表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/82

妹から見たこの3年間①

居間のソファーに兄に寄り添って座り、ホットココア片手に動画を見る。これが日々の中での私にとっての至福の時だ。


動画の内容は色々。洋楽に邦楽、旅物の事もあればアニメだって、ナミブ砂漠の水場ライブ中継にはまった事もあった。あまり長くなって兄の時間を奪ってしまっては悪いので概ね1時間くらいかな。内容なんてどうでもいいんだ。私はただ誰にも邪魔されない兄との時間が欲しいだけだから。


ここ3年程はずっと私が兄を独占している。幼馴染の有坂美織ちゃんが突然兄を避け始め、あれよあれよという間に二人の関係は悪化して、今じゃすっかり疎遠になっているから。


兄と美織ちゃんの仲が悪化した理由は、後になって美織ちゃんから聞いた。生理がどうの中学受験がどうのって言っていたけど、聞いた時は馬鹿なんじゃないの?って思った。そんなのそっちの勝手な都合じゃん!って。それで兄を傷付けるとか赦せなくない?


〜・〜・〜


私、青木真樹と兄の青木勇樹、そして近所の兄の同級生有坂美織ちゃんの3人は物心付いた頃からの幼馴染。元々母親同士が友達で家族ぐるみの付き合いであり、それこそ何をするにも私達3人は一緒だった。


私は別に3人一緒にいる事について不満は無かった。兄は頭が良くって、私も美織ちゃんも分け隔てなく優しく接してくれたし、どちらかに焼き餅を焼かせるような事もしなかったから。何なら私は家に帰れば兄にべったり甘えられたしね。


だけど私が小学四年になった頃、美織ちゃんが兄を避けるようになった。理由は本人から聞いた通り。私は一応お母さんにもそれについて相談したのだけど。


「子供同士、しかも二人は男の子と女の子でしょ?下手に親が介入すると余計ややこしくなるの。だから暫く経過を見守りましょう」


との事だった。


「でもそれでお兄ちゃんと美織ちゃんとの間が離れちゃったらどうするの?」


私が更にお母さんにそう尋ねると、


「それも当人同士が決める事。疎遠になったらなったで仕方が無いのよ」


そんなの嫌だ。私達兄妹と美織ちゃんはずっと仲の良い幼馴染だったんだ。でもお母さんは、多分美織ちゃんのお母さんも、積極的に二人を仲直りさせるつもりは無いみたいだった。


(じゃあ、私だけでも二人が仲直り出来るよう頑張らなくっちゃ)


一人そう誓った青木真樹10歳のゴールデンウィークだった。


だったのだけど、登校は兄と二人、土日休日に兄と二人でお出かけ。外出先で兄は優しく、私を大事にしてくれる。今までは全部美織ちゃんがいたから、今や兄の優しさ独り占め…


(これって、案外悪くない、かも?)


いやいやいや、ダメでしょ、それって人として。


私は兄との居心地の良さにドップリ浸りながらも、レイルで美織ちゃんとのメッセージの遣り取りは続け兄の日常について情報を提供し続けた。


〜・〜・〜


ここで思いもよらない事態となった。兄が旅行先で是親伯父に何か吹き込まれたらしく、一夜にして全力全開、努力の人と化してしまったのだ。


兄は元々何でも出来る凄い人。頭は良いし、スポーツでも遊びでも何でも一度見て試してみればもう出来るようになってしまう。


例えばA君が一生懸命頑張って繰り返し練習して縄跳びの二重跳びが飛べるようになっても、兄は初めてであっても10分もしない内に跳べていた。


例えばB雄君は水が恐かったけど、幼稚園児の頃からスイミングスクールに通い、どうにか水の恐怖を克服。小学二年生で漸く25m泳げるようになっても、兄は小二体育の水泳でその日の内に楽々25m以上泳げてしまい、しかもクロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎと体育の水泳で習っただけで泳げるようになった。


これはサッカーや野球、バスケ等でも同じ事。兄からすればどれも直ぐに出来るようになってしまってつまらない。


一緒の子供達も自分達が頑張って漸く出来るようになったのに、後から始めても楽々出来るようになって自分達より上手くなる兄に戸惑い、厭い、妬み、嫌厭する。


そんな兄がいじめに遭わなかったのは、いえ、実際いじめに1回だけあった。ただ兄にいじめを仕掛けた子供達は兄に反撃されてクラス全員の前で醜態を晒す羽目になったのだ。そして誰もが恐怖心により兄は手を出して良い相手ではないと理解させられ、以降兄へのいじめが起きなくなっただけなんだ。


だから小学生の頃の兄には友達が少なく、何かに一生懸命努力する事も無かった。


それでも小学二年生の頃から習い始めた剣術は比較的頑張っていたかな。兄はテレビで見た変身ヒーローに影響されて剣術を習い始めたのだけど、強くなって真樹や美織ちゃんを守るんだ=3 なんて言っていたっけ。


そんなやる気を見せない兄が、今や努力の人だもん、伯父さんは一体どんな魔法を使ったんだろう?


