3 初対面のおじいちゃん
ミミがヒートスピリアルを解除して制服姿になると、逆にぬいぐるみの姿をしていた3人の妖精が人型に変わった。いつものように全裸だったが、ミミのカバンの中にはいつも3人分の服が入っている。
つまり、ミミは教科書や筆記用具は学校に置きっ放しなのである。
「あっ……起きた」
同年代の男子にしか見えない3人の着替えを見るのは、ミミには刺激が強い。
背を向けて、他に見るものもないのでロバ人間を見続けていたミミが、真っ先に気づいた。
「おお……本当だ。おい、ロバ男、お前はドルイドが放ったモンスターじゃないのか?」
普段はぬいぐるみで、ミミとヒートスピリアルに変身する少年姿の妖精ウィスプがやや乱暴に、目覚めたばかりのロバ男に声をかける。
「……んっ? ドルイドを知っているのか……」
「うん。迷惑しているよ」
ミミが相槌を打つ。
「俺のせいじゃない。関係ないこともないが……ドルイドは妖精の女王タイターニアの力を狙う魔王オーベロンの配下の奴らさ。俺は違う。さっきも言ったろう。おじいちゃんだよ」
「ちょっと待って。ロバのおじさんが私のおじいちゃんってことは……妖精の女王がおばあちゃんなんでしょ? ロバのおじさん……妖精の女王と結婚していたってこと?」
ミミは混乱していた。ぬいぐるみたちに妖精の女王タイターニアが祖母だと聞かされただけでも混乱していたし、未だに実感がないのに、おじいちゃんまでやってきたのだ。
ロバ男はおずおずと切り返した。
「結婚はしていない。タイターニアと結婚していたのは、オーベロンだけさ。今じゃ魔王とか呼ばれているけど、昔は妖精の王って名乗っていた。力のタイターニアと知識のオーベロンで、昔の世界はうまく治っていたものさ……らしいよ。俺みたいな普通の人間は、誰が世界を治めているのかってことすら、知らないんだからさ」
「おじさん……おじいちゃんだっけ? 全然『普通』じゃないよ」
「ミミ、それは言ってはいけないんじゃないか?」
水の精霊セルリーが冷静に突っ込む。
ロバ男はブルブルと唇を震わせた。
「俺は普通の人間だよ。ただ……首から上がロバってだけさ」
「……普通じゃないじゃん」
「もともとは人間の顔だったんだ。パックっていたずら妖精の仕業だって、本にだってなっているんだぜ。元々は、ニック・ボトムって名前なんだ。まあ……本じゃあ、元の顔に戻って、タイターニアとオーベロンはよりを戻したってことになっているけど、それはいい感じに話をまとめるための創作だ。実際には……パックの奴、人間の頭を動物に変える方法は知っていても、戻す方法は知らないときているんだ。タイターニアはオーベロンと喧嘩ばかりしているし、俺はタイターニアのストレス解消にベッドに引き摺り込まれて、知らないうちに孫までできているって体たらくさ。本当は俺だけじゃない。俺の孫はあんただけだけど、他にもカエル男とか象男とか、タイターニアとオーベロンが喧嘩するたびに犠牲者が増えている。今じゃすっかり別居しちまって、オーベロンはタイターニアの力を手に入れるため、人間と契約して孫娘たちを襲わせているってところなのさ。その契約した人間たちが、ドルイドって呼ばれているのは、俺も知っているよ」
ロバ頭のニック・ボリスは、長い言葉を言い終わると、再びブルブルと口を震わせた。