中学進学、クロスチェリオの誓い
小学校を卒業してから2年目、俺は中学二年生になった。流石に中二になったので自分の一人称代名詞も僕から俺に変えてみたんだけど、どうだろうか。だって中二ってそんな年頃って言うじゃん?口調も男っぽくしないとね。
中学校に入学すると、ぼ、俺は早速剣道部に入部した。なんと友達の友之と貴文も一緒だ。この2人、小学校では確か友之はサッカー、貴文は水泳を習っていたはずで、それまで剣道なんてやった事なかったのに。だからどうして剣道部に入ったのか訊くと、
友之「小六の時、勇樹が運動会のリレーとか色々と頑張ってただろ?なんかあれに感動しちまってさ」
貴文「だから中学で俺らも勇樹と一緒に何かに熱中したくなったんだ」
この2人、小六の運動会で最下位からアンカーの俺が3人抜いて逆転勝利した学年別クラス対抗リレーに感動したのだそうだ。それで中学では俺と一緒に頑張って何かに熱中したくなったのだとか。
「へぇ、そ、そうなんだ」
この2人とは色々と遊んだりと仲は良い友達と思ってはいたけど、まさかそんな事を思っていたとか全くの想定外。そんな事言われたものだから俺も柄にも無く感動してしまい、その勢いで俺達はラブライv、じゃなくて全国中学校剣道大会で団体戦優勝を目指す事にしたのだ。
この話をしたのはゴールデンウィークの練習帰り、場所は学校前の駄菓子屋「みつば屋」の軒下。
俺はそこでみつば屋で買った瓶の炭酸飲料「チェリオ」を飲み干すと、座っていたベンチからやおら立ち上がり、飲み干して空になった瓶を頭上高く掲げた。
「お前達もやれよ」
「「?」」
友之と貴文は俺の突然の行動に怪訝な表情でちょっと引いていたけど、俺は構わず続ける。
「俺はここに俺達の友情と全国大会優勝を目指す事を誓うぞ」
「「おう!」」
俺の意図に気付いた2人も立ち上がるとチェリオの空き瓶を頭上高く掲げた。そして俺達は空き瓶をクロスさせると誓いの言葉を叫んだ。
「「「クロスチェリオ!」」」
後になって思い返してみると、どうしてあの時3人揃ってこの言葉が出たのか不思議だ。ただ、貴文の家で貴文の兄ちゃんが俺達に見せた古いロボットアニメに主人公達3人が剣を頭上で交わし「クロスソード!」と叫ぶシーンがあり、似たようなシチュエーションだから思わずそう言ってしまったのかもしれない。
その後、俺達はみつば屋のおばあちゃん店主から「店先で騒ぐんじゃないよ!」と怒られてしまったため「すいませ〜ん」と言って現場から離脱したんだっけ。
〜・〜・〜
まぁ、その時は勢いから全国大会優勝なんて大それた誓いを立ててしまった訳だけど、それはあまりに無謀というか、夢見たいな話だ。俺は兎も角、友之も貴文も剣道初心者だ。しかも俺達が入部した市立五浦中学校男子剣道部にしても実績なんて何も無い部だしね。
なので俺達3人は自宅でそれぞれ筋トレや走り込みを、昼休みや部活動終了後などで剣道の特訓を始めた。俺は自分が剣術道場で得ていた技術や知識を友之と貴文に教え、自分は自分で更に技を磨き、土日には道場で稽古に励んだ。
そうした努力は身を結び、友之と貴文の実力はみるみる向上していった。そうなると危惧されるのが先輩達から目を付けられる事。俺は以前に全国道場少年剣道大会で3位入賞して剣道の雑誌にも掲載された事があったんだ。だから地元剣道関係者の間では割と知られていて多少目立っていたんだよね。
そうした訳でただでさえ目立っていたところで一年生の俺達だけの特訓、尚且つ実力も上がっているとなれば出る杭は打たれるの言葉があるように先輩達から「勝手な事してんじゃねえ!」と締められてしまう恐れがあった。
だけど意外な事にそうはならず。二年生の先輩達が
「面白い事してんじゃんかよ。俺達もまぜろや」
と言ってきて、特訓に加わる事に。
三年生の先輩達はそもそも部活動に熱心ではなく、且つ高校の受験勉強もあって俺達の特訓に無関心だった。
こうなると俺達3人の全国大会優勝を目指した「クロスチェリオの誓い」はいつの間にか男子剣道部全体の目標となっていた。
「という訳で中間試験の後は市の地区大会だから気合いを入れないとな!」
「という訳って、どういう訳なんだよ」
と、こんな掛け合いをしているのは友之と貴文だ。小学校の頃はよく一緒に遊んだ友達くらいの間柄だったけど、今じゃ親友にして同じ目標を目指す同士だ。
元々顔の作りがくっきりしたイケメンな友之は中二の今、背は伸びて部活と筋トレでガッチリした体格のワイルド系イケメンとなっていた。
貴文は小学校の頃はどちらかと言うと小柄で、秀才っぽい博士君少年だった。それが今や部活と筋トレ・走り込みで細マッチョの理知的クール系イケメンになっている。
そこに俺が加わっている訳だけど、俺の身長は2人の中間といったところの168㎝。筋肉は付いているけど着痩せしているかな。顔はいい方だと思うのだけど、妹の真樹曰く、
「お兄ちゃんはかっこいいけど天然だからなぁ。なんか女子とはそういう雰囲気にならなそう」
なのだとか。中一女子に何がわかるのかと思うけど、真樹の言うように告白とかされないし、俺にも今は好きな女の子は特にいない。
俺とは逆に友之と貴文は中学生になってから随分と女子にモテるようになっている。何度か古典的なラブレターから呼び出されての告白などアプローチもあったようで、二人曰く、
「適当に断っているけどな」
一度もそうした経験の無い俺からしたら羨ましい限り、断るなんて勿体無い話なんだけど。それを言うと、
「俺達はそれどころじゃないだろ?」
「そうだぞ。俺達には全国大会優勝と雪村高校進学っていう目標があるからな。女子と付き合っている暇なんてないんだ」
貴文の奴、言い切ったぞ。雪村高校は男子校だから更に女っ気無いけどな。
雪村高校入学、これは俺が立てた目標なんだけど、これもいつの間にか俺達3人の目標になっていた。同じ目標を持つ仲間がいるっていうのはいいものだね。
そう、努力するというのはこういう事なんだと思う。目標を持って一生懸命になる事で自分を高めるばかりか、周囲にも影響を与えて巻き込んで志を同じくする仲間が出来る。
俺は中一の頃、あのゴールデンウィーク中の部活帰りのみつば屋の軒下でチェリオを酌み交わし、かけがえの無い親友にして同士を得た。以来、あいつらと部活に勉強に忙しく過ごしながらも充実した毎日を送っている。そして中学二年生となった今、全国大会へのファーストステップである市の地区大会に向けて闘志を漲らせている。