13 襲撃
ミミは保健室に残された。
手の中には黒く細い紐の束がある。
「これ……なんだろう」
いつもなら、ぬいぐるみの姿をした妖精たちが答えてくれる。
ミミが本当の意味で一人になるのは珍しいのだ。
現在は誰も答えてくれない。
ウィプス、セルキー、プーカの3人は、ぬいぐるみとしてミミのカバンに括られている。
自分で移動することもできるが、ぬいぐるみが自力歩行していると、騒ぎになりかねない。
人間の姿をとることは、ミミがそばにいないとできない。
「……教室に戻ろう」
机の中から覗いた瞳と声を思い出し、体が震えた。
まるで、ミミを探していたようだった。
ぬいぐるみたちと離れているのは危険だ。
ミミはチカからもらった糸の束を握りしめ、保健室のベッドから下りた。
※
教室に戻ると、ミミは誰もいないことに驚くと同時に安堵した。
人がいた方が安全であることは理解しているが、教室で気絶したミミにどんな言葉が投げられるのか、想像するのも怖かったのだ。
ミミが戻ると、誰もいないはずの教室でがらがらと音がした。
机が動き、椅子が倒れた。
誰もいない。そのはずである。
「……ひっ」
ミミはへたり込んだ。
「ミミ」
ミミの名前を呼んだ。
「ヒャァァァァー!」
「よかった。無事か?」
「ふへっ?」
ミミが伏せた頭をあげると、目の前にいつものぬいぐるみたちがいた。
ぬいぐるみたちはカバンにしばられている。
ミミが教室に戻ったのを見て、3人が争うように駆けてきた。
しばられているのでミミのカバンを引きずり、ぶつかって机を弾き飛ばし、椅子を倒したために騒音が出たのだと理解した。
「く、クラスのみんなは?」
「……さあ?」
「どこかに行ったな」
プーカとウィプスが首を横に倒す。
「時間割は?」
セルキーが問うと、ミミは思い出した。
「あっ……音楽だった。じゃあ、音楽室か……どうしようかな」
ミミが授業に戻るか、あるいはこのままサボってしまおうかと悩みだすと、セルキーが指摘した。
「ミミ、何を持っているんだ?」
「ああ……これ? チカちゃんにもらったの。なんだか、掴んだら逃げたんだって」
「なんだろう? 黒くて、細いね」
「髪の毛みたいだな」
プーカとウィプスが顔を近づける。
「じゃあ……モンスターの髪かな?」
「ひゃっ!」
モンスターの髪の毛を掴んでいたと思ったミミは、思わず払ってしまった。
ふわふわと、漂いながら髪がばらける。
「まあ……この髪がモンスターになるわけじゃないし」
セルキーが拾い集めようとして、カバンに繋がっている紐に繋がれてひっくり返った。
「じいちゃんに見せてみようぜ」
「う、うん。そうだね」
ウィプスの主張にミミが納得して、髪をつまみながら拾い集めたところで、廊下をけたたましく鳴らす足音が響いてきた。
「あっ……授業終わったのかな? あれっ? チャイムが鳴っていないのに……」
「ミミ、違うぜ」
ウィスプが断言した。
「えっ?」
「モンスターだ!」
誰かの声が響いた。
どうやら、ウィプスは正しかった。




