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勇樹の馬鹿!

「そうなる前にさ、俺に言ってくれたら良かったのに」


我ながらそんな事を言っても今更だ。世の中で「たら・れば」ほど無意味な物はないから。でも古来から人はそれを言わずにはいられないんだ。


美織は一瞬表情を強ばらせた。それを言った俺への怒りだろうか、自らの行いへの後悔によるものか。それでも黙る事無く、美織はその理由をぼつぼつと話し出した。


「私、いつも勇樹に頼っていたから。自分の夢は自分の力で成し遂げなくちゃって思ったの。でも、それで上手くいかなくて勇樹に八つ当たりしてちゃダメだよね」


そう言い終えると美織は辛そうに顔を伏せた。


本当にそれ、だ。結局のところ、俺は美織の感情に振り回されて八つ当たりされただけだった。


まだ小学五年生だったあの頃、今まで仲良かった幼馴染にある日から避けられ、次第に無視もされ、憎々し気に睨まれて俺がどんな気持ちだったか。美織に言いたい事は沢山ある。だけど、今ここでそれを口にしたら本当に美織との関係は終わってしまいそうだ。美織との幼い頃の楽しかった思い出も、思い出すたびに悲しく辛いものになってしまうかもしれない。


先にも思ったように俺達の大切な思い出を守りたい。失うのが恐いんだ。ならばやはり美織に避けられ八つ当たりしたけど、それはもう過去の事。忘れる事は出来ないけど、気にしない事にしよう。それが今の俺に導き出せる最適解だ。


それに美織が受験勉強を頑張り通して結果を出したのも事実だしな。


「だけど美織はちゃんと頑張って結果を出したじゃないか」


「え?」


俺がそう言ったのが意外だったのか、美織は顔を上げて俺を見る。


「まだ子供のうちから医者になろうと決めて、自分の夢のため受験勉強を頑張って志望校のセンルチに入学を果たした美織は凄いと思う。俺なんて色々と頑張っちゃいるけど未だに将来の夢や目標なんて見つかってない」


「あの、」


美織は何か言いたげだけど、俺はそのまま続けた。


「俺は気にしないから。俺の事は気にしないでさ。美織も罪悪感なんて持つ必要は無いし、もっと自分の成果を誇ってさ、」


「そうじゃなくて!」


美織は少し苛立ったように語調を強めて俺の言葉を遮った。


「私は勇樹にちゃんと謝りたいの。私が勇樹にした事は勇樹を傷つけた事だから」  


「謝らなくていいよ。本当、気にしてないから」


俺の言葉に美織は酷く傷付いた表情となる。


「気にしてない?」


「あぁ」


「勇樹にとって私がした事って気にもならない事だって言うの?」


美織は立ち上がる。怒りと悲しみが込められたその声は低く小さく、それでいて強く俺の心に突き刺さる。


元クラスメイト達もこの頃になると流石に俺達のただならぬ雰囲気に気付いたようで、歌うのも止めてこちらを窺っていた。


「そんな事は言ってない。気にしてないから俺は謝らなくていいって言ったんだ」


「私が、勇樹を理不尽に憎んで怒りをぶつけて、八つ当たりして!一方的に避けて、無視して、睨みつけたんだよ?それなのに気にしないって。勇樹は私に謝らせてくれないの?私は謝る事も出来ないの?」


美織のその開き直ったような言葉にカチンと来た俺。自分でやっておいて謝らせろとか、そんなの


「そんなの自分が謝りたいだけだろ。謝りたいだけの謝罪に何の意味があるんだよ?」


しまった、と思っても、もう遅い。一度発せられた言葉は取消しは効かない。明らかに俺の失言だ。


「勇樹の馬鹿!」


美織は今にも泣き出しそうに顔を歪めそう叫ぶと、駆け出してカラオケボックスの大部屋から出て行った。


こういう場合ってどうしたらいいんだろう?今までこんな経験無いから何が正解なのかわからない。


売り言葉に買い言葉、でも明らかに俺の失言で美織は傷付いて出て行った。それを見ている事しか出来ず、金縛りのように体が動かない。俺って器用なはずなのに、まるで不器用だ。


「おい!」


ビクッと掛けられた声に体が反射する。


「馬鹿勇樹、今のはお前が悪いぞ」


貴文、いくら俺が悪いからって馬鹿は無いぞ?


「青木君、馬鹿なの?早く美織を追いかけて!」


そう言うのは小学五六年生のクラスで学級委員長をしていた洞樹真実さん。真面目系ツインテールの美少女。因みに委員長職に情熱を燃やす洞樹さんは中学でも一年時から学級委員長をしている。


「そうだ馬鹿!早く追いかけろ」


面白そうに言いやがって。友之、お前は次の部活の日に叩きのめしてやろう。


「この馬鹿チンが!」


「青木君の馬鹿!もう知らない!」


「馬鹿ばっか」


「本当、馬鹿」


「青木、あんたバカァ?」


元クラスメイトから次々と馬鹿馬鹿と罵声が浴びせられる。どれもが何かで聞いたフレーズだ。お前ら、さっきから馬鹿馬鹿って、


「馬鹿って言いたいだけだろ、お前らは!」


すると田村さんが元クラスメイト達の中からずんずんと迫り、俺の胸倉を両手で掴かむ。えぇ⁉︎


田村さんは黒髪ロング前髪ぱっつんな色白和風美少女。かつての受験組の一人で、美織の親友ポジションだ。そんな田村さんが俺の胸倉を掴むとか、全く異常事態だな。


「確かに美織が悪い。美織が悪いわ。だけどそれはあの子もわかってて、ずっと後悔してるの。ずっとずっと青木君に謝りたいって言っていたのよ。青木君、あなたも男ならぐだぐだ言ってないで女が謝りたいって言ってるんだから黙って受けなさい!わかった?」


俺的にあまりの出来事なので唖然としてしまっていると、田村さんから返事を迫られる。


「わかった?返事は?」


「イ、イエスマム!」


「では、お行きなさい!」


田村さんがビシッと指差すドアに向け、俺は反射的に駆け出した。


〜・〜・〜


同窓会の会場であるカラオケボックス、その大部屋から出てみても通路上に美織の姿は当然無い。大部屋から出て美織はどこに向かうだろうか?女子トイレ?その可能性も無くは無いだろうけど、外に出るだろう。


ここは駅前の雑居ビルで、1・2階の全フロアがカラオケボックスになっている。さして大きくも無い建物なので、普通は店外に出ようとするだろう。俺は2階から屋内階段を下って1階のフロントへ。


(まぁ、いないよな)


カラオケボックスから歩道に出るも、美織の姿は無い。どちらへ行ったものだろうか?美織絡みでこうした場合、俺は躊躇なく左へ向かう。右か左、どちらかの選択を迫られた場合、美織は大抵左を選ぶからだ。


果たして歩道を少し進んだ先に美織の姿を見つけたけど、有り難く無い事に美織は二人のチャラそうな大学生っぽい男達に絡まれている最中だった。そしてそのまま二人のチャラ男ズに美織は路地裏へと引っ張り込まれてしまった。





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― 新着の感想 ―
[一言] なんて面倒くさい女なんだ…
[一言] 自分の力でやりたかったから勇樹君に頼らなかった。 勇樹君にむかついたから無視し続けたり睨みつけたりした。 自分が謝りたいから謝罪を受けろ。 当たり前のことを指摘されたら逆切れをする。 と、本…
[一言] 未だにヒロインの魅了が薄い若しくは無いのでここからの挽回が見もの
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