クリスマスパーティ
クリパって知ってるかい?昔はクリスマスパーティって呼ばれてたって言うぜ。今じゃ世の中短縮され放題。ボヤボヤしてると更に短縮だ、「クパ」なんてな。流石にそれは無いか。
子供の頃、って中二だからまだ俺も子供な訳だけど、物心ついた頃にはクリスマスイブといえば幼馴染の家と一緒に両家の母達が作ったご馳走とケーキを囲んで過ごしたものだった。
それをクリスマスパーティと呼ぶのなら保育園から小四まで続いた事になる。小学五年生からそうしたクリスマスパーティが行われなくなった。理由は説明するまでもないだろう。
以来、青木家ではクリスマスイブを家族で過ごすようになり、俺も他のクリスマスパーティなぞに参加した事はない。
それが今、俺は4年ぶりにクリスマスパーティ、いや、かつてのクラスメイト達とだからクリパかな、に参加していたりする。
事の次第はというと、小学五・六年時のクラスメイト(誰だかは知らない)が久々に集まって遊ぼうとなったらしく、いいねぇとなって話は拡散、参加希望者が増えた。だったらクラスメイトのみんなが集まるんだし季節的にクリスマスだしクリパ同窓会にしねぇ?となったらしい。
この話は当然俺にも友之経由で回って来た。この時には新人戦も期末テストも終わっていたから二つ返事で参加すると伝えると、友之は俺に
「参加すると言った以上は絶対に来いよ?来なかったら迎えに行くからな!」
やけにと念を押し。
俺って信用無いのな、と少々悲しくなったものだったけど、この参加したクリパの会場で俺の横に座っている女子を見れば友之がやけに念押しした理由も想像出来た。
時は12月24日、場所は京急線上大岡駅近くのカラオケボックス。同窓会には同級生の約半数の18人が参加している。この人数だと"プチ"同窓会って感じだ。参加者の殆んどが同じ五浦中学に進学している中学での同級生でもあるから気楽なものと思って俺も参加したのだけど、思い違いをしていたようだった。
俺は思わず横に座っている見知った女子に視線を向ける。すると俺の視線に気付いたのかその女子も何やら俺に抗議の視線を向けた。
「な、何よ?じっと見て」
「何でもない。お前も来てたんだな、美織」
そう、同級生で同窓会なのだから来ていて当たり前。この同級生クリパのカラオケボックスで俺の横に座っているのは疎遠となった俺の幼馴染である有坂美織。
「き、来ちゃ悪いの?同窓会なんだから来て当然でしょ?」
御説ごもっとも。怒られちゃいました。私立に進学しようが同級生に変わりはないものな。
「そうだな。変な言い方してごめん」
「っ、まぁ、別にいいけど」
気不味いな、会話が続かないんだ。以前ならこんな事無かったのに。
俺は思わず友之と貴文に「友貴えもん、助けて」と視線を送るも、友之は席で盛り上がっていて気付かず、貴文には厳しい表情で小さく顔を横に振られた。それはあたかも「美織とちゃんと話し合え」と言われているようで。
おそらく俺と美織が隣同士の席になったのも友之と貴文の仕組んだ事で、参加者全員がグルだ。20人近い人数がいるカラオケボックスの大部屋で俺と美織がぽつんと隣同士の二人だけなんて変だろう。
穿った考えれば、市大会決勝戦後に俺が会場にいた美織に鍔を手渡したところを見た友之と貴文がこのクリパ同窓会と起案し、更に俺と美織の席が隣同士になるように参加者全員に根回しして仕組んだに違いない。貴文ならそれくらい楽勝だろうしな。
(全く、余計な事しやがって)
そう思わないでもない。でも折角こうした機会を得たのだから騙された振りして乗っておくべきか?今一つ判断がつかない。
「ゆ、勇樹」
俺が黙ったままなのに焦れたのか美織から先に話しかけてきた。
「ええと、何か歌おうかなぁ。クリスマスだから『ラストクリスマス』とか」
