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美織と勇樹

私の名前は有坂美織、小学六年生。この春から私立の聖ルチア学園附属女子中学校に進学が決まっている。この聖ルチア学園は県下でも有数の進学校で中高一貫、大学もあって余程成績を落とさない限りエスカレーター式に大学まで進学出来る。


私の父は医師で研究者だ。国立の研究所で研究職に就いている。私はあまり父の仕事に興味が無く、何でお医者さんなのに病院じゃなくて研究所に勤めてるの?と不思議に思うほどだった。


それでも何となく自分も将来はお医者さんになるのかな、なんて漠然とは考えていた。それが小学四年生の春休みに父の所属する研究チームが癌の画期的な治療法を確立したと発表した事で自分の将来と真剣に向き合う事となったのだ。


それは遺伝子操作して癌細胞だけに寄生するウィルスを使う治療法。そのウィルスは寄生した癌細胞を自死させるとウィルスも自死するとかなんとか。


小学四年生だった私にはよくわからなかったけど、それで多くの癌患者が助かると母から説明されて父が凄い研究者だという事を理解した。


私は自分の父がそうした凄い医師で研究者である事を誇らしく思ったけど、それまで自分が父の仕事に興味を持たなかった事を恥じた。そして同時に私も父のような医師で研究者になりたいと真剣に思うようになった。


だから私は両親に大学の医学部に進学したいと自分の決意を告げた。両親は私の思いが真剣なものだと感じ取ったようで、私は進級した五年生から進学塾に通う事となったのだった。


希望がかなって進学塾に通えるようになった私だったけど、正直言って私は進学塾や受験勉強というものを舐めていたと思う。


自分で言うのも憚れるけど、私はそれまで学校の成績は良くて、今までも塾なんて通わなくてもそうした成績を維持出来ていた。勉強でわからない事は両親に訊けば教えてくれたし、いつも幼馴染の男の子と宿題をしていたから頭の良い幼馴染も勉強を教えてくれていたから。


でも進学塾の学習内容は学校の勉強よりも難しくて、更に先の内容に進んでいた。宿題も多くて、私は忽ち学校の勉強と塾の勉強とでいっぱいいっぱいとなり心の余裕を失ってしまった。母はそんな私の様子を見て無理しなくてもよいと言ってくれたけど、これは自分から言い出した事だからと心の余裕の無いまま進学塾に通い続けた。


また、それに加えて私にそうした状況から引くに引けない事情が出来てしまったのだ。


それは私の幼馴染の事。彼の名前は青木勇樹といい、近所に住む私と同い年男の子で生まれた日も一ヶ月違い(彼の方が先)。勇樹には1歳下の妹真樹ちゃんがいて、私と勇樹と真樹ちゃんの3人は保育園からずっと一緒。母親同士も昔から友達で、私達は幼馴染というよりも家族か兄妹のようにして育った。


ここで「兄妹」という表現を使ったのは一応勇樹の方が先に生まれているから。だけどのほほんとしている勇樹より私の方がしっかりしている。なので私こそ3人の中での姉ポジションだと思っている。


〜・〜・〜


勇樹は幼い頃から器用で頭が良かった。何でも一度見て自分でやってみればできてしまうし物覚えも良い。保育園でもすぐに読み書きが出来るようになったし、他の園児が数を数えるのに指を使っていたのに対して勇樹はすらっと暗算出来てしまうほど。周囲の大人達は天才だ、なんて言っていた。


勇樹は他の園児には割と冷淡だったけど、幼馴染の私にはとても優しかった。そんな勇樹が私だけ特別扱いな事に私は凄く自尊心が満たされたのを憶えている。顔も凄くカッコ良かったし、私は幼心にも勇樹の事が好きになっている事を自覚していた。勿論、そんな事は恥ずかしいから言葉にはしなかったし、ましてや結婚したいなんて事も思ってはいても口にはしなかったけど。


小学生になっても勇樹は勉強も運動も出来てクラスの人気者。おまけに近所の剣術道場に通い出してカッコ良さも増した。クラスの女子達から随分と好意を寄せられていたけど、勇樹は例によって淡々としていてあまり取り合わず、仲の良い女子は私だけ。そのため、一度私は嫉妬した女の子達からいじめられた事があった。


