8 無人の教室で
保健室を出ると、教室から離れた場所にあるためか、人影はなかった。
ミミはぬいぐるみたちに尋ねてみた。
「チカちゃんのこと、どう思う?」
「NHKに怒られるぞ」
「相手にされませんよ」
「えっ? えっ? なんのこと?」
ウィプスとセルキーの言葉を遮る。
「顔に、赤いあとがついていたよ。あの娘が言ったみたいに、机から手が伸びて、掴まれて引っ張られて顔を撃ったとしたら、機嫌も悪くなるよね」
いつものんびりしているプーカがまともな意見を言った。
「うん。そうだね。とにかく、休み時間のうちにチカちゃんの机を見てみよう。了解してもらっているしね」
「隣のクラスだろ? 怪しまれないか?」
「今更ですよ」
ウィプスとセルキーの会話は無視して、ミミは廊下を急いだ。
※
幸いにもチカのクラスは体育の授業中だったらしく、すでに着替えて外に出ていたため、誰もいなかった。
問題は、ミミはチカの親友ではないことだ。隣のクラスの座席表まで覚えていない。
どの机がチカの机なのか、わからなかった。
「覗くだけなら、時間もかからないよ。手分けしよ」
「おっ……さすがミミ、妖精の女王の孫っぽいぜ」
ウィプスが茶化しながら、男の子の姿に変身する。ミミがカバンから男子用の服を取り出して投げつける。
「ロバ人間の孫でもありますけどね」
セルキーが変身した。
「そのうち、ミミもああなるのかな」
「辞めて」
ミミが珍しく暗い声を出し、プーカに向けて服を投げつけた。もろにプーカの体を見てしまったが、流石に慣れていた。
ミミとぬいぐるみ妖精の三体が、端から順に机の中を物色する。
半分ほど見たところで、セルキーが尋ねた。
「授業、始まっていませんか?」
「えっ? 始まっているよ」
『それが何か?』と思いながら、ミミは尋ね返した。
「ミミはクラスに戻らなくていいのか?」
「だって、体育はこのクラスと合同だもの」
つまり、ミミのクラスも体育のために外に出ているのだ。
「いや……ミミは体育の授業に出なくていいのか?」
「モンスターを探すのが先でしょ」
「まあ、そうなんだが……」
ミミは手を止めない。もちろん、授業に出たくないので、まじめにモンスターの痕跡を探すふりをしているのだ。
結局、チカのクラスの机を全て調べたが、モンスターはいなかった。