17 決戦
翌日、ミミは国語の授業中に音楽室にいた。
モンスターの居場所がわかったのだから、そもそも授業中にくる必要はなかった。
だが、ミミはあえて、午前の3時間目を選んだのだ。
「ミミちゃん、どうして……こんな時間に呼んだの?」
ミミとは違い、優等生の相馬トモは、授業中に集合させられたことに、若干怒っているようだった。
「だって、国語の先生怖いんだもん」
「それが理由?」
トモの声が裏返った。
「う、ううん。違う。誤解……じゃなくて言い間違え。こ、この時間じゃないと……ええと……でも、トモちゃんはよく来られたね」
「まあ……授業が体育だったからってのもあるけど、同じクラスのチカちゃんが、どうしても行けって言うから。『ぼーっと生きているんじゃねーよ』って言われちゃった。私、クラス委員長なのに……」
「ああ……刈り上げの……チカちゃんと同じクラスだっけ?」
「知らなかったの?」
「……うん」
ならば、チカが机の中に連れていかれそうになったときにも、トモは目の前で見ていたことになる。
「チカちゃんの仇を打とう」
「チカちゃん、まだ死んでないけどね」
ミミは聞こえていないふりをして、音楽教室の壁に向かった。
※
音楽教室には、肖像画が飾られていた。
その多くは白髪である。
実際には、昔の音楽家はヨーロッパの貴族階級の人が多く、白い鬘を被っているのだが、ミミにはわからない。
ほとんどが白髪頭の中、一人だけ、黒髪の肖像画があった。
日本人の作曲家だ。
ミミは、その肖像画の前に立つ。
「ミミちゃん、ここ……なんか変だよ。見られているみたい」
トモには、なんの説明もしていない。ただ呼び出しただけなのだ。
それなのに、違和感を持っているらしい。それだけ敏感なのだろう。
「見ていてくれなくちゃ困るんだ」
肖像画の目玉が動く。ミミは、その様を笑って見ていた。
「さあ……大事な髪が、燃えちゃうぞー」
「えっ? ミミちゃん、何をしているの?」
トモが心配する前で、ミミはバックからチカから貰った黒く細い糸を取り出す。
手に持ち、肖像画に見せつける。
肖像画は動かない。
「何も起きないけど……」
「私だけでなく、トモちゃんもいるから、警戒しているんだよ。だから……ウィプス、燃やしちゃって」
肖像画の目がくわと開かれた。だが、ミミのカバンにぶら下がったまま、ウィプスは首を降った。
「ぬいぐるみのままじゃ無理だ」
「人化すればいいじゃない」
「モンスターの前で、無防備に真っ裸になれるかよ」
「仕方ないなあ。ドレスコード・スピリット」
「ミミちゃん、学校でなにをしているの?」
トモが悲鳴にも似た声をあげる。
「ヒートスピリアル」
ミミがびしっとポーズを決めた。
「学校で、学校でスピリアルだなんて……」
トモの動揺を気にせず、ミミは炎を操る。
ミミが手にしていた細い糸が燃える。
「やめろオォォォォォォォ」
肖像画から腕が伸びた。もはや、肖像画の腕ではなかった。
「やめて欲しかったら、そこから出てきなさい」
「ちょっと、ミミちゃん、私が死んじゃう」
「トモちゃんも変身しなよ」
「だ、だって、学校だよ」
「モンスターが学校にいるんだから、仕方ないじゃない」
「う、うん……そう……なのかな。ドレスコード・グレイ」
トモの体を風が巻き、相馬トモがウインドスピリアルへと変じた。
その間にも、肖像画から長い腕が伸び、蜘蛛のような格好のモンスターが這い出てきた。
「見つけちゃえば簡単。さっ、トモちゃん」
「う、うん」
ヒートスピリアルとウインドスピリアルが手を取り合う。
相性がよく、教室のスプリンクラーが稼働するまでの間に、二人は音楽室を全焼させた。
二人は人目につかずに飛び去ったが、後日、ロバ頭の保護者に連れられ、音楽室を燃やしたことを校長先生に謝罪した。




