卒業式、逆襲の岡田
「はぁ?」
私がこんな奴と付き合うとか、
「あり得ないでしょ?」
思ったままの事が言葉としとそのまま出てしまった。それを聞いた岡田は傷付いたような表情になるも謝罪の言葉を口にした。
「ごめん、美織ちゃん。俺はあの時どうかしていたんだ。念願だった聖ルチア男子中に合格出来て、要は浮かれていたんだ」
志望校に合格出来た喜び、それは私にもわかる。岡田にどんな夢や将来への展望があるのか知らないけど、中学受験は夢へ向かうためにはまず越えなければならない最初のハードルだから。
「でもあれは無いでしょ?あなたがあんな事言うから他の中学受験組まであなたと同じ事考えているって思われたんだよ?」
その誤解だって解きたいんだ。だから早く勇樹の元へ行かないと。
「それは申し訳無いと思ってる。だからまだクラスのみんなが校庭に残ってるから、これから一緒に行って謝って誤解を解こう」
「は?何で私も?それは岡田君がやった事なんだから一人で行ってよ。私は関係無いし、それに私は先を急いでいるって言ってる!」
岡田、何を考えているんだろう?いきなり付き合おうとか、一緒に謝りに行こうとか。私は岡田とここでこんな事している場合じゃないのに!
尚も岡田はしつこくあれしようこれしようと続ける。それでこいつが何もあの出来事について反省していないのがわかった。だったら何でこんな事を?まるで私の足止めでもしてるみたいで、ってそういう事か!
「いい加減にして!何でもあなた一人でやってよ!私にもう関わらないで!」
苛立ちから声を荒げても、岡田はニヤニヤ笑って気持ち悪い。
「だから青木は体育館裏にはいないって言ってるじゃないか。俺がやらかしてクラスの連中から弾かれてるのはわかってる。でも俺はもう市立中学に行く連中なんかどうでもいいんだ。だけど青木だけはどうしても赦せない」
「赦せない?勇樹があなたに何をしたって言うの?何もしてないじゃない」
岡田は私の言葉が耳に入っているのかどうか、一方的に思いの丈を喋り出した。
「俺はいつもあいつの下だった。勉強もスポーツも!俺がどんなに努力してもあいつには敵わない。それなのにあいつは大して努力もせずに俺よりも良い成績を取って、スポーツだって良い結果を出す。そんなの不公平だろ!そんなの赦せないだろ!」
う〜ん、その気持ちはわからないでもないかなぁ。だからといって岡田のした事はどうかと思うけど。
「中学受験に合格すればあいつの鼻を明かしてやれると思っていた。でもあいつ、急にやる気を出しやがって」
そう、勇樹は小学五年の2学期過ぎから何にでも一生懸命になって、顔がかっこいいのもあって文武両道の学校のアイドルみたいになった。
「折角聖ルチア男子中に合格しても俺に誰も何も言ってくれなかった」
それはあなたが地元進学組のみんなに負け犬だの何だの言ったからでしょ。
「だからせめて最後に青木の奴に復讐する事にしたんだ」
「復讐?」
どうも話が見えない。岡田の勇樹への逆恨みと私とどう関係するの?
「そう。美織ちゃんと青木の間が険悪なままであり続けるようにってね」
「あっ!」
そういう事か。なんて腐った奴なの、こいつは!絶対に赦さないから!
「俺は美織ちゃんの事が好きだった。でも美織ちゃんは青木の事が好きなんだろ?だから俺の手に入らないものは青木の手にも入らないように卒業と共に全て壊してやるんだ。長束も青木の事が好きでさ、俺がこの話を持ちかけたら最初は断ってたのに、迷った挙句結局乗って来やがった。長束は色々と美織ちゃんと青木の事を教えてくれたよ。今日の事とかもね。どう?幼馴染と仲直りも出来なくなって、友達にも裏切られた気持ちは」
「こんの!」
岡田の話を聞いた次の瞬間、私は怒りのあまり岡田の股間を思いっきり蹴り上げた。
「あがっ!」
岡田はくぐもった変な声を上げ、股間に両手を当てて前のめりになって悶絶。
得意げにベラベラと。結局、こいつの勇樹への逆恨みでしょ。私はこれでも地元で伝統空手を幼稚園の頃から習ってるんだから。私の邪魔をした報いを受けろ!
「最低な卑怯者!絶対赦さないから!」
私は倒れて悶絶する岡田には目もくれず、その場から駆け出し体育館裏へと急ぎ向かう。まんまとあの逆恨みクソ男の策にはまって時間を費やしてしまった。
そして私が体育館裏に着くと既に勇樹の姿は無かった。悲しみと悔しさで泣きそうになる。だけど泣いている場合じゃない。すぐにその場を離れると、私は勇樹の家へと走る。
勇樹の家、車庫に車が無い。呼び鈴を押しても反応は無く、もう旅行に出たようだ。ならばと、真樹ちゃんにレイルでメッセージを送ったけど送れない。
(そんな、真樹ちゃんにブロックされてる?)
真樹ちゃんにレイルをブロックされてしまった以上、今の私にはもう出来る事はない。
「ううっ」
鼻の中がつんと痛くなって目頭が熱くなる。泣きそうにかって漏れそうになる嗚咽を両手で鼻と口を押さえて必死で堪える。
(泣くな、泣いちゃだめだ私)
これは自分が蒔いた種。泣くなんて甘えは許されない。でも、私は諦めない、絶対に。必ず勇樹に謝って、赦して貰って、必ず仲の良かった幼馴染に戻るんだ。戻ってみせる!
私は鼻水を啜ると、留守宅となった勇樹の家を一瞥してから帰宅すべく自宅へと向かった。