9 祖父の見解
結局それ以降は何も起きず、ミミとぬいぐるみの妖精たちは自ら管理しているシェアハウスに帰宅した。
もちろん、シェアしているミミのおじいちゃんがいる。
ミミは、おじいちゃんが嫌いではなかったが、とにかく人間の姿をしていないため、顔を合わせると気分が重くなることもある。
「机を調べても、モンスターはいなかったか……魔術の痕跡がどんなものか、ミミは知っているのかい?」
口元をぶるぶると震わせながら、ミミに入れてもらった緑茶をすすり、おじいちゃんであるボトム、またはロバ男が尋ねた。
「えっ? だっておじいちゃん、モンスターが出たのよ。だったら、モンスターの目玉とか、爪とか前歯とか、そういうんじゃないの?」
「ふむふむ……モンスターの目玉とか、爪とか、前歯を探していたんだね……ウィプス、どう思う?」
「そんなの探していたなら、見つかるはずないぜ」
「えーっ……だって……」
「ミミに注意しなかった私たちが悪かったのでしょうかね」
セルキーが追い討ちをかける。
「だって、だって……」
ぬいぐるみの妖精たちは、力の節約と称してぬいぐるみのままである。つまり、ミミはぬいぐるみに諭されているのだ。
「僕はミミと同じものを探していたよ」
「プーカ」
ミミはおっとりしたぬいぐるみを抱き上げようとした。
「嘘はいけない」
「ごめんなさい」
ボトムの指摘に、ミミが沈み込むように凹む。
「まあ、俺もちゃんと説明していなかったからね。ドルイドたちは、オーベロンと契約していると言ったろ? オーベロンは魔王って呼ばれているが、実際の力は大したことはない。でも、知識がすごいのさ。好きな相手を振り向かせるには、どんな草に何度満月の光を浴びせたか、その草を何度のお湯で煎じ、相手のどこの部分に塗ればいいか、全部知っているんだ。だから、ドルイドもモンスターを呼び寄せたり、操ったり、そんな特別な力があるわけじゃないんだよ。ただ、どうすればモンスターを出現させることができるか、その知識をオーベロンから教わって、ミミたちを襲わせているんだ」
「私を襲わせて……ドルイドはなんの徳があるの?」
「俺にはわからないな。でも……好きな人を振り向かせる方法も、お金が自然にたまる方法も、賭け事に勝つ方法も、確実に実現させられるってことなら、望みはなんでも叶えられるってことさ」
「じゃあ……ドルイドは、オーベロンに叶えて欲しいことがある人なんだね」
「そうだと思うよ。ミミは賢いな」
ロバ男はブルヒヒンといなないて、ミミの頭を撫でた。
「机の中から、人の手が出てきて、隣のクラスの子を掴んだの。どんな魔術かなあ……」
「俺はドルイドじゃないからわからないけど……オーベロンは魔王とよばれる前は妖精王だった。妖精は、人間がめったに入ってこられない、深い森の中に住むものって相場が決まっていた」
「植物か昆虫か……動物の死骸とかかもしれないな」
セルキーが分析する。
「……そんなの、探したくないなあ」
「ミミが探していたものより、ずっと普通だと思うぞ」
ウィプスが呆れた声を出し、ミミは思わず納得していた。たしかに、モンスターの体の一部より、草や虫の方が自然だろう。