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メリークリスマス!(美織視点①)

その話が私に回って来たのは12月に入って間も無い頃。私の小学五六年時の同級生で同じ進学塾の受験組だった田村恵美ちゃんからレイルメッセージが来たのが発端だった。


恵美:「美織、突然だけどクリスマスイブに同窓会やる事になったから。当然、美織は来るよね?」


美織:「クリスマスイブに同窓会?急なんだけど、どうしたの?」


恵美:「この間、みなとみらいの本屋さんで中村君とばったり会ったの」


その後の恵美からのメッセージを要約すると、みなとみらいの本屋でばったり会った中村君と恵美は併設するカフェ『スターバラタック』でお喋りに興じたという。その中で私と勇樹の事が話題に上がると、恵美は私が勇樹に謝りたがっていた様子を、中村君は勇樹が私の事を気にも止めてない風を装いつつ、実は心の底では結構意識していると伝えあった。そして二人して「ええい、歯痒い!」

となって、いっそ強引に話し合う機会を設けて仲直りさせよう!と意気投合したそうだ。


美織:「それでクリスマスイブに同窓会?」


恵美:「そう。当然来るわよね?青木君は中村君と山田君が絶対参加させるそうよ?」


実を言えば市大会決勝戦後、勇樹から竹刀の鍔を貰ったものの、その後私と勇樹が会うといった事は全く無かった。真樹ちゃんからの情報でも家庭内でも普段通りで私の事を話題に出すような事も無いそうだ。


美織:「私、行く。行くったら行く!」


恵美:「そう来なくっちゃね。詳しい内容は決まり次第メッセージ送るから。頑張って仲直りしなさいよ?」


美織:「うん。チャンスをくれて有難う」


サンキュー恵美。やっぱり持つべきは友達だね!


この時は勇樹と会える!と嬉しくなったものの、結局この機会も恵美と中村君を始めとする元クラスメイトのみんなが手を貸してくれた訳で。私は自分の不甲斐なさにちょっと凹んだりもした。


恵美は色白で艶のある長い黒髪(前髪はぱっつん)の日本人形のような美少女。だけど彼女はその外見とは裏腹でさばさばしてはっきりした性格だ。見かけ的にさばさばしてはっきりしていそうでその実ぐちぐち悩み女々しい私とは見た目も性格も正反対と言えた。


「美織って見た目は気が強そうだけど、案外そうでもないのねw」


って言われた時はカチンと来たけど、私という人物を僅かな間で見抜いた慧眼には驚いた。


そんな恵美と私は言い合ったりする事も多かったけど、長束さんが間を取り持って私達受験組の3人は上手くやっていた。


(卒業しても気にかけてくれてありがとう、恵美)


それから毎日、放課後はレイルのメッセージをチェック(課業中は携帯電話使用禁止)。一日千秋の思いで恵美からのメッセージを待った。


〜・〜・〜


そして当日、場所は横浜市内にある京急本線上大岡駅近くのカラオケボックス。クリスマスイブにこんな条件の良い場所が抑えられたとか運が良い。


(うん。天佑我にあり、ね)


私はオレンジ色に染まる空を見上げてそう思った。


流石に急な同窓会だったから参加者は元クラスメイトの半分程で18人。因みに岡田はクラス会から永久追放になったから当然呼ばれていない。


私は恵美と美穂と待ち合わせして皆より少し早く現地に到着、その後で五月雨的に到着する元クラスメイト(女子)と久しぶり、〜ちゃんの服超似合ってて可愛いねといった挨拶を繰り返し。そして遂に山田君と中村君に連れられて勇樹が到着した。


因みにこの時の私の出立ちはハイウェストでブラウンギンガムチェックのスカート、明るいグレーのハイネックセーター、足は黒のハーフブーツ。室内だからもう脱いでいるけどエクリュのコート。ふふ、大人っぽくコーデしてみたんですよ?態々みなとみらいのワールドポーターズまで母と買いに行ったんですから。


(勇樹、どうかな?ちょっとは大人っぽくなったでしょ?もう小学生じゃないんだからね)


勇樹は?というと、デニムのパンツに白いカッターシャツ、フード付きの黒いコートと至ってシンプル。シンプルだけど、だがそれが良い。スラッとした体型の勇樹には実に良く似合ってる。