「え?歌わなくていいよ。どうせ歌い出しの「ラストクリスマス♪」しか歌えなくて後は鼻歌なんだから」
くっ、つまらない事をいつまでもよく憶えているな。確かに小四のクリスマスパーティでそれをやって両家の親達から大笑いされた事あったけどな。
「失礼だな。俺だって今や中二で英検2級なんだぞ?」
「本当に、歌わなくていいから!」
うむ、ちょっとふざけて場を和ます作戦は失敗か。俺はこれ以上誤魔化すのは無理と判断し、美織と向き合うべく居住まいを糺した。
「久しぶりだな」
「うん」
「元気にしていたか?」
「うん、見ての通り。勇樹は?学校はどう?」
いきなり学校生活について尋ねるとは。ちょっと焦った俺は思わず左手で左耳朶を触ってしまう。
「問題無いよ。そりゃあもう女の子からモテモテだぜ?」
「嘘ね!」
即座にそれを嘘と見抜くか。まぁ発言の後半は本当に嘘だけど。嘘なのに本当とはこれ如何に?しかし、昔から美織はどうしてか俺の嘘を見抜くんだ。超能力でもあるんじゃないかと思ってしまうほどにな。
「あの、勇樹、あの時言えなかったけど市大会優勝おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
美織は対戦相手校側の立場だったからな。あの場で俺達におめでとうとは言えない。
「ねぇ、」
と美織は座ってまま俯いてもじもじし、とても答え辛い事を尋ねできた。
「何であの時、私に鍔をくれたの?」
それをこの話で訊くか?訊くのか?う〜ん、これはいい加減な事は言えない奴だ。覚悟を決めなくてはならない。
といってスラスラと話せる事じゃないのも事実。だって明確な考えがあってやった事じゃないから答えなんて無いんだ。
俺がどう言えば良いのか考えあぐねていると、その様子を見て美織は不安を抱いたようだった。
「どうしたの?何か言いづらい事なの?」
その不安気な様子に俺は考えが纏まらないまま口を開いた。ええい、ままよ、あの時だって考え無しにやった事なんだ。今だって考え無しにやるしかないじゃないか。
「そうしなければならないと思ったから。そうしなければ一生後悔すると思ったからやった。それだけだ」
「…そっか」
考え無しに思った事を口にしたけど、果たして美織はそれに何を思っただろう。「そっか」からは何も窺えない。だけど俺から顔を背けている様子を見れば満更でもないのがわかる。だってそれは美織が昔から嬉しい時とか照れた時なんかにする仕草だったから。
変わらないんだな、そう思って隣を見ると顔を上げた美織と目が合う。
「な、何よ!」
「別に?」
美織の謎抗議をはぐらかす。でも俺達はばっちり目が合ってしまっている訳で、急に可笑しさが込み上がって来た。
「ぷっ、くくく」
「何笑ってるのよ。ふふっ」
自分だって笑ってるじゃん。
「「ほはは」」
何が可笑しいのか、俺達はかつて仲の良かった頃のように笑い会った。
「お〜い、お前らも何か歌えよ。お前らだけだぞ、何も歌ってないの」
友之の呼び掛けに俺達は顔を見合わす。
「勇樹、折角だから何か歌わない?」
「デュエットか?よしきた」
俺は手元にある入力端末から『ライオン』を入力すると、画面を見ていた美織が抗議の声を上げた。
「え、中学生になってアニソン?しかもそれ女女の奴じゃん!」
「アニソンを馬鹿にするな!自分だって前は良く歌ってたくせに」
何を隠そう、俺の趣味は読書とアニメ視聴・アニソンCDの蒐集だったりする。
「そうだけど!」
と言っている間にもスピーカーからイントロが流れ出した。俺は美織に「ほら、行こうぜ?」と言ってマイクを渡し、手を引いて舞台に上がる。
「もう!」
美織は文句を言いながらも俺から顔を背けて舞台に上がり、最初のパートを歌いだした。
ほぉしぃを まわぁせぇ〜♪