ところが私へのいじめ行為は3日もしない内に無くなった。多分だけど、私がいじめに合っている事に気付いた勇樹が裏で解決したのだろう。勇樹は知らん顔していたけど、私にはわかる。どうしてかといえば、私が勇樹に「いじめから助けてくれてありがとう」と言うとすっとぼけながらも左手で左耳たぶを弄っていたから。それは勇樹が何かを誤魔化す時の癖なんだ。


小学校も中学年になると私達も徐々に男子と女子に分かれて遊んだりするようになり、勇樹は以前よりも男子の友達と一緒に遊ぶ事が多くなった。


この頃の勇樹は相変わらず大して頑張らなくても軽々と何でも出来てしまうから何かに夢中になるような事は無く、ゲームで友達と遊んでばかりだった。私が冗談で「何でもすぐ出来ちゃって狡くない?」と揶揄い半分に抗議しても、「何がだよ?」と勇樹は取り合わないで飄々と応じられてしまったけど。


〜・〜・〜


小学五年生になってすぐの頃、私に生理が来た。これは事前に小学校の男女別々授業で教えられていたから、それが自分の身に起きて驚きはしたものの比較的冷静に受け止める事が出来た。


すぐに母に知らせると、母は既に私用に生理用品を用意してくれていて、使い方も教えてくれた。ただ、下腹部の重く鈍い痛みは辛いものがあって、母は痛みがどうしても我慢出来ない時に服用するようにと鎮痛剤を渡してくれた。


生理が来たという事実、具体的には便器を染めた経血、倦怠感と下腹部の痛みにより私は自分が女なんだと思い知らされた。


それまでは幼馴染の勇樹といつも一緒にいて、仲の良い家族同士で旅行やキャンプに行き、お泊まり会で一緒にお風呂に入ったり、一緒の部屋で布団を並べて寝たりなんてしょっちゅうだった。(「たり」は重ねて使う)


だけど私に生理が来た以上、それまで通りという訳には行かない。私は女の子で勇樹は男の子。幼く楽しかった日々は私の初潮によって終わりを告げられてしまった。その事に思い至った私は折角母がお祝いにと用意してくれたご馳走やケーキを味わう事が出来ず、その夜はベッドで一人泣いてしまった。


翌日、一緒に登校する勇樹は勿論私の初潮に気付く事は無かった。だけど私は勇樹が経血の臭いに気付いてしまうのではないかと怖くなってしまった。あまり周囲の事に興味を抱かない勇樹だけど、私へのいじめにいち早く気付いたように勘が鋭い事もある。私はその日から少しずつ勇樹と距離を置くようになった。


まず登校は一緒にするにしても勇樹の妹の真樹ちゃんと話しながらするようにして、下校は女子の友達と。次第に登校も女子の友達とするようにし、クラスでも勇樹との接触は必要最低限にした。それで勇樹が私にどうして自分を避けるのかと問い詰められるかと心配になったけど、勇樹がそうする事は無かった。


私が勇樹を避けるようになると、勇樹は真樹ちゃんと登校。クラスでは私と離れた分男子の友達と過ごすようになっていた。


私の事情で私から勇樹と距離を置いた。私が勇樹を避けた。だけど、私がいなくてもまるで問題無いように過ごす勇樹に私は猛烈に腹が立ってしまっていた。これが理不尽な怒りである事はわかってる。少しは寂しがったり、何故自分を避けるのかと尋ねて来たっていいじゃない!こんな理不尽な怒りから、私は更に勇樹を避けるようになった。


そして私は小学五年生になると同時に中学受験のため進学塾に入塾した。父のような医師になるべく大学の医学部を目指しての事。塾の勉強は難しくて宿題も多く、私は次第に心の余裕を失っていった。


そんな梅雨明けした7月のある日の事、私はクラスで同じ塾に通い仲良くなった女子友達と塾へ向かう途中、通りかかった公園で滑り台の上で男子の友達とだらしなくゲームで遊ぶ勇樹を見かけてしまったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 他の人も言ってるけどヒロインに容姿以外で良いところが無い 何でわざわざこんなに魅力が無いヒロインにしたのか理解に苦しむ
[一言] これは幼馴染ひどすぎる案件…。 主人公視点での卒業式までの事もあるし全く救いがない…。
[一言] 先が気になる、、、 完結するまで時間進まないかなw
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