16 前夜
散々な1日を終え、ミミが帰るといつものように祖父がブルヒヒンと出迎えてくれた。
最初の頃は、近所の目も気にせずに外出するロバ頭の祖父だったが、次第に近所で噂になっていることに気づき、家にいることが多くなっていた。
シェアハウスだが、利用者がほとんどいないため、部屋はある。
祖父が同居するようになって、ミミはますます人の募集が難しくなったような気がしていたが、気にしても仕方がない。
何より、首から上がロバであることを除けば、ミミは祖父のことが嫌いではなかった。
「ミミ、おむすびとカップラーメン、夕食はどっちがいい?」
「うーん……両方じゃだめ?」
「食いしん坊だなあ。育ち盛りだから仕方がないな」
祖父はブルブルと唇を震わせながら夕食の支度をする。
祖父のする料理は、料理と呼べるものではなかったが、ミミが何もしなければ、食べるものを用意してくれる。
一度だけ、庭の草をむしって皿に載せたことがあった。
ミミは、祖父から仕打ちを受けたと思って泣き出してしまった。
祖父は慌てて自分の皿と取り替え、祖父は山に積まれた雑草を完食した。祖父の皿にもむしられた雑草が乗せられていたので、ミミはその日は食事にありつけなかった。
「どうした? 元気がないじゃないか」
「うん……おじいちゃん、これが何かわかる?」
夕食の支度をしている祖父を、ミミは台所のテーブルで座って見ていた。
いつもなら、夕食の支度をする祖父をミミが制止しないことはない。
そのミミがぼんやり座っていたことから、元気がないと考えたのだろう。
ミミの表情から元気がないのだと判断するほど、ロバの目がいいとは思えない。
「学校の宿題って奴だな。おじいちゃんに任せておけ。ふんふん……」
ミミが渡したのは、細く黒い糸の束だ。保健室でチカがくれたものである。
チカが言うには、机の中から手がのびたが、机の中に顔があるようだったので、むしりとってやったらしい。
「おじいちゃん、舐めたりしたら危ないかも」
「そうなのか? ミミの学校はけしからんな。ミミに、カツラの毛を調べてこいっていうのかい?」
「カツラの毛? 間違いないの?」
ミミは、モンスターの頭髪だと思っていた。祖父に渡したのは、ただ何となくである。
祖父になにかできると思っていたわけではない。
「ああ……味でわかる。生物の体から生えたものじゃない」
「カツラかあ……音楽室と……机の中から、手を伸ばした……ウィプス、セルキー、プーカ」
「ああ」
「そうだな」
「どうしたの?」
カバンから解放されたぬいぐるみたちが反応する。約1名理解していないが、ミミには十分だった。
「おじいちゃん、ありがとう。モンスターの正体がわかったわ。ちょっと行ってくる」
「明日にしなさい」
「えっ、でも……」
「夜にモンスターを倒したりしたら、授業をサボれなくなるよ」
「あっ……そうか。そうだね。せっかくだもの。勿体無いよね」
「その説得の仕方は、身内としてどうかと思いますね」
セルキーの表情はわからない。なにしろ、ぬいぐるみだ。
「この祖父にして、この孫ありといったところだろう」
「ミミらしくていいじゃない」
「明日、トモちゃんも誘おう」
ミミは、同じく妖精の女王の血をひいた同学年の親友を思い出していた。




