訳で中学ででは至って問題無く学校暮らし、じゃなく学生生活を楽しんでます。将を射んとする者はまず馬を射よ的に近付く人も協定のお陰でいないし、兄の存在があるから言い寄って来る男子もいないから。男子達はみんな兄にビビってるんだよ。
はぁ、そうすると私っていつになったら彼氏とかできるんだろう。まぁぶっちゃけ兄がいるから今のところ、いや当分そんなの必要無いんだけどね。
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そうそう、9月の市大会の日に会場で兄が美織ちゃんと会ったと言っていた。
「話でもしたの?」と訊くと「いや」と。はぁ?何で話さないの?それでも竹刀の鍔を手渡したと言うのだ。う〜ん、今ひとつ情景が思い浮かばない。
「何でそんな事したの?」
「何でって、何となく、かな」
「何となくぅ?」
思わず声が裏返ってしまった。恥ずかしい。
「あぁ、何となくそうしなければならない気がしてね」
そう言われちゃもう何も訊けない訳だけど。といって仲直りした訳でもなさそう。美織ちゃんからの鍔写真付きメッセージはその文面から物凄く興奮した美織ちゃんの様子が窺い知れたけどね。
二人が仲直り出来る日は果たして来るのでしょうか?私的には正直どちらでも良いと思ってる。だってそれは二人の問題だし、周りが当事者でもないのにやたら介入すべきじゃないと思うから。以前にお母さんが言っていたように見守るしか出来ないし、求められたら助言するくらいかな。それで二人が本当に疎遠になるなら、きっとそれが運命なんでしょうね。
だけど、とも思う。運命って自分の努力で変えられるんだよね?もし兄と美織ちゃんが疎遠になる運命にあるとしても、今や努力の人となった兄ならそんな運命に逆らって変えて欲しい。それが一人の努力だけじゃだめだってなら私も美織ちゃんを、少しは応援してあげるからさ。
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そして今年のクリスマスイブ。兄は迎えに来た友達の山田先輩と中村先輩に連行されるようにして同窓会へ出かけて行った。本当はイブは兄と一緒が良かったけど、あの二人、何か企んでいそうだから黙って見送ったけど。
でも、それってきっと悪い事じゃないんだろうな。
あ〜あ、もうちょっと兄を独り占めしていたかったんだけどなぁ。
って、お兄ちゃんからメッセージ来た。メッセージには美織ちゃんを抱き寄せて自撮りした画像が添付されている。
何が『皆様ご心配おかけしました、メリークリスマス!』よ。
(良かったね、美織ちゃん。でも次は無いからね?)
さあ、お兄ちゃんが帰って来たら今日何が合ったのかとことん問い詰めなくちゃね。