「ほら、見惚れてないで座る座る」


あれよあれよと私と勇樹はステージから最も離れた席に計画通り並んで座らされたのでした。


それからはお互い意識した感じでポツポツと喋り(「服、似合ってるな」って言ってくれた)、歌え歌えと山田君に煽られた勇樹が入力した『ライオン』をデュエットで歌ったりした。


この曲は以前に私が好きで私達がカラオケに行った時に真樹ちゃんと一緒にデュエットした曲だ。勇樹とは初めて歌うけど、私達の息はピッタリ。うん、きっと今日は上手くいく、上手くいくよ。


でも、歌い終わった私達は黙り込む事となった。


〜・〜・〜


やっぱり何も解決してないから。この問題はいくら勇樹が私に鍔をくれても、こうして一緒に歌を歌っても、根底にある問題を解決しなければその先には進めない。


「私、勇樹に謝りたいの」


3年、3年かかってやっと言うことが出来た言葉。それに対する勇樹の返事は「気にしてないから謝る必要は無い」というものだった。


謝る必要が無いどころか、寧ろ頑張って志望校合格という結果を出したと褒められる始末。


違う、そうじゃない。私は私の勝手な都合であなたを傷付けた。その罪を償おうと謝りたいのに、気にしてないってどういう事?それって勇樹は私に無関心って事?


「勇樹にとって私がした事って気にもならない事なの?」


その後は売り言葉に買い言葉。


「勇樹は私に謝らせてもくれないの?私は謝る事も出来ないの?」


私のこの言葉に勇樹は一瞬ムッとした表情になり、こう言った。


「そんなの自分が謝りたいだけだろ。謝りたいだけの謝罪に何の意味があるんだよ?」


それはかつて私に謝罪に訪れた長束美穂ちゃんに私が言った言葉と同じだ。勇樹から謝罪を拒否されてショックだった私は黙ってコートとポシェットを掴むとカラオケボックスの大部屋から逃げ出した。


〜・〜・〜


カラオケボックスがテナントとして入る雑居ビル。そこから出た私は辛さと悲しさで泣きながら駅前通りの歩道を歩いた。と、そこへ前からチャラチャラして感じの悪い大学生風の男二人がニヤニヤしながら私の行手を塞ぐように向かって来た。


「あれれぇ、この子泣いてるぞ?」


「いけないなぁ。じゃあお兄さん達が面白い所に連れて行って慰めてやらないとな」


二人のチャラ男は狭い歩道で私を取り囲む様に更に迫った。前にチャラ男達、道路側にはガードレール、左は雑居ビルの外壁。来た方向に曲がれ右しても、ガードレールを乗り越えようとしても乗り越える前に捕まってしまうのがオチだ。


「結構です。それ以上近づくと大声上げますよ!」


「良くないなぁ、人の善意を悪く捉えて。こんな悪い子にはお仕置きが必要かな?」


「了解!悪い子は誰も来ない路地裏へご案内〜」


止めてと言ってもチャラ男達は聞かず、私は忽ちチャラ男達によって暗い路地裏へ引き摺り込まれてしまった。


(助けて、勇樹!)


でも、これも私が勇樹を傷付けた結果だ。


(私って本当馬鹿だな。馬鹿美織だ。ごめんなさい、勇樹。本当にごめんなさい)


「マスクドファイターキック!」


不意に勇樹の声がしたかと思うと、私を正面から抑えにかかってたチャラ男が「げひっ」っていうヒキガエルが潰されたような気持ち悪い声を上げて路地裏の奥に吹っ飛んで行った。


マスクドファイターとは勇樹お気に入りの変身ヒーロー。小さい頃の勇樹は「マスクドファイターに僕はなる!」ってよくドヤ顔して言っていたっけ。そもそも勇樹が剣術を習い始めたのもマスクドファイターの影響だからね。


更には私に後ろから抱き着いているもう一人のチャラ男にも顔面パンチ!


「マスクドファイターパンチ!」


「ぎゃっ」


チャラ男は私を離すと殴られた顔面を両手で覆いしゃがみ込んだ。


「大丈夫か、美織」


勇樹が来てくれた。勇樹が助けに来てくれたんだ!私は勇樹の元へ駆け寄るとその胸に飛び込んで抱き付く。


「恐かったよ」


勇樹は抱き付いた私を安心させるようにギュッと抱き締めてくれた。


「もう大丈夫だから」


うん、もう大丈夫だ。だって私のヒーローが私を助けに来てくれたんだもん。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうして第一声で謝罪をしないの? 態々謝罪したいのと前置きを言うのに違和感を感じた。
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