〜・〜・〜


本気になった兄は凄かった。日頃からジョギングや筋トレを始め、剣術道場でも熱心に稽古して少年剣道の全国大会で3位入賞するし。身長も伸びて細マッチョのイケメン小学生になってしまいましたとも。


余談だけど、外出中の私達兄妹を見た親戚から雑誌モデルを頼まれた事があった。その時兄は何かスポーツのユニフォームで、私はジュニア用スーツ。これは結構評判が良かったそうで、その親戚からは引き続きそのブランドでのモデルを引き受けて欲しいと打診が来た。


まぁ、結果から言えば兄は断り、私はモデル料が良かったから今も続けている。別にプロのモデルや芸能人になりたい訳じゃないけど、お金はあって困る物じゃないからね。あ、モデル料はキチンとお母さんが管理しているよ。


元々兄は勉強も良く出来ていたのだけど、勉強も努力したから全国学力テストでも結構上位なったらしい。兄は問題集をひたすら数こなし、わからない部分を担任に質問しただけと言っていた。


そのため、その担任の先生は良い指導をして全国学力テストの高順位者を輩出したとかで高評価なのだとか。凄いのは兄なのにね。


そして極め付けはあれ。兄が小六の時の運動会、特にクラス対抗リレーでの3人抜き大逆転事件。兄のクラスは2位だったところ、アンカー前の走者(ちょっとトロそうな女子)が派手に転んじゃって一気に最下位に。そこからアンカーの兄が3人抜きして逆転大勝利!兄が1位でゴールした時に学校中から湧いた歓声には近所の住民達が何事かと学校に様子を見に来たくらいだったとか。


あれは私も観ていて感動して泣いちゃったもん!


〜・〜・〜


格好良くて優しくて、頭が良くって何でも出来て強くって。しかも運動会であんな凄い走り見せちゃったら兄はもう女の子からモテモテ!とは残念ながらならなかったんだよね、これが。


というのも、その小学校の六年生五年生の女子達が青木君を独り占めにしないという取決め、所謂「淑女協定」を結んでしまったから。


これは美織ちゃんが兄から距離を取って疎遠になった影響していたの。今までは兄と美織ちゃんは幼馴染でセットのように考えられていたから、兄の事をいいなぁと思ってもそこに割って入る女子はいなかったんだ。


だけど、その二人が疎遠になって割って入る隙が出来たところへあの運動会のリレー…


そこで、誰か言い出したのか知らないけど、青木君は二度と誰かに独占されてはならず、この小学校の女子で共有されるべし!と唱えられたらしい。それへの賛同者は瞬く間に増えて広がり淑女協定が結ばれるに至ったんだって。


まぁ、これを知らないのは当事者の兄とある意味ハブられている中学受験組くらいだと思う。私は家では常に兄を独占出来ているから全然関係無いんだけどね。


〜・〜・〜


そうして迎える卒業式。私は美織ちゃんへの最後の情けとして式後に体育館裏で兄と二人で会える機会を作り出す事に成功する。


美織ちゃんは逆に兄から避けられるようになったのがショックだったらしく、レインメッセージでは何度も兄に謝りたいと繰り返していた。そのくせ一向に謝らない。進学塾に通って生活リズムが違うとか言っても兄とは同じクラスで家も近所なんだから、謝ろうと思えばいつでも謝る事は出来るはず。でも何だかんだと理由を付けてはちっとも謝らない。あんた、本当に謝る気あんの?って思っちゃうよ。


まぁ、どうして美織ちゃんが謝りたいと思いつつ実行に移さないのか、その理由の予想はついているけどね。あれでしょ?汚い表現だけど、要は「今更どのツラ下げて謝りに行けようか」って事でしょ?こういうのって時間が経てば経つほど気まずくなって謝りに行けなくなるものだってね。


兎に角、兄に美織ちゃんと会って貰えるよう頼んでそうした機会をセッティングした。後は美織ちゃん次第だから。小学校卒業して別々の中学校に進学するってさ、ある意味人間関係を再スタートさせるには良い機会だと思うんだ。だから美織ちゃんには是非この機会を生かして頑張って頂きたい!


そうして卒業式当日、兄の帰りは遅かった。これはちゃんと美織ちゃんと体育館裏で会って話したのだな、良きかな良きかな。


と思っていたのだけど、兄の口からはとんでもない言葉が出た。


「来なかったよ、美織の奴」


「え?」


どういう事?美織ちゃん、あれだけ喜んで張り切っていたのに。


兄が言うには1時間程体育館裏で待っていたけど美織ちゃんは来なかった。どうも進学塾の打ち上げに行ったらしい、との事だった。


兄からその話を聞いた私は何かどっと疲れが出て「そう」とだけ言うのがやっと。あまり落胆した姿は見せられないし、この後から家族旅行に出掛けるため自室に戻った。


何で?何で?何でよ!あんなにお兄ちゃんに謝りたいって言ってたのに何で来ないのよ?


後から考えたこの時の私は冷静さを欠いていたと思う。だってそのまま美織ちゃんの携帯電話に連絡して本人から直接訊けば良かったのだから。


でも、怒りでカッカした私が取った行動は美織ちゃんからの通信をブロックする事だった。


結局、この後我が青木家は兄の卒業祝いの家族旅行に出かけ、その後も父方、母方祖父母の家に泊まりで出かけたため、あまり春休み中は家にあまりいなかった。美織ちゃん家も家族旅行に出かけたようで、結局美織ちゃんからの接触は無いまま新学期を迎えた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