2 ヒートスピリアル
ヒートスピリアル姿のミミが、ロバ人間の手を掴んで外に飛び出した。
「ミミ、飛ぶと余計に目立つ。最短距離で移動するなら、上だ」
ミミの鞄に結わえつけられていたぬいぐるみのうち、セルキーが指摘した。
鞄は机にかけてあった。授業中にまで鞄を握っているわけではない。では、鞄にゆわえ付けられたままのセルキーがどうやって助言したのか。
「うん!」
ミミは気にせず、力強く返事をすると上昇しようとした。
ミミの鞄も空中にあった。ぬいぐるみの妖精である二人、セルキーとプーカが力を振り絞って付いてきたのだ。
「『うん』じゃない。先に助けてくれーっ!」
空中に飛び出したところで力が尽きたプーカとセルキーが落下していく。プーカが叫んだようだ。
「……あっ」
ミミがロバ人間の手を掴んだまま、とんぼ返りを打って鞄を掴む。旋回して上昇した。
「ミミ、どこまで上るつもりだい?」
ヒートスピリアルとなったミミは、どこまでもどこまでも、上昇し続けていた。
「最短距離でってセルキーが言ったじゃない。あの雲まで行けば、周りからは見られないよね」
「雲まで何キロあると思っているんだ。屋上でいいだろ」
「えっ? な、なら、そう言ってよ」
ミミが止まった時には、学校ははるか足元に消えつつあった。
「そもそも、雲の中で何をするつもりだったんだ」
普段は陽気なプーカですら、呆れながら尋ねた。
「雲の中に入れば、落ち着ける場所ぐらいあるでしょ?」
言いながらも、ミミは降下を始めていた。
「雲は水蒸気の塊だから、何もないぞ」
「嘘だもん。雲の中には、島があったりお屋敷があったり、するんだもん」
ミミは頬を膨らませた。
「妖精の俺たちが言うのはなんだけど……それは夢だ」
「えっー!」
ミミが抗議しようとした時、学校の屋上についた。
「ロバさんはどう思う?」
「ミミ……聴いても無駄だ」
セルキーが指摘する。どうしてかとミミは尋ねようとして、その意味がないことを理解した。
ロバ人間は、空中で振り回された衝撃で気絶していたのだ。