5 おじいちゃんたち
ロバ男に『おじいちゃん』と言って甘える気にもなれず、ミミは授業に戻ることにした。
ロバ男ボリスはどうするのだろうと心配に思って振り返ると、ボリスは嬉々としてポケットの中からゴミ袋を取り出して頭から被っていたので、放っておいても大丈夫だと判断した。
ミミに従う3人の妖精が再びぬいぐるみの姿に戻ると、ミミは3人分の男物の服を畳んで鞄に詰め直してから教室に戻った。
すでに授業は次の時間割に移行しており、教室に戻ったミミに、教師は何も言わなかった。
※
この日はそれ以降、ドルイドの襲撃もロバ男との遭遇もなく、学校が終わった。
生活のためにシェアハウスの管理人をしているミミは、部活や学校の行事からほぼ解放されている。その辺りは、先生たちもクラスメイトも配慮してくれているのだ。
学校の門でロバ男が待っているかもしれないと警戒したが、ロバの影とも知り合いとも会わずに、ミミは自分で管理しているシェアハウスに戻った。
まだ時間が早いので、誰もいないはずだ。
そのはずだった。
「お帰り。早かったな」
シェアハウスでミミを迎えたのは、ゴミ袋を外したロバ男だった。
「おじいちゃん、ただいま」
「すぐに着替えて来なさい。食事にしよう」
ちゃっかりとミミのエプロンをつけて、フライパンを片手にしたロバ男が背を向ける。
「待ってよ! どうして家にいるの! ドレスコード……」
「待て! 待て待て待て待て!」
ロバ男が慌ててミミの声を遮った。
「俺はモンスターじゃない。おじいちゃんだって、認めてくれただろ?」
「……認めてないもん」
ミミの前に滑り込むように、ロバ男が土下座をした。
「しばらく、ここに置いてくれ。どうせ、部屋は余っているんだろ?」
「……余っているけど……」
「なら、問題なしだ」
「……ロバ男がいるシェアハウスなんて、余計に人が来なくなるよ……」
「心配ない。俺だって、一人じゃないぜ」
ロバ男が親指を突き出すポーズを決めた。
「……誰か一緒なの?」
「もちろんさ。おーい。ここに住めるぞ」
「やったゲコ」「パオーン」
リビングにいたらしい二人が顔を出した。明らかに人間の体に、首から上がカエルと象に変えられている。
「……誰?」
「さっき話したろう? 俺と同じ、タイターニアの元亭主さ。二人とも、孫に会いに来た」
「……孫って……」
「仕方ないだろ? なぜか、ミミの学校に孫たちが固まっているんだから」
「いやーーーーーっ!」
ミミと同じ、ぬいぐるみの妖精を操る学友を思い出し、ミミは絶叫とともに頭を抱えた。